第15話 天道 リカ

 私がパパ活を始めたのは中学2年の頃。

理由はもちろんお金。

ウチは両親共働きで、別段お金に困っている訳じゃない。

それにも関わらず、毎月私がもらえるお小遣いはたったの5万。

こんなのゲームでガチャ回したら終わりじゃん。

服・・・カバン・・・アクセサリー・・・ほしいものはいくらでもある。

それに、彼氏や友達と遊びに行くにもお金はかかる。

何度かお小遣いの値上げを交渉したけど、「それだけあれば十分」だとか、

「自分でやりくりする努力をしなさい”とか嫌味ったらしい言い訳ばっかり並べる。

10代の女の子は何かとお金がかかるってわからないのかしら?

金銭感覚がバグってるとしか思えないわね。


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「ねぇ、リカ。 そんなにお金がほしいなら、パパ活やってみない?」


「パパ活?」


「うん、私も結構やってるんだ」


 私がお小遣いを仲の良い女友達に愚痴っていた時、その子がパパ活を勧めてもらったのが始まりだった。

ただむさいおじさんを適当に相手するだけで簡単に大金がもらえる。

自分で言うのもなんだけど、私は容姿でいえば、間違いなく美人の類に入る。

だからこそ、他の子に比べたら男が引っかかりやすい。

黙っていても向こうから近づいてくるから、わざわざ自分で動く必要はない。

ほんと美人って得ね。

そんな私が特にはまっていた人種は既婚者。

彼らと交わることで、旦那を奪ったという背徳感が体を刺激し、より強い快楽を感じることができる。

それに、家族を養うだけの稼ぎがあるのだから、その分お小遣いも多い。

こんなの覚えたら、真面目に働くことしかできない不細工共が哀れすぎるわね。


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 ある日、私は同級生の西岡君に学校の屋上に呼び出された。


