第2話 俺、最強になる

 現在、俺は13歳。

 村のみんなは俺の事を魔力タンクさんと呼んでいる。

 俺の体内では常にグルグルと高速で魔力が循環していて、魔力量は今、100倍を超えていた。


「ちょっとあんた。なんで、手を握らないと魔力の補充が出来ないのよ」


 文句を言っている彼女は村長の娘でサマンサ。

 サマンサは12歳。

 偉そうだが、年下。

 王都の学園に行くので、俺は彼女の従者に選ばれた。

 お目付け役ともいう。


「仕方ないだろ。空気中に放出すると形を保てないんだから」

「そのぐらい制御してみなさいよ」


 俺は荷馬車の荷台に揺られながら、そうか、何事もチャレンジだと思い直した。

 循環した魔力が指先から出てまた体内に戻ってくる。

 あれ、出来たな。

 放出したままでなく循環するのがコツか。


 試行錯誤するうちに大気中の魔力も混ぜ合わせて循環できるようになった。

 これは凄い発見だ。


「ありがと」


 思わず彼女の手を握って俺はそう言った。

 真っ赤になるサマンサ。

 一瞬、見つめ合って。


「何時まで握っているのよ」


 手を振りほどかれた。


「オークだ。オークが出たぞ」


 御者台の村人がそう叫んだ。

 馬車がガクンと停まる。

 荷台からサマンサと共に飛び降りる。


「ふふふ、魔力タンクの恐ろしさ、思い知りなさい」


 サマンサは強気だ。


火球ファイヤーボール火球ファイヤーボール火球ファイヤーボール。魔力が切れたわ。早く手を握りなさい」


 俺はサマンサの手を掴むと魔力を流し込んで循環させる。


火球ファイヤーボール火球ファイヤーボール火球ファイヤーボール、魔力が切れないって素晴らしいわ」


 オークが次々に火だるまになる。

 オークの数が尋常じゃない。

 これはもしかして噂に聞くスタンピードじゃないか。


 そうこうしているうちにもサマンサはオークを火だるまにした。

 してはいるが、どうにもな。

 攻撃に参加できないのが歯がゆい。

 全魔力で攻撃魔法をぶっ放せたらとは何度も思った事だ。


 右手はサマンサと繋がって魔力を補給しているので、左手から魔力を出して大気の魔力と混ぜ合わせ循環して体内に引き込んだ。

 無限魔力タンクが完成したな。

 しかし、オークは増える一方だ。


 なんとなくジリ貧になる気がする。

 逃げたら村までオークはやってくるだろう。

 両親の顔が浮かんだ。

 駄目だ、食い止めないと。


 大規模魔法が欲しい。

 使えないのは分かっている。

 出来る事を精一杯するんだよ。

 前世の会社の先輩の顔が浮かんだ。


 大気の魔力の循環をもっと大規模に。

 俺はそれを実行し始めた。


 大気の魔力がゴウゴウと流れるのが分かる。

 大規模にしたぞ。

 これからどうする。


 ポンプを魔力で作り圧縮しよう。

 できたぞ、濃密な魔力が大気中を循環している。


 体内に引き込んだら自爆しそうだ。


 オークに叩きつけてしまえ。

 魔力を全てをオークに叩きつける。


 オークは喉をかきむしり死んだ。

 何が起こった。

 やばい。

 俺達の周りの魔力は循環させて、俺達に害が出ないようにした。


「聞いていい」


 俺はサマンサに話し掛けた。


「今、オークをやっつけるのに忙しいと言いたいけど、目に見える範囲のオークは死んでいるわよね。早く言いなさいよ。のろまね」

「大気中の魔力を圧縮して叩きつけるとどうなる」

「魔力中毒で死ぬわね。魔脈の噴出事故と同じよ」


 俺は即死の攻撃手段を得てしまったようだ。


「なに、呆けているのよ。さっきのやり方で残党を片付けるのよ」


 スタンピードを二人で終わらせる事が出来た。


「ええと、この後始末はどうしよう」

「村の人達がなんとかしてくれるわよ」

「いやそうじゃなくて。俺達って有名になって、ややこしい事になりそうな」

「二人で千を超えるオークを倒したなんて、誰も信じはしないから大丈夫よ。一応、村の人に口止めしておくわ」


 御者役の村人にサマンサがあれこれと指図を始める。

 魔法一つ撃てない人間がやったなんて確かに信じないよな。

 俺って実は凄い。

 安心はできない。

 移動中でも訓練は出来る。

 素早く即死を発動できるよう訓練だ。

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