第16話 再び降りかかる業務

香坂が部屋に戻って以降、程なくして飲み会は終了と相成った。

翌日は再び戸松の家に集合し、カップリングの作詞を行ったものの、其方は意外にもあっさりと終了した。

その後も歌入れや生楽器のレコーディングは恙なく終了し、戸松はこれまでの繁忙から一気に解放される。

半面、KYUTEの面々はMVの撮影でロケ地を駆け巡っており、戸松とは対極の忙しさであった。


そんな束の間の穏やかな日々を過ごす折、急遽田中から召集がかかる。

「はいはーい、今日は今後のことについて情報共有と方針決定するんで集まってもらいましたよ。新垣ちゃんたちはバタバタしているのに来てもらっちゃってごめんね」

集められた主要関係者が出そろうや否や、田中が今回の打ち合わせの趣旨を伝える。

田中の言葉にKYUTEメンバーは頷くものの、表情には疲れが浮かんでいる。

「さて、1か月後にいよいよ2ndのリリースなわけだが、発売日の週末にリリイベをやるっていうのは周知のとおりだ。今回のリリイベは歌ったりするわけじゃないから適当に乗り切ってくれればいいんだが、問題は3か月後だ。うちのレーベルが主催として噛んでいるフェスにKYUTEが出場することになった」

「それって、まさかYOYOGI MUSIC Fesのことですか?」

田中の突然の発表に、戸松も思わず発言に割り込んでしまう。

「ご明察。みなも知ってのとおり、代々木で行われるキャパ5,000人程度の超ビッグフェスだ。まだまだ駆け出しの段階で出場ってどうかと個人的には思ったんだが、出るって決まった以上やるしかない。歌うのは2曲とのことなので、1st,2ndの表題を歌えば無難かなと思うがどうだろう」

田中がメンバーやスタッフに水を向け意見を仰ぐも、だれからも反対意見が出ない。

尤も、戸松の所感では、みな現実感がなく意見の表明しようがないだけとも見て取れる。

「よし、それじゃあ今後のスケジュールについてざっくり説明するぞ。すまないがこのレジュメを配ってくれ」

配付されたペーパーの内容を目にした途端、KYUTEメンバーが唖然とする。

戸松に割り当てられている業務も、ライブ仕様への音源修正や、歌唱ディレクション、音響チェック……etcとすべきことが山積しており、ため息をつくしかない。

(一応名目上は音楽プロデューサーって立ち位置のはずなんだけど、実務の量も尋常じゃないな……)

今後の予定を頭で組み立てているうちに、田中による説明があっという間に進んでいく。

「とりあえず今日話す内容はこんなところだ。この後、もう少し内容を詰めたものを送るんで、みんなメールには気を配っておいてくれ。んじゃ、今日は以上で終わりにしたいと思う。急に集まってもらってすまなかったな。あと、こんな無茶なことを押し付けてしまって本当に申し訳ない」

田中が心底申し訳なさそうな様相でいるものの、一番負担がかかっているのが彼だと知る皆は彼を非難する由もない。

そして、再び大量の業務が降りかかった戸松は、仕事があることに感謝しつつも現況に苦笑いをせざるを得なかった。

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