第Ⅰ章 第15話 ~マクミルッ、躱《かわ》せ――ッ~


~登場人物~


 ノイシュ・ルンハイト……本編の主人公。男性。ヴァルテ小隊の術戦士で、剣技と術を組み合わせた術剣の使い手



 ミネア・ルンハイト……ノイシュの義妹。女性。ヴァルテ小隊の術戦士で、霊力を自在に操る等の支援術の使い手



 マクミル・イゲル……ヴァルテ小隊の隊長。男性。ヴァル小隊の術戦士で、増強術という支援術の使い手



 ウォレン・ガストフ……ヴァルテ小隊の隊員で、戦士。男性。あらゆる術を無効化する術耐性の持ち主



 ノヴァ・パーレム……ヴァルテ小隊の隊員で、術士。女性。様々な攻撃術の使い手



 ビューレ・ユンク……ヴァルテ小隊の隊員であり、術士。また修道士でもある。女性。回復術の使い手



 エスガル……レポグント王国の大神官。バーヒャルト救援部隊の指揮官。男性。術士






「はあああぁぁッ……」 

 不意に力強い気合いを耳にしてノイシュが顔を向けると、戦士服を翻して敵戦列に肉薄するマクミルがいた。直後に彼と対峙する敵兵達の身体が一閃、光芒こうぼうが四散するや骸戦士むくろせんし達もまたマクミルに向かって突進を始めた。きっと彼等も敏捷びんしょう増強術を使ったのだろう、互いの動きが影を引くほど素早い――


 やがて最前列の死霊しりょう兵とマクミルがともに攻撃の間合いに入り、武具を激しく打ち合わせる。直後、けたたましい金属音がして火花が撒き散った。マクミルが次撃を打ち込もうと構えた途端、すかさず他の骸戦士達が隊長へと撃ちかかっていく。とっさにマクミルは身を引くと飛び交う剣閃を回避、体勢を立て直す。双方とも再び攻撃の隙を窺うべく対峙するが、相手は二体がかりだ。これでは圧倒的にマクミルが不利となる――


 次の瞬間、ノイシュは自分が燐光りんこうに包まれている事に気づいた。燃えるような感触が身体に満ちていき、力としか形容できない何かが漲っていく――

「ノイシュ、どうかマクミルを助けて……っ」

 少女の声に振り向いたノイシュは、同じ光芒に包まれたミネアが両手をこちらにかざしているのに気づいた。


――霊力放出術……っ 

 ノイシュは眼を細めて義妹を見据えた。

「有難う、ミネア」

 ノイシュは再び激戦地へと双眸を向けて術の詠唱を続けた。やがてこれまで以上の強い光のきらめきが自らの身体を覆っていく。視界の先では死霊兵の斬撃がマクミルに次々と襲いかかり、隊長の肩、すね、脇腹といった箇所を次々と掠めていく――


 ノイシュは燐光が刀身へと伝っていくのを視認しつつ、とっさに腰を落とすと巨剣を大きく引き絞った。直後、敵兵の剣がマクミルの大腿だいたいに深く突き刺さるのが見えた――


「ぐああぁッ……」

 マクミルが膝から崩れ落ちていく。一斉に死霊兵達が手負いの戦士へと殺到していく。同時に、ノイシュが大剣を一気に薙ぎ払う――


「マクミルッ、かわせ――ッ」 

 ノイシュが剣を横に振り払い切った刹那せつなの後、巨剣から巨大な旋風が吹き荒れた。轟音ごうおんとともに衝撃波が生じて敵兵との距離を縮めていいく。不意に敵術戦士達が動きを止め、迫りくる不可視の波動に顔を向けた。マクミルが身体を捻転させながらその場を離れる――


 次の瞬間、衝撃波が死霊兵達を呑み込んだ。音もなく死霊兵の甲冑が砕かれていく。露わになった肢体の肉が裂け、血が飛び散る間もなく四散していく。解体された死霊兵の四肢ししはそのまま烈風に巻き上げられていき、気がつくと残っているのは僅かな肉片や血痕だけだった――


――ミネア、君の霊力は一体……ッ

ノイシュは無意識のうちに自分の拳に眼をやり、そして震えているのに気づく。とても自分が放ったとは思えない程の威力だった――

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