第3話 魔石比べ

机の上に2種類の魔石を並べて見比べる。


ノーマルは透明で5ミリないぐらいの丸い石だ。ただ地面に落ちていたら全く気が付かない、なんの有り難みもないモノだ。


しかし、当たりの方は違う。ゆっくりと点滅を繰り返すそれは明らかに普通ではない。もし道に落ちていたら、10人中10人が拾い上げて不思議そうな顔をする筈だ。


この違いは何なのか? もしかして他にもダンジョンを見つけた人がいるかと思ってネットで調べてみたが、それっぽいのは引っ掛からない。ダンジョンやゴブリン、魔石で検索してもゲームやラノベばかり。有効な情報はない。


「やってみるかー」


とりあえず色々試すしかない。先ずは水に入れてみよう。2ℓのペットボトルを傾けてコップに水を注ぎ、そこに2種類の魔石を放り込む。


「……」


何も起こらない。もう少し待つか。何事も焦ってはいけない。


「……」


あと1分だけ待つ。焦る男は嫌われるのだ。


「……なんもなしかよ!」


コップの水を捨てて、また魔石を机に並べる。少し綺麗になったように見えるが、期待しているのはそこではない。もっとファンタジーな何か。例えば力を得て怪力になるとか、100mを5秒で走れるようになるとか。


「よしっ!」


透明な方の魔石を口に入れて味を確かめる。俺は小さい頃、何でも口に入れて確かめるタイプだったのだ。魔石だって口に入れちゃうね。


「味しねー」


ペッとノーマル魔石を吐き出す。ただガラスを口にしたような感覚。何も感じない。


次は当たりの魔石。こいつを口に入れるのはちょっと抵抗あるな。しかし、やらない後悔よりやった後悔だ。思い切って緑に光る石を口に入れる。


「うゲェ!」


不味い! どぶのような臭いが鼻に抜け、舌が痺れ、視界が点滅する。これはヤバい。慌てて吐き出し、コップに水を注ぐ。


「はぁはぁ」


水を2杯飲んでやっと落ち着いてきた。誰だよ。やらない後悔よりやる後悔なんて言い出したのは。絶対に試すべきではなかった。今後3食ぐらい美味しく食事出来る気がしない。どぶ風味だ。許せねえ。


しかし妙なことが起きている。当たり魔石がさっきよりも強く輝いているのだ。俺の様子を嘲笑うかのように。


俺が口に入れたから? 俺の何かを取り入れて輝きを増した?


分からない。分からないが興味深い。俺が何かを与えたら、魔石に変化が起きる可能性がある。俺に与えられるものは何か? そう考えていると、机の前に貼ったポスターが目に入った。


B級ホラー映画のポスターで、宇宙からやってきたヴァンパイアが地球人を襲うものだ。ヌードシーンが多いので好き。


「試してみるか」


俺は机の引き出しから安全ピンを探し出し、左手の親指に突き刺した。当たり前のように血が滲む。


「力を与えてやる」


血が流れる親指を緑の魔石に押し付けた。

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