第51話「黒い髪と青い瞳~十二年ぶりの『再会』~」
☆★☆
なんだかんだで土曜日になった。
あれからも寅原勢力との小競り合いはあったものの圧倒的に弁舌に優れている西亜口さんは常に言い負かし続けている。
というかクールモードの西亜口さんの眼光は氷の如き冷たさなので、向こうの取り巻きは一瞥するだけでビビっているような状態だった。
さすがおそロシア。本場は違う。
なお、『日本文化研究会』の活動も順調である。
毎日カップラーメンを食べてレポートにまとめている。
紅茶じゃなくて緑茶も飲むようになった。
そのうち西亜口さん自ら抹茶も点ててくれるらしい。
それは置いておいて――。
「……今日は西亜口さんからなにを話されるのかな……」
昨夜、メールで猫玉神社に十三時半に来るように指示されたのだ。
部活動ではなく、プライベートな用件で。
先日の果たし状の通りである。
「……十中八九、昔のことだろうな……」
これまでの言動からして、そのこととしか思えない。
過去に俺が出会っていた黒髪&青い瞳の少女。
その少女と西亜口さんが同一人物なのか、どうか――。
「今日でハッキリするかな」
坂道を登っていく。
自然と西亜口さんと猫玉神社で遭遇してからのことが思い出された。
「……メチャクチャな日々だったな……」
支離滅裂。エキセントリック。
おそロシア。さすしあ。
語彙力が落ちるぐらいに、名状しがたい出来事の連続だった。
「……無軌道だ。あまりにも無軌道すぎる……」
だが、それがいい。……いいのか?
やはり、わからない。
「……いろいろとトラブルも増えたというか、平和と平穏な学園生活は確実に遠ざかったな……」
しかし、虎穴に入らずんば虎子を得ず。
青春というものは、ある程度リスクを冒さないと得られないのかもしれない。
まぁ、世間一般ピーポーの送る青春とは明らかに違うが。
とにかく、今は。
登る。登る。
坂道を登り――。
「ついたか」
猫玉神社へ辿りついた。
「来たわね」
太陽の下。西亜口さんが待っていた。
あのときと同じ。先に西亜口さんが――いた。
風がサアアアア――と木々を揺らす。鼓膜をくすぐる。
西亜口さんの黒髪がサラサラと流れる。
「……えっ!?」
黒髪……!?
「……この髪の色になるのは十二年ぶりかしらね」
となると――……本当に西亜口さんは?
「……西亜口さん……いや………………しーちゃん?」
「……やはり覚えていたのね」
「……おぼろげながら、だったけど……今、思い出した」
「そうよ。わたしが、しーちゃん。久しぶりね、しょーくん」
当時の西亜口さんをどう呼んでいたのかは、今、思い出した。
そうだったよな。俺と西亜口さんは「しーちゃん」「しょーくん」と呼びあう仲だった。歳月で霞んでいた記憶が、徐々に鮮明になっていく。
「あの頃のわたしは……今からは考えられないほどにメンタルが弱かったわ」
西亜口さんは問わず語りに過去について話し始めた。
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