第17話 宝石加工業の商売が、事業拡大するようです。

山から持ってきた、宝石を含んだ石。この中に、ターコイズと言われる青い石が眠っている。馬車を使って、護衛団まで雇って取ってきた、この岩の数々。

川辺の小屋に持ってきたところまでは良かったのだが。


「ここまで大掛かりに石を持ってきたのは、今回が初めてだ。それまでは石を取ったその場で1個1個作ってたんだけど、これは初めての挑戦だ。だけど、正直言うと、これでもうお金が無くなっちゃったからなあ。」


家主のフィラットはハヤチとアサフを、家に招き入れた。

家と言っても、ここはフツーに作業場になってて、屋根と壁はあるが床面は無く、地面のむき出しのままだ。この小さな小屋の中に、奥の壁面全体的に、抱えるくらいの岩が無数に並んでいる。


「これでも、けっこう小さく、ターコイズのある部分だけを持ってきたつもりなんだよ。」


そう言って、横の壁にあった棚の手前に置かれている小箱を持ってきて、開いた。


「お、おぉ~。」

「え、これ?これがターコイズ?全然別物じゃないか?」



その中には、親指くらいの大きな青い石。空の青さより深く、光沢が光っている。その石は金属製の飾りにはめ込められて、ペンダントのように仕上がっている。



「この石、他のものより濃い青だなあ。ここまで大きくて濃い色は初めてみた。それにずいぶんつるつるしてる。」

「すごいだろ?俺もここまで仕上げるのに一週間かかったんだよ。この前都会に言って見せたら、コイン千枚でって言われてなあハハハ。そんな安いもんじゃないって言って売らなかったけど。」


「え、でも、なんでここまで出来るの?」



「へへー、秘密があるんだよ。…って、まあ、ちょっと言ってもいいかな。これは、トルコ石とだいたい同じなんだよな。」



*  *  *


フィラットが日本にいたころの子供の時、母親が宝石をいくつか持っていた中に、青い石のネックレスを見つけ、よく持ち出して遊んでいたそうだ。その時に割ってしまったことがあったという。

「俺も、ダイヤとかは全然知らないけど、真珠とかトルコ石は昔から母ちゃんが持っててさ。勝手に触って怒られたもんだよなあ。まあ、それで調べたことがあったんだ。」



宝石の中でも脆いトルコ石(ここでいうターコイズに相当するであろう)は、磨かれた石をむき出しのままで市場に出回ることはまれで、樹脂でコーティングされて売られるものがほとんど。他にも加工方法や、製造方法などがあることを知ったという。



「学校卒業してから、大工とかとび職とかやってたから、高いところとかは平気なのが良かったんだな。俺もこの世界に来て、この町に来るまでに、あちこちの道を歩いてきた。んで、山の中を歩き回った時に、このトルコ石を見つけて。そうやって加工すれば、売り物になる。そうすれば生きていける。そう思って、いくつか持ってきたんだ。」


大きめの石の上に、椅子のように座り、話した。その宝石がある石に、である。


「とはいっても、俺もまだ初めて数カ月しかやってないから、お金なんて全然ないし、この町の市場で売って金にしてた。いま残ってるのは、ここにある3個だけだ。ああ、そういえば、他に1個は営業で役所にあげたっけな。一番小さい安いものを。それでそこの市場で商売やらせてもらえたんだよ。」


*  *  *


当面の生活費をハヤチから援助してもらい、アサフも家からこの作業場に通うことが決まり、ひとまず今日はここで終わりとなる。

明日から、このターコイズの加工作業が始まる。



次の日から、さっそく石の加工から始まった。


「ここにある石で、青い部分を、なるべく大きく取り出す。途中で割れても、それはそれで加工するから問題ない。ここでやっちゃいけないのが、水で濡らすこと。それだけはダメ。」

「青い部分が取り出せたら、形を整える。物によって丸くしたり四角くしたりする。削るときは、それ以上割れないように、そーっとな。」

「形が出来たら、この皿に入れてくれ。木の樹液を表面に塗るんだ。これで光沢が出て、宝石も硬くなる。」

「青い石の削りカスも、全部拾うからな。これも樹液で固めて、石にする。これもトルコ石…じゃない、ターコイズだから。これも売れるんだから、無駄にするなよ。」

「ネックレスとか穴をあけたところも、細い枝を使って樹液を入れておくように。ここが一番壊れやすいところだから、時間をかけて丁寧にな。」

「金属の飾りは、宝石に合わせて作ってもらうんだが、これは俺は無理だな。他のお店に頼んでみるか。」



1日目、2日目、3日目…と進むにつれて、アサフのコツの飲み込みは早くなっていった。



「どうだ?うまく出来てるか?お、おぉぉ、おまえすげーな。こんなにデカいの、よく採れたな。すげーよ。」

「あー、えへへへ」


「いいか?見てろよ。筆をこうやって樹脂つけて、…、…、こーやって塗るんだ。どうだ?やってみるか?」

「んー、ん~~ぅ?」


「あれ、朝あった石は?…え、あれ全部終わったって?早ぇーよ。また石持ってこなきゃなぁ。」


「おい、おい、今日はもういいから、飯食うぞ。それと、裏に川があるから、水浴びして来いよ。たまには体綺麗にしとかねえと。…お、俺も?い、いや、俺は」


「…おぉ、なかなかカッコいいじゃねえか。都会に行っても、宝石商っぽく見えるぞ。いいか?俺の後をちゃんと付いてくるんだぞ。この前みたいに迷子になるなよ。…うーん、大丈夫かなぁ?」

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