第2話 戦慄の魔道具

 アイテムショップ「魔法堂 白銀の翼」オーナー兼販売員のメルは、話しやすい性格で、まだこの街に来たばかりの一つ星冒険者であるライナスに、新規の客だというのに懇切丁寧に接客した。


 この店が、古代遺跡群攻略都市「イフカ」の中でも、魔道具専門店としてちょっと変わった商品を取り扱っている、少々マニアックなことで名が知られていること。


 一般的な商品も置いているが、あまり量は揃えていないので、珍しい商品を購入する「ついで」以外の場合は量販品の大型店舗で購入することをおすすめすること。


 その代わり、ここでしか購入できないアイテムも多く、星を持つ本格的な冒険者に推奨できる商品がいくつもあること。


 さらには、冒険者の中でも戦闘に秀でた「ハンター」と呼ばれる人にはお得意さんが多いこと……もっとも、このイフカの街では、冒険者とハンターはほぼ同義であること、など。


 ライナスにとっては、少し年上で、多くの熟練ハンターとも接しているであろうメルの知識は豊富と感じられ、それでいて気さくだった。


 彼女は、いつのまにか敬語からフレンドリーな言葉遣いに変化しており、そして彼のことを「ライナス君」と呼ぶようになっていた。


 そんな彼女の言葉を、嫌に思うどころか、逆に気に入ってしまっていると、彼は実感し始めていた。


 しばらく会話しているうちに、不意にメルが真剣な表情になり、ライナスの目をじっと見つめた。

 ほんの数秒のことだったが、彼は、意識の奥底まで除かれているような、不思議な感覚に陥った。


「……ライナス君の瞳、すごく綺麗……それに、なにか特別な力を感じる……ひょっとして……あなたは……」


 そこまで言葉にしたところで、彼女はなにかを直感したように目を見開き、大きくうなずいた。

 彼はその意味が分からず、戸惑った。 


「……ごめんなさい、ちょっとライナス君が美男子だから、見入ってしまったの。気にしないで……それより、商品の紹介するわね。予算に応じておすすめのアイテムがあるけれど、まずはこの『シルバーランタン+1』は是非買ってもらいたい商品ね。ウチのオリジナル品で、たいていのお客様は購入してくれているの。ここの一つ目のつまみで光量を調整できて、さらに二つ目のつまみで、光を拡散させるか、一方向に集中して照らすかを選択できるわ。小型だから、付属のバンドで体に固定させれば、前方を照らしながら両手が自由に使えるの。フル充魔状態で、普通の光量なら十時間は持つのよ。もちろん、充魔が切れかけても、魔石からいつでもチャージできるわ」


 この世界では、「充魔石」と「魔水晶」の連携「魔道コンポーネント」により、気軽に魔法のアイテムが使用できる。その魔力は、魔物から得た魔石により、容易にチャージでき、それが残っている間は魔法が発動され続けるのだ。


「しかも、使用している魔水晶には『強化』の効果も付いているから、魔力が残っている間はランタン自体の強度も抜群に上がっているの。そのままワンポイントの防具になるぐらい」


 メルはそう言うと、手に持って説明していた小型ランタンを床に落とした。

 ライナスは、あっと慌てたが、床に落ちたそれはわずかな青い光――魔力による衝撃保護の証――を発しただけだった。


 彼女はにこやかにそれを拾うと、ライナスにそれを渡して見せた。


 彼はそれを受け取って確認し、落とした衝撃によるへこみどころか、傷一つ付いてないことに驚いた。

 さらに、メルの言うとおりそのつまみを操作して灯りを灯すと、驚くほど明るいオレンジの光が、部屋いっぱいに広がった。


「どう、凄いでしょう? 高性能な分、お値段はちょっと高めで十万ウェンなんだけど……どうかな?」


 彼が持っていた安物のランタンは、普通に油を使用するタイプで、安いが暗く、使い勝手が悪かった。しかも、ダンジョン内における灯りの喪失はハンターにとって命を左右する重要事項なので、強度不足も心配な点だった。


 ウェンは即決で「シルバーランタン+1」を購入した。


 その様子に、メルはますます笑顔になり、


「ありがとうございます! ……それでは、ライナス君が当店のお得意様となった証に、とっておきのアイテムを紹介させていただきます!」


 と、銀色の鎖状の腕輪を取り出した。

 魔物の頭を模した文様が描かれた、小さな金属板が取り付けられ、さらにごく小さな水晶が埋め込まれている。 


「これは道具側が人を選ぶのだけど、ライナス君なら使えるはず。『アミュレット・オブ・ザ・シルバーデーヴィー』……貴方が危機に陥ったとき、百万ウェンの支払いと、倒した魔物の魔石を報酬とすることを条件に、敵を殲滅してくれる『悪魔』を呼び出す魔道具です」


 メルがそのアイテムの概要を説明したとき、重苦しく変化した彼女の雰囲気に、ライナスは少し、戦慄した。

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