第27話「犬猿の仲ならぬ犬猫の仲」

「ふぅ……! ごちそーさまー! それじゃ、プリンターイム!」

「うにゃあっ……!?」


 それぞれ食事を終えたところで、里桜が手提げ袋からプリンを取り出した。

 トラウマワードが出て、再び西亜口さんが一瞬でポンコツ化する。


「はい! プリンとスプーン!」

「あ、ああ」

「にゃうぅ……」


 俺は里桜からプリンとスプーンを受け取ったが、西亜口さんは固まったままだ。


「どしたの? プリンいらない?」

「いいい、いらな……いるわよ!」


 西亜口さんは吹っ切れたように言いきる。


「そうよ! トラウマは克服するためにあるのよ! たかがプリン! されどプリン! でも、やっぱりプリン! うにゃああああ!」


 西亜口さんは謎の気合を入れながらプリンを手にすると、ものすごい勢いで食べてしまった!


「ふぅ……これでトラウマは克服したわ」


 俺と間接キスをしてしまったトラウマはプリンを完食することで克服できたようだ。俺としては微妙に傷つくが、まあ、西亜口さんも年頃の女子高生だもんな。

 

 しかし、今さらながら俺は西亜口さんと間接キスをしてしまったんだよな!

 こんな超絶美少女と!

 つい、西亜口さんの唇を見てしまう。


「こ、こらっ! わわわ、わたしのことを見てないでプリン食べなさいよ!」


 西亜口さんは顔を赤くして激怒してきた。

 うん、今のは俺にデリカシーが足りてなかった。


「い、いや、その、ごめん!」


 しかし、焦っていた俺はスプーンを掴み損ねて机の下に落としてしまう。


「ありゃ、祥平。あたしのスプーン使わせてあげよっか? もぐもぐ」


 すでにプリンを食べ始めていた里桜が、こともなげに言ってくる。

 

「いや、それ、すでに使用済みというか、今、里桜、プリン食べてるだろ?」

「幼なじみだから平気でしょ? 子どもの頃はジュース回し飲みしてたじゃん」

「フシャーーーーーーーーッ!」


 西亜口さんが猫化しつつ激怒した!


「あなた、はしたなさすぎるわ! 恥を知りなさい、恥を! 今が江戸時代ならその発言は切腹ものよ」

「うぐぅ……! でも、あたし恥さらしだし!」


 里桜は胸を張って開き直っていた。

 もうなんというか、すごいメンタルだな。ある意味で最強だ。


「あなたのメンタルはどうなっているのかしら? サムライの風上にも置けないわね」

「先祖農民だったし!」

「まったく、スプーンが落ちたのならば拾って洗えばいいだけでしょう?」


 西亜口さんは落ちたスプーンを手に取ると立ち上がる。


「あ、俺が洗いに行くよ! 俺が落としたんだし!」

「いいのよ。わたしも少し頭を冷やしてくるわ」


 西亜口さんはそのまま広間を出て給湯室へ向かった。

 結果として、俺と里桜が残されることになる。


「……祥平ぃ~。あんたほんと西亜口さんにデレデレしすぎー。あたしという最強の幼なじみがいながらさ~。がるるっ!」


 今度は里桜が犬化している。

 犬猿の仲ならぬ犬猫の仲か。


「まー西亜口さんって超美少女だけどさ~。あたしなんかより超絶美人だけどさ~。でもでも、長年のつきあいのあたしに対して最近冷たすぎじゃないのかな~? わんわん!」


 いじけて吠える里桜。

 不覚にも、少しかわいいと感じてしまう。


 しかし、里桜だもんな。

 子どもの頃から一緒に遊んでたので男友達みたいなものだ。

 頼れる兄貴ポジションなのだ。


「祥平は単純すぎるよね~。つきあうなら容姿だけじゃなくて性格とかも重視したほうがいいよ~? というよりも昔から知っている仲のほうがよいと思うけどな~?」


 そんなことを言いながら里桜は残っていたプリンを口に運んだ。

 今の発言。これは里桜とつきあえということだろうか?


「というか、俺は西亜口さんとつきあおうとかそんなことは思ってないというか!」

「え~~? うそだぁ~~~?」

 

 ジト目で俺のことを見てくる里桜。


 これまで里桜が俺に恋話(コイバナ)的なものをすることはなかったので違和感バリバリだ。そもそも武道一筋みたいなキャラだったのに。


「あたしだって女子なんだけどな~?」


 里桜がヤキモチを焼く日がくるとは……。

 これは天変地異の前触れだろうか。


 そうこうしているうちに、西亜口さんが洗ったスプーンを持ってやってきた。


「……あら、下僕と犬の間でなにかあったのかしら?」


 西亜口さんは俺たちの間に流れる微妙な雰囲気に首を傾げる。


「別に~?」

「……と、特になにがあったというわけではないぞ……?」


 そうは言ったものの明らかに空気がおかしくなってしまった。


「まあ、いいわ。ともかくあなたもプリンを食べなさい」

「あ、ああ……」


 西亜口さんからスプーンを受け取ると、俺はプリンを食べることにした。

 その間、里桜と西亜口さんは無言。ますます空気が微妙なものになっていく。


「……あーもうっ! こういうの苦手! こういうときは単純明快に勝負をして決めるのが一番! 西亜口さん! あたしと勝負しよ!」


 俺がプリンを食べ終わるとともに里桜が立ち上がりズビシッ! と人差し指を西亜口さんに突きつける。


「……あなた、人を指で差すなって教わらなかったのかしら?」

「勝負のときは別!」

「勝負って、なにをする気?」

「えっ、なににしよう……」


 相変わらず里桜は勢いと思いつきだけで生きてるな……。


「ノープランすぎるわね、あなたの人生。このままでは本当に浪人になってしまうわよ」

「勉強苦手だけどスポーツ推薦で人生を切り開く!」

「脳筋ね」

「頑丈だけが取り柄!」


 なかなか不毛な会話だ。

 というか里桜の将来については俺も心配だ。

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