第2話 図書委員会


学年が変わり、二年生の初めての図書委員会で彼の姿を見つけた時心臓が止まるかと思った。


嘘!嘘!

柴村くんも同じ図書委員なんだ!


口を押さえて、心の中で万歳をした。


「どしたの?珠美」

プリントを回していた同じ図書委員の京香が、喜びを必死に抑えている私の顔を見て怪訝な顔をした。


「…何でもない」

私はプリントを見るフリをして、その陰から柴村くんをこっそりと見つめた。

これから昼休みや放課後、委員の仕事で一緒に活動出来るなんて嬉しい。

嬉しすぎる。

やったー!!



「…何だよ、ねーちゃん、ずっとニタニタして気持ち悪りぃなぁ」

家に帰ってからは、最近絶賛反抗期の正弘からキモイを連発された。

いつもなら怒るところだけど今日の私は寛大。


ねぇ、柴村くん。

私がいつから柴村くんを好きで、どれだけその横顔に思い焦がれていたか知らないでしょう?


あの垂れた目がなくなるのをもっと近くで見たい、と思った。



同じ図書委員になって気づいた事。

柴村くんは大人しい男子かと思いきや、意外とハッキリ物を言う男子だった。


棚卸しの時、学年別の作業の振り分けを二年生にばかり大変なのを押しつける先輩がいて、柴村くんは三年の男子の先輩に不公平だと意見していた。


見ていてヒヤヒヤしたけど、正義感強いとこも好きだなと思った。

黙って知らんふりしている男子よりよっぽどいい。


でも、もう少し要領が良かったらいいのに…。


同じ委員になったけど、なかなか距離が縮まらなかった。

ランダムに組まれてるけど、同じ貸し出し当番になる事がない。京香とはよくなってるのに…。


夏休み前の時、彼と同じ当番の子が誰か代わってと言っているのを聞きつけて「私、代わるよ」と話しかけた。


「うわっ、ビックリした。田中さん、喋りかけてくれる人だったんだ」

切羽詰まった私の様子にその女子はかなり驚いたらしかった。「だけど、夏休みまで当番の日、もうないでしょ?交代する振替日ないよ」

それでもいいよ、カウンター業務好きだから!と押し切ると目を丸くされた。



そうして初めて一緒に入ったカウンター業務では緊張して自分からは一言も話しかけられなかった。

だけど、返却された重たい本を片付けようとした時、彼は「俺が片付けるよ」とサッと持って行ってしまった。


「…」


ぶつくさ文句を言わずにすぐ動けるところ、カッコいい。

少し寝癖のある後ろ髪もかわいいと思った。


その後3回目のカウンター業務の時に、ヒマだったので静かに本を読み始めた彼の手元を見て思い切って「あ、あの」と声をかけた。


彼が顔を上げる。


「そ、それ、英語の本?訳なしで話は分かるの?」


彼は一瞬私を見た後

「…分かんない」

と答えた。


「え?」

まさかの、分かってなくて読んでた???


「嘘。大体分かるよ、内容は」

その目がますます垂れた。

「でも単語で分かんないのがたまにある時は調べる、かな」


間近でそのかわいい笑顔が見れて心臓が跳ねる。


喋ってないと私の胸の音が大きくて聞こえそう。

「わ、私もその作家の本好きなの。あ、翻訳したのしか読んだことないけど」

嘘だった。柴村くんが借りて読んでたから、日本語訳の本を探して一生懸命読んだ。

恋愛小説が好きな私には翻訳後でも海外の推理小説はちょっと難しかったけど。


「そうなんだ」パッと顔が明るくなった。笑うと年相応の少年の顔になる。

ドキドキが悟られないように「うん」と頷いた。

「でもすごいね、原作の方読むって。英語得意なんだね」

思ったよりも会話がスムーズに進み出した。


彼は「得意って言うか洋楽をよく聴くからかな、英語が好きなのは」と答えた。


田中さんは何聴くの?と聞かれて勇気を出して好きなアーティストの曲を言った。

日本のアーティストでちょっと恥ずかしい。でも別に彼は馬鹿にしなかった。

知らないと言ったので、「今あるよ、聞く?」とプレイヤーを鞄からだした。

本当は委員の仕事中にそんな事しちゃダメだけど、私は必死だった。

イヤホンを半分こして聴く時、彼のシャンプーの香りが鼻腔をくすぐった。

あ、彼の匂い好き。


いいね、と彼が顔を上げて、思ったより顔が近くにあって、思わず後ろに避けた。繋がったイヤホンが耳から外れる。


彼が「あ、ごめん」と気まずそうにした。

「う、ううん」

恥ずかしさを誤魔化すために、遠慮する彼にこのCD持ってるから貸すよ、と無理矢理約束を取り付けた。

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