第22話 ミクの誘い
巨大スライムが守っていた扉の奥に眠っていたのは、大量の古代金貨や純金の装飾品だった。
パーティーメンバーは、魔力反応がなかったのであまり期待していなかったのだが、想像以上の宝物が見つかり歓喜した。
これ以上、強力な魔物は出現しないと判断したディーヴァは、時空間移動魔法を駆使して帰っていった。
グリントの分析によれば、隠していた宝物が金だったからこそ、強酸を使用するグレータースライムがガーディアンとして置かれていたのではないか、とのことだった。
金は「王水」と呼ばれる特別な酸以外には溶けない。
仮に、盗賊が何らかの手段を用いてあのスライムを倒さずに突破して宝物にたどりついたとする。
しかし帰りにスライムに捕まり、その体に宝物ごと取り込まれることがあるかもしれない。
それでも金なら溶けずにその体内に残る……そういう理屈だったのかもしれない。
また、突発的な戦闘や天変地異などで部屋を仕切る壁が崩れたとして、そこからグレータースライムが宝物を取り込んだ場合も、体内に残るのは同じだ。そういう想定もあったかもしれない、とのことだった。
遺跡を出て、イフカの街に遺物を持ち帰り、取扱店で鑑定して貰った結果、古代金貨のプレミアもあり、総額一億ウェンを超える大金となった。
これまでにかかった経費を差し引き、コルトの杖の損害を穴埋めしても、まだ八千万ウェン以上の利益が残った……パーティーにとって、今回の遠征は大成功だった。
本来の契約であれば、ライナスに入ってくる収入は八百万ウェンだったが、ディーヴァを呼び出した経費で百万ウェン、さらにコルトが「スライムに取り込まれそうになった自分を助けてくれたお礼」として七百万ウェン、そしてグリントから、ダメになった鎧の補填も含めて、特別に二百万ウェンが支給されるという。
「今回の戦い、新入りのお前が予想以上に活躍してくれた上に、あの女剣士まで呼び出してくれたんだ。考え方によっちゃおまえが一番の功労者だ」
とのことで、計千八百万ウェンという大金を手に入れた。
ライナスは、貰いすぎだ、と一部断ろうとしたのだが、
「いや、あのディーヴァを呼び出せるお前と縁を持っておきたい。今回の活躍もすさまじかった……あの『伸びる刃』もそうだが、化け物の攻撃が一切通用しない防御力、触手を素手で引きちぎる腕力、そして一発であれを仕留めた雷撃系上級魔法……あれは本物の悪魔だ。あんなのを味方にすれば、これほど心強いことは無い」
とのことで、半ば強引に受け取らされた。
このまま正式にパーティーのメンバーに加わらないかと誘われたのだが、互いに次の攻略予定が決まっていないこともあり、一旦解散することとなった。
ライナスは資金ができたことで、宿で一泊して休養を取った。
ダメになった装備は外し、丈夫な防護服に着替え、そしてまずはイフカでの拠点となる「冒険者用長期宿泊施設」の部屋を借りて、荷物を仮預かり所からそちらに移した。
その後、彼は他に生活に必要な家具や、普段用の衣類、食器などの雑貨を揃え、夕刻になってから「魔法堂 白銀の翼」へと向かった。
「いらっしゃいませーっ! ……あ、ライ君、来たっ! かなりのお宝、見つけたらしいね。いくらぐらい貰ったの?」
出迎えたのは、ミクだった。
「えっと……一応、手元に残ったのは、千五百万ウェンぐらいかな?」
実際より少し控えめに答えた。
「千五百万!? 凄い、一気にお金持ちねっ! ちょっと待って、姉さん、呼んでくるから!」
ミクは、我が事のようにはしゃいで喜んでいた。
しばらくして、姉妹が揃って店の奥から出てきた。
「……ライナス君、かなり報酬分けてもらえたみたいね」
メルは少し眠そうに、しかし笑顔で彼に語りかける。
どうしても、あのときのすさまじい攻撃力、防御力、魔法力をもっていたディーヴァと同一人物とは思えなかった。
「はい、まさかあんなに金が眠っていたなんて思っていなかったですし、それに『ディーヴァ』さんを呼び出したって言うことで、余計に報酬をもらえたんです」
ライナスが周囲を見渡し、言葉を慎重に選びながらそう言葉にした。
「そう、良かったわね。じゃあ……お支払いは大丈夫かしら?」
「はい、えっと……前回の分と併せて、二百万ウェンですね?」
ライナスはそう言って、金貨二十枚を差し出した。
「……はい、確かに! じゃあ、解呪しますね」
メルはにっこりと微笑むと、店内に他の客がいないことを確認して、ライナスの右腕に触れた。
その途端に、彼が今まで感じていた右腕の違和感が消えた。
インナー「黒蜥蜴」の袖をまくってみると、肉片と融合し、一部埋もれていたそれが、細い銀の護符に戻っていた。
「本当だ……只の護符に戻った……」
「うふふっ、『只の』ではないわよ。今もまだ、『ディーヴァ』を呼び出す効果は残ったままだから」
「いえ……当分、これを使わないでいいように慎重に行動します」
彼はそう言って、姉妹を笑わせた。
これでもまだ、彼の資金は千三百万ウェン以上残っている。
グレータースライムの酸で使い物にならなくなった鎧と、剣ももっと良いものに変えたいことを伝えると、その前に、まずブラックストレッチインナー+3、通称:『黒蜥蜴』の使用感をミクに聞かれた。
「ああ、凄く良かった。普通の鎧がすぐに溶けるぐらいの強酸を浴びたのに、魔力結界が張られて助かった。命拾いしたよ」
「へえ、酸にも効果あったんだ……まあ、『素材がダメージを受ける』状態を防ごうと結界が働くからね。一つ検証になった。ありがとうね! それに、ライ君にケガがなくて良かった!」
ミクが本当に嬉しそうに満面の笑顔でそう語るのを見て、その可愛さに、ライナスの鼓動が少し高まる。
「えっと、ライ君が良ければ、『黒蜥蜴』はそのまま使ってもらうとして……剣と鎧も、新しくするのよね? 一千万以上の資金があるなら、一緒に武器と防具の工房に行かない? 知り合いの職人さんがいるの。結構、凄い人なんだから。その人が作る武器や防具は、普通は高級なアイテムショップでしか買えないけど、私と一緒に行ったら、ひょっとしたら直接安く売ってくれるかもしれないよ」
ミクの言葉を聞いて、彼女がクリューガーブランドの主任技師だったことを思い出した。
そして現在はメルと同じく、アイテムショップのオーナーをしている。そういう顔の広さを持っていても不思議ではないと考え、その誘いに乗ることにした。
「あ、でも、その人……カラエフさんっていうお爺さんなんだけど、結構頑固で……気に入った人でないと売ってくれないかも。それと、もしそれで武器と防具を良いものに変えることができたら、その……ちょっと、お願いしたいことがあるんだけど……」
彼女はそう言うと、なぜか少し、顔を赤らめた。
「お願い? ……安く、良い武器、防具が手に入るなら、このインナーのお礼もあるし、大抵のことは協力するけど……」
その言葉を聞いて、ミクは一度、姉であるメルの方を見て、頷きあった。
そしてもう一度ライナスの目を見て、決意を込めた様子で口を開いた。
「……私と二人で、冒険に出てもらっていい?」
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