第Ⅱ章 第21話 ~結局僕は、死ぬ直前まで弱虫だった……ッ~


「俺はサガムさ。貴様の死に神だッ」

 直後、死に神ことサガムが一気に打ちかかってくる。とっさにノイシュが片手剣かたてけんかまえた直後、耳をつんざく剣戟けんげきが鳴りひびくとともに眼前で火花が散った。


「はああぁェぁ――ッ」

 裂帛れっぱくの気合いを発したサガムが再び大剣をり下ろしてきた。ノイシュは懸命けんめいに受け止めるが、その余りの強い太刀筋たちすじにたまらず両肩りょうかたまでが悲鳴を上げる――


「どうだ、増強ぞうきょうされたおれ腕力わんりょくは……っ」

 そう告げながら死に神の戦士が容赦ようしゃなく剣閃けんせんを放つ度、ノイシュは自らの構えた剣が下がっていくのを視認しにんした。とたんに胸の中で黒い不安がき上がっていく――


――くッ、だめだ……っ

 思わずノイシュは眼を細めた。もう両腕はしびれて力が入らず、不意に剣を落としそうになるのを何とかこらえる。反撃はんげきを試みようにも幾度いくどとなくおそいかかってくる猛攻もうこうふせぐのがやっとだった――


 次の瞬間しゅんかん、放たれた剣の軌道きどうがこれまでとちがう事にノイシュは気付いた。その凶刃きょうじんがまっすぐにき出されていき、こちらの剣下へとまれる。しまった、と思う間もなく一気に相手の大剣が振り上げられていく。瞬時しゅんじてのひらから肩まで振動しんどうがはしり、頭上で上空へとはじき飛ばされていく片手剣を視認する――


 流されるままに自らの剣をノイシュがで追っていくと、不意に上体を反らしながら大剣を振り上げるサガムの姿を視認した。全身にふるえがはしるのを感じ、とっさにノイシュは左腕を頭上へとかかげた。ゆがんだ笑みをかべるサガムの表情が掌でかくれた刹那せつなの後、左腕から鈍い衝撃しょうげきが生じる――


「うあああぁァェァ――ッ」

 ほね破砕音はさいおんが脳内で響き、同時に強いしびれが左腕をけめぐった。眼前へと地面が急激にせまり、額から打ちつける。い上がった砂塵さじんを大量に吸いみ、否応いやおうなくきこんだ。どうにか立ち上がろうとするが、られた腕からは多量に血があふれ出し、ける様な激痛げきつうが全身をしばって声さえ出せない――


――やっぱり、ぼくは一人じゃ何もできないんだ……ッ

不意に目頭が熱くなり、ノイシュは次々となみだほおつたっていくのが分かった。何とか止めようと思うものの、溢れる感情がどうしても言うことを聞かない。ノイシュはもう一方の掌を強く握った。胸中には痛みと無力感の感情が渦巻うずまいており、どうして良いかさえもう分からない――


――結局僕は、死ぬ直前まで弱虫だった……ッ

不意にノイシュの脳裏のうりから義妹いもうとの姿がかんだ。ずっと一緒に過ごし、そばにいた少女は微笑ほほえみながら真っ直ぐに翠眼すいがんのまなざしをこちらに向けている――


――ミネア……ッ

 涙でかすんだ視界の先に立つ義妹いもうとが、静かに口を開いた。

「生きて、ノイシュ……ッ」


 幻想げんそうの発した声が明瞭めいりょう耳朶じだを打ち、ノイシュが思わず眼を見開くとそこには真紅しんくの戦士服に身を包んだ少女がいた――

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