第14話 加工業と、報酬金王が、タッグを組みましたよ。

南西の山から採れる石に、青い筋が混ざっていることがある。その珍しさから、その青い部分を取り出すと、綺麗に磨かれて、貴重な高価なものとして、権力者に献上されたことから、ここの採掘の仕事が始まった。


この青い石は、周りの岩石と同じくらいの硬さなので、ただ割っただけだと、その青い石も同じように割れてしまう。そのため、慎重に少しずつ砕かなくてはならないのだ。


とくに多くとれる部分というのは、山の中でも一部にしか存在しなく、かつ表面から見ても判らないので、実際に掘ってみるしか手段が無い。

手間暇かかってほんの少ししか採ることが出来ないので、希少価値が高くつき、高値で取引されることとなった。


お金に替わる、宝の石。宝石という言葉は、大都市においての位置づけであり、この町では浸透していなかった。

その青い石というのは、この町のすぐ近くにあったので、親しみ深いもので馴染みのあるもの。そこまでの高価なものでは無かったのだ。


その青い石を、世間では「ターコイズ」と呼ばれていた。この正式名称で呼んでいる町の住民は、ほとんどいないようだったが。



*  *  *



ギルドに来た、報酬金額トップの、あの男性。名前はハヤチ。

掲示板をじーっと見つめていて、その紙を取ってきて、窓口にやってきた。

「すいません、この加工業務の話を聞きたいんですけど、どういうものなんですか?」



先日来ていたフィラットさんの依頼の、ターコイズの加工の仕事を説明すると、とても興味があったらしく、

「すいません、その現場に見学に行っても大丈夫ですか?」

と。


「あー、えーっと、どうでしょう。依頼者のフィラットさんに聞いてみないと分かりませんですねえ。」


と、チリンチリンとドアが開き、そのフィラットさんが現れた。ハヤチもチラッと青年を見るだけだった。


「あ、こんにちは。アセルさん、いますか?」

フィラットは、最初に受付を担当してくれた受付嬢を探し出した。

「あー、今日はアセルの担当じゃないのよねー。」

と言われると、すごくがっかりした様子をしている。

「なーんだー、今日は来てないの?ザンネン。」



「(ザンネン?)」ハヤチが、その言葉に、フィラットを見た。今度は、しっかりと。


「あ、ああ、あの方がフィラットさんですよ。ちょっと聞いてみましょうか。すみません、」


青年に、ターコイズの加工現場に見学に行ってもいいかと聞いてみると、


「あー、いやいや、そんなヤベーことしねーぞ。ぶん取られたらこっちもたまったもんじゃねーからな。」

顔の前に手のひらを横にブンブン振る仕草をした。



ハヤチは、その青年、フィラットを見ると、声をかけてみた。

「あの、もしかして、日本人ですか?」


「え…?…なんで?」


「僕も、日本人です。」


「え?えー?なんで?いやーまさか同士がいるとはよぉー」

と、肩をバンバン叩いて、ぎゅっと抱き合って、両手を握って、大声で喜んでいた。

そして、うるるっと涙を浮かべていた。




*  *  *




「いやぁー、すまん。」

「いやいや、こっちは大丈夫ですから。落ち着きましたか?」

「だってここじゃスマホも繋がらねぇし、車も無いし、喋ってることもわっかんないし。」

「でも、ホントよく生きてましたねえ。僕は助けられたから、なんとかなったけど。」



フィラット(本名:平田)は、ギルドの中でぼろぼろ泣いてしまったのだ。

それを報酬金王ハヤチ(本名:林)が慰めているところだ。



その様子をギルドに来ていた人たちに囲まれつつ、ちょっと離れた席で二人きりで話し合っている。


そして窓口に、受付嬢たちと、たまたま担当作業で来ていたハムザくんも一緒になっていた。



「なんだか、すごい光景ですね。報酬金王と加工業の二人が並んでるなんて。」

「私も、報奨金王があんなにしゃべってるところを見たことが無かったわね。」


ギルドに来ていた周りの人たちも、ちょっと気にしている程度で、ほとんどの人はさほど気にかけてはいない。そう、報酬金王も、あまり実態を知られていないのだ。報奨金のランキングなど出している訳でもないし。加工業のフィラットも、宝石の位置づけが低いこの町では、たいして注目もされないだろう。


「しかしまあ、あの二人が、転生者ですか。ホント、見た目じゃわからないけど、ホントにいたんだなあ。しかも二人を同時に見るなんて。」


そしてハムザくんは、あの報酬金王を見たときから気にしていた疑問を聞いた。


「だけど、あの報酬金王、モンスター討伐して稼いでるんでしたよね。あの人のレベルは?」

受付嬢も、声を潜めた。

「…、ここだけですよ。秘密ですよ。…22なんですよ。」

「やっぱり?あんだけ討伐して、そんなに低いわけが無いですよね。」

「それも、去年の1年間、レベルが上がりませんでした。一昨年の初めころから、全然上がっていないです。」

「去年に最高額の報酬金を手にしておいて、レベルが上がってないんだったら、なにかやってる。そういうことですよね。」



「あのー、すみません。」

報酬金王がこちらに歩いてきた。その後ろに宝石加工業がついてくる。



「さっきの話なんですけど、ターコイズの加工の現場に、見学に行くこと、本人からOKもらいまして。なので行ってきます。」

「この依頼書は、まだ貼っていてください。林さん…じゃなかった、ハヤチさんは、依頼とは関係なく行きますので。」


「あ…はい、わかりました。」


「もしかしたら、依頼内容を、ちょっと変更するかもしれないので、その時はまたお願いします。」

「は…い、わかりました。」



「よし、それじゃ。」

「行きますか。」

「じゃあ、今日はこの辺で。また明日来ますねー。アセルさんに、よろしく。」


転生者二人は揃って、ギルドのドアを通り過ぎていった。


「なんか、…、不思議がまた増えましたね…。」

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