第14話 初夜
東上皇国に攻め込んで来た鈴羅王国軍と八源王国軍。三つ巴の戦いは東上皇国の大勝利という形で終わりを迎えた。
八源王国軍の総大将であるハーゲン王の首級を掲げた福珍…に、化けた里華が戦場に戻って来て、八源王国軍は混乱。それが決定打であった。
元より東上皇国への侵攻を強行軍として進めて来た八源王国軍。疲労は溜まり、兵士の士気は著しく低下していた。
更に戦争の発端が女を奪われたからと、情けない理由なのだ。士気など高まるわけがない。
もちろん、里華の美しさを知るものであればハーゲン王の気持ちも理解できるところだが、末端の兵士にその様な情報が行き届く事はない。
女にうつつを抜かす王によって戦争にかり出された…その、事実のみが兵士の士気へと影響。
そして、その王が討たれた。それも醜女によって。
八源王国軍は混乱し、瞬く間に壊滅。生き残った僅かな兵のみが敗走するのであった。
東上皇国に協力した鈴羅王国軍は、人質の鈴稚を解放され、共に帰還。被害を最低限にとどめることに成功するのであった。
◆
今回の武功は、なんと言っても福珍が最も大きかった。二国を翻弄する策を提言し、更には敵総大将のハーゲン王の首級まで挙げたのだ。これ以上の武功は無いだろう。
元より、里華の来訪と福珍の鉄山靠によって戦争が勃発したのだが…それはさて置き、武功を挙げた福珍には報酬が待ち受けていた。
「ついに序列1位に!そして…合体ね!」
里華は福珍からの依頼を完璧にこなし、劉清との合体目前まで漕ぎ着けた。それはとても凄いことである。
醜女である福珍を一国の皇太子と合体させるなど、普通なら不可能。それを可能とした里華は、本当に凄い偉業を為し得たのだ。
自身が醜女であり、皇太子との合体など絶対に不可能だと、誰よりも理解している福珍は思わず涙ぐむ。
「あ、ありがとうございます…里華様…こんな私がまさか…本当に劉清様と合体できるなんて…」
「まあ、傾城傾国の美女なら不可能なんてないからね。見た目があんたみたいな醜女でも、中身が私なら劉清ごときの籠絡、チョチョイのちょいよ!」
「これで…私も一人前の女になれます。あ、里華様より先に女になって、申し訳ありません」
「あんた、私が処女だって分かってから、態度がでかいわね!?」
「いえいえ、そんな事はありませんよ?たとえ処女でも、私は里華様を尊敬してますし…ええ、私が先に女になっても、見下したりはしませんよ…ええ、本当に」
「…そう言う舐めた態度は、合体完了してから言いなさい。あんたが相手じゃ、勃たない可能性だってあるんだからね?」
「その辺は心配なく!ちゃんと精力剤は用意してますので!それも仙人仕様の凄いのを!」
「その凄いのを使っても勃たない可能性だって…まあ、いいわ。今更、そんな事を言ってもしょうがないからね。ほら、劉清が部屋で待ってるんでしょ?とっとと行って来なさい」
里華に促され、福珍は鼻息荒く劉清の待つ寝室へと向かった。そして里華は窓の外に待機させていた生娘斗雲に乗り、空高く飛翔。上空より望遠鏡を使って様子を窺うのであった。
◆
劉清の寝室にて、劉清と福珍が対峙する。合体する事に興奮する福珍は目を血走らせているが、逆に劉清は落ち着いた様子で福珍に話しかける。
「福珍…見事であった」
「あ、はい…」
「見た目が醜女でありながら、多くのコンテストで優勝し、更には戦場でも武功を挙げる。流石は里華殿の従者。並の女では無かったな」
その功績は全て里華によるものなので、福珍としては複雑であった。それでも劉清と合体する為、その功績を自身の手柄として語り出す。
「はい!私は醜女として生まれた為、せめて中身だけでもと、必死に努力してここまで頑張って来ました!そう、劉清様と合体出来るほどの女として自分を磨き続けたのです!」
劉清の為に自分を磨いて来た。このフレーズに劉清が『この私の為にそこまで…』と、感動してくれると思っていた福珍であったが、話は何やら別の方向へと向かう事になる。
「まあ、合体については置いといて、だ…」
「え?置いとくのですか!?それがメインのはずじゃ…」
「福珍の持つ才は、この東上皇国に無くてはならないものだと思っている。武官としても、文官としても、それなりの地位を与えて国を支えて貰いたいと本気で思っているのだ」
「はあ…」
「そこで、だ。何か欲しい物はないか?金銀財宝が欲しいのならば、それなりのものを用意しよう。土地が欲しければ領主としての地位も与えよう。どうだ?何か欲しいものは…」
「あの…私が求めているものは劉清様との合体です!他に欲しいものなど何も…」
「まあ、それは置いといて、だ…」
「いや、だからそれを置いとかないで下さい!今日は!合体が!メインじゃないんですか!?折角の初夜なんですよ!!」
「そうか…初夜か…」
「はい!そうです!」
「まあ、それは置いといて、だ…」
「だから置いとかないで下さい!なんでそんなに私の事を拒絶するのですか!?」
「醜女だからだ」
「そ、そんなハッキリと…」
「いや、たとえ貴様が醜女であっても、だ。貴様の能力は高く買っているつもりだぞ?だからこそ、貴様の欲しい物を提供すると言っているのだ。金銀財宝、地位、名誉、と…合体以外の物を、な」
「私が求めているのは合体です!他のものなど、何も要りません!私は…私は劉清様をお慕いしているのです!」
「そのセリフは里華殿の為のセリフだ。醜女が吐くセリフでは無い。これ以上、駄々をこねるのであれば、牢屋にぶち込むぞ?」
劉清に合体する意思は無い。必死にすがりつく福珍の前で、その意思が覆る事は無いだろう。
その場にへたり込む福珍。そして窓の外より望遠鏡を使って様子を窺っていた里華が思わず呟く。
「あーあ。折角の御膳立てをまあ、よくもぶち壊してくれたわね?」
福珍への同情…よりも、自身の作り上げた完璧なる御膳立てを蔑ろにした劉清へと、里華の怒りの矛先は向かった。
傾城傾国の美女、里華によって鈴羅王国と八源王国は大きなダメージを受けた。
そして東上皇国もまた、大きなダメージを負うこととなる。
本気を出した里華にとって、国を…そして城を傾かせることなど、造作も無い事なのだから…。
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