幕間

真美side:友人の悩み

昨日の騒ぎが嘘のように、何の変哲もないいつもな学校生活が終わった放課後。


うちこと星野真美ほしの・まみは、レイコとシホの三人で暇つぶしにとカフェ、スターマックスにやって来ていた。

ちなみにサユリは例の如く塾。よくわかんないけど、マジで勉強に目覚めちゃった感じなのかな。ぶっちゃけあのサユリが勉強にご熱心とか、あんま信じられないけど。


 まーそんなこんなでスタマの四人席に陣取ったうちらは、しばらくの間はコーヒー片手に流行のコスメや音楽に学校内の恋愛ゴシップなどなど、そりゃもう中学時代のサブカルぼっちなうちが憧れてやまなかった、ザ・華の女子高生の会話って感じで楽しくお喋りしてたんだけど――


「あんさー話はちょっと変わるんだけど。マミさ、魔法って実はこの世に本当に存在してたりする?」

「へ? どうしたの急に」


 手持ち無沙汰にフラペチーノのストローをクルクルと弄っていたレイコが、ちょっと真面目な顔で急にらしくないことを言い出した。


「いやーさ、山代いるじゃん。どうもあいつ魔法使いかもしれない気がするんだよね」

「へ? いやー確かにいっくんはまだだと思うけど……。でもさ一七なんてまだの方が普通だし、魔法使い認定するにしてもまだ倍くらい年齢が必要なわけだから。今、魔法使い呼びするのはちょっとかわいそうじゃないかな」

「ん、どいうこと?」

「あ、そいういう話ではないんだ」


 てっきり童貞を30歳まで貫くと魔法使いになる的な話をしてたのだと思いたははと思わず苦笑するも、レイコは至って真剣そうな表情でぴんと人差し指を立てて、


「いい。こういうこと言うのはさ、あたしが実際に山代に魔法を使われてる疑惑があるからなの」

「ど、どんな?」

「端的に言うと炎系の魔法かな。なんか、山代の顔を見てると顔とか胸の辺りとか熱っぽくなって、ぽかぽかしてくる感じになるつーかさ。ね、これきっと魔法だよね。シホとか他の人だと全くそういうことないし」


 ん?


「それと雷系もたまにあってさ。たまに山代が放った何気ない一言でこう心臓がびびっとしびれる感覚に見舞われることがあるつーか。それが起こった後は身体が麻痺してんのか、しばらく山代の顔ぼーっと見たまま動けなくなるのよ。ね、不思議でしょ」


 んん?


「後、これはちょっと変則的なんだけど、山代があたしら以外と楽しく喋ってるの見ると何か冷たい態度をとりたい気分にさせられるつーか。おそらく氷系魔法の一種だと思う」


 んんん?


 レイコそれって――


「ね、おかしいでしょ?」


 うちが内心である結論に辿り付いて愕然とする中、レイコは賛同を求めるよう、うちとシホに向け強い眼差しを送った。


「こんなことが起きるの、全部山代限定なんだよ。だからさ、色々と考えた結果、何か山代に魔法的なことを使われてるんじゃないかなぁって。ありえないって思うかもだけどさ、でもー実際、あたし自身こうやって影響を受けてるわけだし……」


 恋じゃん。


 いやいや恋でしょ、レイコさん!!


 絶対にいっくんのこと、好きになっちゃってるじゃないですか!?


 それを魔法だとか、やれ属性がどうとか、何言っちゃってるのこの人?


 仮にも男に媚びない桜星女子の恋愛ご意見番ポジとしてカリスマギャル的存在で通ってるレイコが口にするような台詞じゃないでしょぉおお!!


 魔法は魔法でも現実的にごくありふれた恋の魔法ってやつですよねそれ。後、その氷魔法とやらの発生条件「あたしら以外と楽しく喋ってる」ではなく、「あたし以外の女の子と楽しく喋ってる」だよねきっと。


 隣に座るシホも、飲んでいたカップから口を離し「何言ってんだこいつ?」と言わんばかりのそりゃもう唖然とした表情を向けていた。


 うちやシホは以前元カレとかの悩みでレイコに恋愛相談して大分お世話になったことがあるのもあって、シホがそうなる気持ちはめちゃくちゃわかる。

 だって、こと恋愛に関してはレイコは雲一つどころじゃなく飛び抜けた存在だったと言うか、ほんと、あの時の頼りになる我らが神崎麗子は一体どこへって気分。


「……レイコ。それさ、単純に山代のことが好きってだけだよね」


 シホが白けた視線でぶっこんだ。こういう時、空気を気にせずずばっと切り込んでくれるシホってほんと頼りになる。


「へ、あたしが、山代を好き…………。あはは、それはないって」


 目をぱちくりとさせ一瞬呆然となったレイコだったが、何を冗談をとばかりに手を大袈裟に振り、楽観的な表情で豪快に笑った。


「そりゃ、山代にはノゾミの件でめちゃめちゃ感謝してるし、いいやつだと思うよ。――でも、いざ恋愛対象として見られるかって言うとそれは別だと思うんだよね。だってほら、陰キャぼっちで、元々あたしとは住むコミュニティが違うわけじゃん。ね」


 あちゃー。

 もしかしたらとは思ってたけど、やっぱ無自覚かぁ。


 苦悩と困惑と呆れを纏ってさまよわせた視線がふとシホと合致する。

 どうにもシホも同じ心境らしい。


 まぁ、あれだけのことがあったんだし、うち的にもレイコがいっくんに惚れちゃうのも無理ないと思うんだけど――にしても無意識とはいえ、何で本人はこんな頑なに受け入れようとしないんだろ。


 曲がりなりにもカーストトップとして君臨してる分、そのプライドが許さないとか?

 いやこれは薄そう。レイコってそこまで地位とかに固執するタイプでもないし。世間の目とかもクソ食らえで気にしなさそうだもん。


 そういうえば何だかんだ言いつつ、レイコから浮ついた話が出てくるのって恐らくこれが初めてだよね。

 そりゃ誰それに言い寄られたって話はいっぱいあったけど、レイコ自身が特定の誰かを気になってるって話は、仲良くなって一年ちょい、今まで一度もなかったわけで――ふふ、なんかちょっと友達してるって感じで嬉しいかも。ほら、今まで頼りっぱなしだった分、少しでも恩返し出来ればいいなぁって。

 うんうん、ずっとレイコって恋愛に興味がないわけではないけど、中々自分の理想にびびっと来る男が現れなくて困ってるって感じだったし。


 ……あれ? もしかしてだけど。


 ひょっとしてレイコって、今まで異性に対して恋愛感情を覚えてこなかった分、未だに恋をするって感覚がいまいちわかってないとか、そんなことあったりする!?


 ま、まさかね。

 流石にそれは……ないと信じたい。


 なにはともあれ……ガンバだよ、いっくん。

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