第48話「果たし状メール」

☆★☆


「今日も、ごちそうになったわ」


 結局、西亜口さんは今日も梅香さんの車で駅前のマンションまで送ることになった。流れで里桜と俺も同乗してしまったが、俺、必要なかったよな……。

 梅香さんもさすがに学習したのか、今日は比較的安全運転だった。


「またニャン之丞ちゃんに会いに来てね~♪」

「え、ええ……」


 プリンを食べたあとに再びニャン之丞と戯れる時間があった。

 さすがに反省を生かして西亜口さんも撫ですぎないように気をつけていたが。


 なお、俺も少し撫でさせてもらった。

 やはり猫をモフる時間は尊い。


 労働や勉学に勤しむ国民に週に一度はモフモフタイムが割り当てられるべきだ。

 学校にも週に二度くらい猫をモフる授業がほしい。体育を削って代わりに入れてほしい。


「ナーニャちゃんさえよければ泊まっていってくれてもオッケーだったんだけどね~♪」

「そ、そそ、それは遠慮しておくわ……」

「でも、マンションにひとりじゃ寂しいでしょう?」

「いえ、毎日、瞑想しているから大丈夫だわ。メンタルコントロールは十分にできているわ」


 西亜口さん、部屋で瞑想しているのか……。

 今度は里桜が口が開く。


「でも、今度泊まってってよー! あたし家に友達泊めるの夢だったんだよねー! 夜通し語りあいたい!」

「身の危険を感じるわ……」


 むしろ、西亜口さんが里桜を亡き者にしないか心配だ。


「なら、祥平も一緒で三人とか!」

「さ、さささ、三人で!? は、破廉恥よ!」


 西亜口さん、いったいなにを想像しているんだ……。

 健全な俺にはよくわからないな。


「と、ともかく帰るわ! プリンと送っていただいたことには感謝はするわ!」


 西亜口さんは梅香さんにお礼を言うと後部座席のドアを開けて逃げるように外へ出ていった。


「ふふふ~♪ 本当にかわいいわねぇ~、ナーニャちゃん♪」

「うん! 最初は近寄りがたい超絶美人オーラ出してたからさー。こんなに仲よくなれると思わなかったよー!」


 まあ、なんだかんだで仲よくなったよな、俺たち。


 あのクールで、おそロシアでエキセントリックで殺伐としていた西亜口さんがここまで俺たちと打ち解けてくれるとは。一か月前には、思いもしなかった。

 しかも、これから一緒に同好会までやっていくことになるとは――。


「人生わからないものだな……」

「なにシミジミ呟いてるのさ祥平ー! 西亜口さんにデレデレしすぎー! あたしだって一応女なんだぞー!」


 里桜が抗議してくるが、俺としては里桜のことを異性として意識するのは難しい。


「ふふふ♪ 里桜、がんばりなさいね~♪ でも、野球で例えれば5回終了時点で5-0ぐらいかしら♪」

「めちゃくちゃ負けてるじゃんー!?」


 俺の実感としても、それぐらいだ。


「完封負けだけは避けなさいね~♪」

「ちくしょー! こうなったら寝技に持ちこんでやるー!」


 寝技もある野球は新しい。


「おかーさんも協力してよー!」

「あらあら♪ 寝技に協力してくれだなんて里桜も大胆ね~♪ それじゃ、三人で寝技の練習しましょうか~♪」


 いやいやいやいや……。

 なんという会話になっているのだ。


 さっきの西亜口さんじゃないが身の危険を覚える。

 北瀬山家は武道の達人だからな……。シャレになってない。


「うふふ♪ もちろん北瀬山家ジョークよ♪」

「はは、は……」


 西亜口さんのロシアンジョークとはまた違ったベクトルでおそろしい。

 俺の周りは危険でいっぱいだ。人生一寸先はデンジャラスワールドだ。


 ともあれ……そのまま俺は梅香さんの車で(帰りはいつもの暴走モードが復活していた)自宅まで送ってもらったのであった。


 自室に戻ったところでスマホがメールを受信していることに気がついた。


「……お、西亜口さんからだな。どれどれ……」


『果たし状:土曜日に猫玉神社で待つ』


 果たし状!?

 それ仇討ちのときとかに送る手紙じゃないのか!?


 ――ブィイイン!


 さらにメール。


『わたしは覚悟を決めていくわ。あなたも覚悟を決めてから来なさい。逃げることは絶対に許さないわ』


 なんなんだ……。


「……おそロシア……」


 やはり、その一言に尽きる。

 西亜口さんの言動も行動も予測不能だ。

 エキセントリックすぎる。


 だが、それがいい。……いいのか?

 自分でもよくわからない。


「でも、ほんと……西亜口さんと出会ってから毎日が退屈しなくなったよな……」


 エキセントリックすぎて振り回されてばかりだが。


 だが、それでいい。……本当に、いいのか?

 やっぱり自分でもわからない。


「ともかく小説を書かねば」


 今、俺にできることはそれだけ。

 だから、執筆あるのみ。


「ほんと、どういう状況だよ」


 西亜口さんのことを小説に書き、西亜口さんにその小説を読まれる。

 心の中も含めて、常に監視されているようなものだ。

 ある意味、これ以上ないヤンデレと言えるのではないだろうか。


「……おそロシアだよなぁ……」


 シミジミつぶやく。

 なんだかラブコメを書くようになってから語彙が貧弱になっている気がする。


 でも、仕方ない。

 西亜口さんがエキセントリックすぎるからいけないのだ。


 さすが西亜口さん。

 さすしあ。


 とにかく俺はひたすら小説を書き続けるのだった。

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