第1話 なぜ私にこのような役目が?


 謁見の間にて国王陛下に跪く私と勇者のシュ・・・ってまた勝手にウロチョロしてあちこち物色してる!


「だからいい加減にやめなさいよ!国王陛下の御前ですよ!」

「って言われてもなー俺ントコの王様じゃねーし、おっと玉座に下には何もなし・・・つまんねーの」

「言ったそばから貴方は!」


 再び指輪に鬼力をこめると彼は指示通りに動きます。



「宰相にユーティスよ・・・これが勇者殿なのか?」

「はっ、恐れながら間違いなく・・・」

「陛下のお気持ちはお察し致します、私も半信半疑なのです」


 さすがの国王陛下も唖然としておられます。豪放磊落で知られる方ですがここまでの礼儀知らずと接するのは初めての事ではないでしょうか。


 今より二週間ほど前に宰相シカニシが見つけた古文書の伝承に「異世界の勇者が魔王を退ける」という一文があります。すなわち異世界から召喚された勇者たる資質を持つ方が我が国の危機を救って下さるとの予言です。


 最初は陛下を始め大臣達も半信半疑でしたが、そんな折に宰相閣下が3人の召喚士を城内へ引き入れました。彼らの持つ召喚を行う前世期の遺物を見て実行に踏み切りました。


 そのような経緯があったにもかかわらず肝心の勇者がこの有様では陛下ですら判断する事は難しいものと思われます。


「召喚士3人どもの話によるとこれ以上の召喚は出来ず、更には訓練もなしに鬼功オルグを発動したとか・・・仕方あるまい、彼を勇者と認め魔王討伐を命じる!」

「陛下、本当に宜しいので?」

「すでに我が国に余分な兵力など残っておらん、ここは彼の力に賭けるしかない・・・ユーティス、隷属の指輪を騎士団長に預けるのだ」

「畏まりました・・・では騎士団長様、こちらへ」


 指輪に手を掛け外した途端に彼シュゾが私を羽交い絞めにします。気を奪われた私は指輪を落としてしまいます。


「な・・・あ、貴方!何をなさるのですか!!」

「へへへ、待ってたぜこの時を!命令を出すその指輪を外しゃあ首輪が掛かってても俺は自由だ!おいお前ら、この姫様を殺されたくなかったらこの首輪の鍵をよこしな!」


 あっ、ドレスの裾が少し破けてしまいました・・・お気に入りだったのに。


 騎士団長様が私を助けようとしてシュゾに対峙します。


「貴様っ!ユーティス様を!!」

「おっと動くなよ?動いた途端に魔法発動してやるよ!俺は自分の魔法だから平気だけどこの姫様は消し炭だなぁ!」


 うかつでした、こんな事になるなんて。しかしそれは貴方も同じ事、私にも鬼功オルグがあるんですから。


「ムーヴメントエリア・・・くっ!」

「動かないでよねーお姫様、さすがに女を火炙りにするのは抵抗あるけどこっちも必死だしよぉ?」


「もう終わりました・・・出来るものなら火炙りでも何でもおやりなさいな」

「出来ねぇと思ってんなら大間違いだぜ?おいお前ら!さっさと鍵を持ってこねぇとここでバーベキュー大会がはじまっちまう・・・ぜぇ?」


 私を拘束していた腕を外すシュゾ、指輪をはめ直しましたので再度鬼力をこめて彼を制御します。そして無事に拘束から解放されました。


 両腕を羽交い絞めにされた状態では指輪をはめられませんが、私の風属性の鬼功オルグなら手に触れずとも物を動かせるのです。指輪をはめ直すなど簡単なものです。


「はぁはぁ・・・騎士団長様、この不埒者を捕えて下さい!」

「はっ!」


 私の言葉に従う騎士団長。2人の騎士が跪いているシュゾの両脇を抱えます。


 その様子を確認してから国王陛下の正面に向かいます。


「恐れながら陛下に進言致します、このような者を勇者として扱う事は国内はおろか諸外国にも侮られる一因となります!是非ご再考を!」

「ぅ・・・うむ」


「更には隷属の首輪を付けていても隙があれば逃れだし王族たる私を人質にしてまで逃れようとする態度、風属性の鬼功オルグがある私だから対抗できたようなものの他の方ではコントロールする事は難しいと思われます」

