第7話 俺、老賢者のふりをする

「めぼしい噂を話せ」


 ハデスが情報を持って来た。


「たぶん興味があるのは、ゲイリック王子とスェインとクロフォード辺りですかい」

「そうだな」

「ゲイリック王子とスェインが次期勇者の称号を争っているらしいですぜ」


「勇者の称号か。要らないな」

「そんな事を言うのは兄貴ぐらいでさぁ」

「なんでそんな物が欲しいんだ? 特典でもあるのか?」

「貴族社会では将軍と同列に扱われて、手柄を立てる度に王にお願い事が出来ると聞きましたぜ」


「ふん、そうか。やっぱり要らないな。クロフォードはどうなんだ?」

「うわべは女たらしで実際は真面目という事が分かっとります」

「へぇ、無能のふりをして、実は有能とかか。油断ならない奴だな。冒険者の情報は何かあるか?」


「子供で凄腕の冒険者が居るらしいですぜ」

「そんなのが居るのか?」

「男女のペアらしいでさぁ」

「もしかすると俺達だ。不味いな」


 どうしよう。

 こうするか。


「噂をばら撒け。凄腕の子供冒険者は老賢者が化けているってな」

「ええ、了解ですぜ」


 噂を補うような行動を取る必要があるな。


「モンスターの噂はあるか?」

「グリフォンが繁殖期でもないのに集団になっとります」

「へぇ、これは丁度いいな。老賢者の出動だ」


 サマンサと一緒にグリフォンが集まっている谷に飛んだ。


「今回の討伐はどうなの。グリフォンは手ごわいわよ」

「まずは陣地を作る。そして後はひたすら攻撃だ」

「そんな簡単に行くかしら」

「いかなければ。高濃度の魔力帯を作って逃亡だ」

「攻撃だけじゃないのね。安心したわ。谷が見えて来たわよ」

「中央に降りよう」


 谷の中央に降りた。

 巨木にある巣からグリフォンが飛び立つのが見えた。


「サマンサ、頼む」

土壁アースウォール土壁アースウォール土壁アースウォール土壁アースウォール。陣地が完成したわ」

「キエエー」


 グリフォンの叫び声が聞こえた。

 耳がキーンとなる。

 超音波攻撃か。


 土の壁にバラバラと何かが当たる。

 陣地の隙間から見るとそれは羽だった。

 羽手裏剣ね。


 さてと。


デス


 近くにいる奴は殺して落とした。

 遠巻きにしているグリフォン達は中々近づかない。

 用心しているのだろう。

 サマンサに火球を撃たせようか。


「サマンサ、火球だ」

「何? ああ火球ね。分かった。火球ファイヤーボール、……火球ファイヤーボール


 魔力が無限に供給されるので、グリフォン達は次々に火だるまになった

 片付いたな。

 生き残りはいたが、敵わないと思ったのか逃げていった。

 仕留めたグリフォンを回収して、王都の近くの街のギルドに行く。


「婆さんや、今回も大漁だのう」

「誰が婆さんよ」

「うっかりだ。俺達は子供」


 そういう会話をして列に並ぶ。

 老賢者が化けているという噂を後押しするのはこれで良いだろう。


「さっきの茶番は何?」

「俺らの噂を操った。これで俺らが消えれば後は老賢者の噂が残るだけだ」

「いろいろと考えているのね」

「まあな。ところで聞いたか。来週、演習旅行があるらしいじゃないか」

「ええ、その時は料理の腕を見せつけてやるの」


「討伐の方の実力は隠すのか」

「嬉々としてモンスターを狩る女子はもてないからね」

「そうかもな。でも、実技で有能な所を見せているような」


「あれは良いの。実戦ではないから。才能がある方が下級貴族に受けがいいのよ」

「なんとなく分かる。上級貴族は妻に才能があるとプライドが持たないよな」

「ええその通り、上級貴族は狙ってないから」


「なんで下級貴族は妻に才能がある方が良いんだ?」

「上に上がりたいって野望を持っているから、優秀な子孫が欲しいってところかしら」

「サマンサの狙いは婿なんだろ、関係ないはずだ」

「親戚が出世すると、引っ張ってもらえるから」


 サマンサの子供がいくら出世しても貴族にはなれないだろう。

 そう思うが、世の中何があるか分からないからな。


 54頭のグリフォンの死骸は金貨300枚ほどになった。

 今回ので冒険者活動は打ち止めだ。

 前のと合計で金貨が530枚もあれば、サマンサがドレス10着を作ってもお釣りがくるはずだ。

 でもアクセサリーとか高いからな。

 またサマンサが狩りに行こうとか言い出す可能性もある。

 まあその時は別の手を考えよう。

 何か思いつくはずだ。

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