「何? 話って」


「ちょっとさ、俺らの余興に付き合ってくれないか?」


「余興?」


「同じクラスに時橋って奴いるじゃん?」


「あぁ、あのパッとしないナメクジみたいな奴?」


 普段西岡君達がいじっているから名前だけは知っているだけで、個人的な興味はない。


「そいつにさ、 ちょっとしたドッキリを仕掛けたいんだ」


「ドッキリ?」


 西岡君の話をまとめると、時橋を人気のない社会科資料室に呼び出し、彼の恥ずかしい動画を撮ってネットにばらまくと言うありふれた悪戯。

私は時橋を興奮させる相手役として、西岡君に抜擢されたって訳。


「もちろん、礼はするぜ?」


 そういうと、西岡君は私に3万円を手渡してきた。


「まさかこれで協力しろって言うの? 随分安っぽく見られたものね」


「勘違いするなよ? これは前金だ。

ドッキリが上手くいけば、言い値で支払ってやる。

ただし口外するなよ?」


「そう、だったらいいわ。 協力してあげる」


 くだらない悪戯とは思うけど、金がもらえるなら関係ない。

私は西岡君の話に乗ることにした。


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 決行当日の昼休み。

私は時橋を社会科資料室に誘い出し、先に潜んでいた西岡君達に彼を拘束してもらい、”仕事”に移った。

童貞野郎なんて、私に掛かれば意のままにできるわ。

モノが話にならなかったのは残念だけど。


「お前達! 何をやっている!?」


 途中で高橋先生が入ってきたのは予定外だった。

私はとっさに時橋に襲われかけたと供述し、時橋をレイプ犯として突き出した。

西岡君達も私の意を察して話を合わせてくれた。

その結果、私達の供述は認められ、時橋はレイプ犯として学校で話題になった。

時橋本人は無実を訴えていけど、誰も聞き入れることはなかった。

まあ、学校で人気のある私とサッカー部のエースである西岡君の話を疑う人間なんていないだろうし、偽証したって証拠もないから当然といえば当然ね。

私は時橋の両親から和解金を受けるとことができたので、被害届は出さなかった。

でも案の定、時橋はレイプ犯として学校を退学させられ、家族にも家を追い出されたとか。

まあ、恨むなら自分の不運を恨むことね。


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 後日、私は西岡君に残りの謝礼をもらった。


「あれ? 私が言った金額より多くない?」


「あぁ、それは俺の気持ちだ。

あんな面白いショーを見れたからな」


 時橋を学校と家から追い出したことがよほどうれしかったようで、西岡君は上機嫌に謝礼を上乗せしてくれた。

こっちとしてはラッキーだけどね。


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 それから数週間後、私の家に弁護士が訪ねてきた。


「私、弁護士の斎藤と申します。 今日は天道リカさんの不倫関係についてお話に来ました」


「ふっ不倫!! リカが!?」


 対応していたお父さんは発狂してしまった。

家の中で話を聞くと、この男は時橋の母、朝日に雇われた弁護士。

旦那と不倫関係になっていた私からあろうことか慰謝料を請求すると言う。

私は不倫の事実を否定したけど、弁護士が数枚の写真を見せた瞬間、私は一気に青ざめた。

そこには、私と時橋深夜がキスをしてホテルに入っていく姿までバッチリ写っていた。


「こっこんなの盗撮じゃない!!」


「今重要なのは写真の内容です。 それに盗撮だと言い張るのなら、この写真に写っているのはあなただと認めるのですね?」


「うっ!・・・」


 感情に支配され、私はちょっとした墓穴を掘った。

その一瞬が、長年私を見てきた両親の疑惑を確信に変えてしまった


「お前・・・なんてことをしたんだ!!」


「この恥知らず!! あなたをそんな子に育てた覚えはありません!!」


 私は両親から激しく叱責され、平手打ちまで喰らった。


「なっ何すんおよ!! 親なら子供の味方をするのが普通でしょ!?」


「黙れっ!! お前は自分が何をしたのかわかっていないのか!?」


 何よ2人共・・・。

既婚者にちょっと手を出したくらいで大げさな。

そもそも旦那をつなぎとめて置けなかったバカ妻たちが悪いんでしょ!?

それを棚に上げて私を悪者にして!!

だいたい不倫したとしても、未成年の私から慰謝料取るなんて、頭湧いてるでしょ!? 

そんな私の意見など無視し、両親は私に頭を下げさせ、慰謝料請求に応じることを承諾してしまった。


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 その後、朝日から膨大な慰謝料が請求させられた。

それを両親が支払ってくれたまではよかったんだけど……。


「慰謝料は立て替えてやる。 その代わり、お前とは親子の縁を切る!! 今すぐ出ていけ!!」


「2度と家の敷居を跨がないで!! 次に私達の前に出てきたら警察を呼ぶからね!!」


 慰謝料を手切れ金として私は家族の縁を切られ、ほぼ無一文で家を追い出された。

彼氏もこの一件で別れを告げられ、友達とも疎遠になってしまった。


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 私はパパ活でも経験を活かし、年齢を偽って夜の街で働くことにした。

パパ活で得られるお金じゃ、生活費としては到底足りない。

かといって今更普通のバイトや仕事なんてできっこない。

そう思ってこの仕事を選んだ。


「今日はこれだけか・・・」


 でも現実は甘くなかった。

店には私以上に容姿の良い子がたくさんいるし、みんな客を観察してよく気を利かせられる。

でも、今まで男に貢いでもらっていた私にはそんな器用なことはできない。

気が付けば、店ではお荷物扱いされ、邪魔だからやめてほしいとまで陰口をたたかれる。

そんな私の稼ぎじゃ、食べていくのがやっと。


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「うっ!!」


 ある日、仕事が終わっていつも利用しているネットカフェまで歩いていた時、

私は突然薬をかがされ意識を失った。


※※※


「うっ・・・」


「気が付いたみたいだね」


 意識が戻ると、私は冷たい床に寝かされていた。

視界がはっきりすると、目の前に時橋深夜が不気味な笑みを浮かべて私の顔を覗き込んでいた。


「あっあんたは!! っていうか、ここどこ!?」


 地下室なのか、周囲はコンクリートに覆われて薄暗く、窓1つない。

ドアはあるが、いくつもの南京錠で施錠されている。

手足が拘束されて、立ち上がることもできない。


「ここは僕達の愛の住処だよ」


「ハァ!? あんた何いってんの!? これ完全に監禁じゃない!!」


「リカちゃん。 僕は離婚されてからずっと1人ぼっちなんだ。

1人はとてもとても寂しい」


「そんなの不倫したあんたが悪いんじゃん!!」


「そうだね。 でも君にも責任はある。

幸い君も1人のようだし、僕らはどこか似通ったところがあるんだね」


「ふっふざけんなっ! 私をここから出して!!」


「ダメだ。 君は今日から僕と一緒にここで暮らすんだ・・・永遠にね」


「ひぃ!」


 深夜の目を見てわかった。

冗談じゃない!

こいつは本気で言っている!!


「家族も職も失った僕にはもう、君しかいないんだ。

わかってくれるね?」


「いっいや!! お願い!! 誰か助けてっ!!」


 助けを求めても、ここには私とこの男しかいないし、分厚い壁に遮られて外には聞こえない。


「僕達は死ぬまで一緒だ。 愛してるよ、リカ」


「いっいやぁぁぁぁ!!」


 それから、私の監禁生活が始まった。

何度も逃げようとしたけど、そのたびにあいつに見つかり、ひどい暴力を受けてボロボロになる。

食べ物や水など生きていくために必要な物は用意されるが、外には一切出ることができない。

”君を他の男の目に晒したくない”とか訳のわからない理由で。


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 監禁時18歳だった私は、気づけば28歳になっていた。

その頃になると、私は抵抗を諦め、深夜を受け入れる従順な奴隷になっていた。


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 ある日、いつも通り深夜の帰りを待っていると、監禁部屋に警察官が入ってきた。

なんでも深夜が新しい女の子をラチしようとしていたところを巡回中の警官に見つかり、逮捕されたそうだ。

彼の供述で警察はここを突き止め、私はようやくこの地獄から解放されたけど、もう全ては手遅れだった。


「いっいやっ! 離して! ここで深夜さんの帰りを待たないといけないの!!」


「コッコラ! 暴れないで! 俺達は君を保護しに・・・」


「深夜さん!! 深夜さぁぁぁん!!」


 私の心はすでに深夜という呪縛が深く刻まれてしまっていた。

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