「そ、その通りだ・・・だがしかし」


 普段ならば物事を一刀両断のごとく解決される陛下が何とも歯切れの悪いお返事。しかし私の説明には何ら間違ったことはございません。


 先程から考え込んでいた宰相シカニシ閣下がふと発言します。


「陛下、このまま魔王討伐に向かう勇者様への同行をいっその事ユーティス様にお任せ頂くのは如何でしょうか?」

「な!宰相、何を仰って・・・」

「どういうことだ?説明してみよ宰相」


「は、現在隷属の指輪を装着されているのはユーティス様です・・・本来は戦闘の要たる騎士団長に託すべきものですが、指輪を外した途端に反抗する始末・・・ならばユーティス様に勇者様の監督をして頂ければ問題ないかと」


 宰相からとんでもない進言がされました。この私が魔王討伐に行くなどとは!


「何を仰いますか宰相閣下!戦闘職ではない私は適任ではありません!」

「しかしながら勇者様の鬼功オルグを抑え騎士団達の命を救い出し、尚且つ今もご自身の危機を自らのお力のみで乗り越えたお手並みは見事なもの・・・さすがはエーゼスキル学園に留学された方です」

「な、それとこれとは話が違・・・」


 宰相の言う通り、私は幼少の頃から貴族教養の一環として鬼功オルグの学習をして参りました。


 貴族や王族たちが必修すべき一般教養やマナーとは違い、実践に即した鬼功オルグの学習は幼かった私の心を虜にしました。そして鬼功オルグの実力を高めた私には許可が下され、昨年一年間は大陸の向こうにあるエーゼスキル学園に留学しておりました。


 今では護衛要らずと言われるほどの実力を維持しておりますが、本来は戦闘職ではなく王族の一人に過ぎない私に魔王討伐など手に余る案件です。


「ふむ、宰相の意見にも一理ある・・・ユーティスよ、大任ではあるがそなたに勇者殿の魔王討伐に随行及び勇者殿の監督を命ずる!そしてこの討伐任務にあたりロイヤル=オルファンの名乗りを上げる事を許す」


 ロイヤル=オルファンの名乗り、すなわち国王陛下に次ぐ権限を与えられるという事です。本来王弟である父の子たる私は王族ではあっても権限はありませんので、その辺りを考慮して頂けたという事でしょう。


「そんな!陛下、そのような責任重大な大任を私などに・・・!」


「案ずるな、そなただけに負担は与えぬ・・・我が国防軍は度重なる敗戦により未だ人員を回復できてはいないのでそなたに軍勢を預けることは出来ぬが、代わりに騎士団の護衛を付けさせる、騎士団団長!ただちに魔王討伐に随従する騎士を人選せよ!」

「御意・・・第九部隊隊員ミュリアス、御前に出るのだ!」

「はっ!」


 とんでもない事になりました。勇者召喚の立ち合いだけで済むハズの任務が魔王討伐に随行する事になるとは。


 確かに300人構成の騎士団の人数こそ変わってませんが、幾度となく行われた魔王討伐では敗戦を繰り返し国防軍の兵数は5000名にまで減少してしまいました。

 私にこれ以上の兵力を与えられないという判断は間違ってはおりません。しかし・・・。


 考え事をしている間に騎士団長が頭以外の全身を鎧で包んだ一人の女性騎士を引き連れてきます。


「ユーティス様、この者は第九部隊隊員ミュリアスと申します・・・女の身ながら我が騎士団で十分に通用する力量の持ち主、ユーティス様の魔王討伐の一助となる者にございます」


「第九部隊隊員ミュリアス・ティーダであります!不肖ながら姫様の剣となり盾となる事を誓います!」

「わ、私は王女ではありませんので姫呼ばわりは控えて頂ければ・・・」

「いいえ、自分の立場からすれば姫様であります!お困りの際には必ずお力になります!この痴れ者には指一本触れさせません!」


 私の前に跪く騎士ミュリアスはショートヘアながら殿方と見間違うばかりの方で、いかにも正統の騎士といったいでたちの女性です。これから随行する方が男性であるよりは相談も掛けやすくて助かりますが。


「・・・陛下、もはや私の魔王討伐への随従は決定事項なのですね?」

「うむ王命だ、大任を押し付けるがそなたに拒否権はない・・・しかしこの国を守るために王族が立ち上がる事には民衆も喜ぶに違いない、頼むぞ!」


 私の平穏な生活は終わりを告げました。

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