第16話 タランチュリア
「罠かっ!」
グリントが声を上げる。
侵入者に対して何らかの罠が仕掛けられていることはよくあるが、致命的なものであることは、そう多くはない。誤作動によって、正規の主人が命を落とすようなものであってはならないからだ。
とはいえ、それは遺跡の種類による。
警報が鳴ったり、一時的に閉じ込められる、という罠は比較的メジャーだが、今回の音は、明らかに大きなものが落下したような音、振動だった。
「ひょっとして、閉じ込められちゃいましたか?」
コルトが、やや心配そうに、曲がり角になっている通路の奥を見つめた。
「……いえ、むしろ、『解放された』という表現が正しいわね……数匹……いいえ、もっと多い、魔物達が……」
サーシャが、高性能な魔道具で音を感知してそう口にした。
「……後ろから、一体来ます……かなり速い……」
ライナスが、そう言いながら背中の大剣を抜く。
彼が見つめる後方は、十メールほど先が曲がり角になっており、先ほど警戒しながら通ってきたばかりだ。
ライナスの耳にも「エコーイアホン」が装着されているが、最も汎用的な安物だ。しかし、それでも、カサカサと不気味に近づいてくる魔物の足音は感知していた。
しかし、それ以前に、彼にはその魔物が持つ「魔石」が壁を透過してはっきりと見えており、その正確な距離と速度が分かっていたのだ。
そして、それは現れた……大型犬以上の体格を持つ蜘蛛の化け物だ。
「ラージ・タランチュリア!」
サーシャが叫ぶ……星一つ、しかも貧相な装備しか持たないライナスにとっては、厳しい相手だと思えた。
しかし、前衛のグリントとゲッペルは動かない。
理由は二つ。一つは、前方からも複数の、近づいてくる魔物の気配があったこと。もう一つは、ライナスがどんなふうに対応するのか見極めたかったからだ。
ライナスが突破されたとしても、二人の女性はこの程度の敵に大きなダメージを受けないぐらいには、装備のレベルが高かった。
その大きな蜘蛛は、ライナスの3メールほど手前でジャンプし、大顎を開いて、半身で構える彼の太ももに噛みつこうとしてきた。
それに対し、ライナスは冷静にタイミングを合わせ、大顎の下から膝蹴りを加えた。
体格の良い彼に蹴り飛ばされた大蜘蛛は、背中から石畳に落ちた。
そして起き上がる暇も無いまま、頭部をツーハンデッドソードで串刺しにされる。
それでも、生命力の高い昆虫系モンスターであるラージ・タランチュリアは、八本の足をばたつかせていたが、ライナスがその魔物の体躯を、刺さった剣で勢いよく上方に跳ね上げ、そしてその刀身を引き抜き、空中で顎の中間から胴体の後部まで一刀両断にした。
「……やるわね!」
「……凄いです!」
サーシャとコルトが、同時に感嘆の声を上げた。
縦方向に二つに切断されても、なお蜘蛛は蠢いていたが、ライナスがダガーナイフで「透過して見えていた」魔石を片方の断面から抜き出すと、途端に動きを止めてしまった。
軽く振って体液を払い、パーティーのメンバーに、黄色く輝く小鳥の卵ほどのそれを見せると、リーダーのグリントが、
「おまえが仕留めた獲物から出た魔石だ、取っときな……それより、前からも団体様のお出ましだ!」
前方は、二十メールほど先が曲がり角になっており、その方向から複数の音が聞こえてくる。
また、ライナスの目には、十数体もの魔物……先ほどの「ラージ・タランチュリア」とよく似た魔石の輝きが見えていた。
そして彼は、「魔導コンポ」を高度に使いこなす格上のハンター達の戦いぶりを、まざまざと見せつけられるのだった。
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