第23話「ハイパーバブみ&猫モフタイム」
そこで廊下から「ニャーン?」と疑問形の鳴き声を上げながら三毛猫――ニャン之丞――が現れた。
「あぁ、ニャン之丞っ! 元気だったのね!?」
猫化していた西亜口さんが人間に戻った。
靴を脱いでニャン之丞に近づいていく。
しかし、そこへ梅香さんが立ちふさがる。
「ふふ、捕まえたわ♪」
「フギャーッ!?」
梅香さんが西亜口さんを両手で抱きしめるように捕獲した。
「本当にお人形さんみたいでかわいいわね~♪」
梅香さんは西亜口さんを抱きしめて自らの体をこすりつけていた。
そうだった。梅香さんはかわいいものに目がないんだ。
「ふにゃにゃにゃーーーーっ!?」
もがく西亜口さんだが梅香さんの腕力は強い。
見た目はおっとり系なのに筋力がすごいパワード母なのだ。
「あ、おかーさん! 西亜口さんが嫌がってるってば!?」
「うふふ、ごめんね~♪ おかーさん、かわいいものには目がないのよー♪」
そう言いながらも西亜口さんをさらにギュッと抱きしめ続ける梅香さん。
「ふにゃあっ! や、やめっ、わたしにバブみはノーセンキューよ!」
しかし梅香さんは西亜口さんに一方的な抱擁し続け、背中や頭を撫でたりし続ける。もう完全に猫モフモードならぬ西亜口さんモフモードである。
「ふぎゃぁあああ! ふにゃっ、ふにゃあぁあぁあ~……♪」
そのあともたっぷり五分ほど西亜口さんから悲痛な叫び(というか途中から嬉しそうな鳴き声に変化していた気もするが……)が上がり続けるのであった。
………………。
「はぁー、はぁ、はぁ……はぁああ……」
ようやく解放された西亜口さんの息は上がっていた。
顔が紅潮しており、瞳も潤んでいる。
「ごめんなさいね♪ おばさん、ついエキサイティングしちゃったわ♪」
口では謝罪しているものの梅香さんはニコニコしてすごく満足そうだ。
西亜口さんは恐怖からか、あとずさる。
「お、恐ろしいバブみだったわ……こうやって相手を骨抜きにして戦闘力を奪いバブみなしでは生きられない体にするのね……母性、恐ろしい武器だわ……」
「うふふ♪ いつでもおばさんに甘えていいからね~?」
「ひぃいっ……!」
すっかり西亜口さんに梅香さんへの恐怖心が植えつけられたようだ。
「やはり、この家に来たのは間違いだったわ……北瀬山家、恐ろしい一族……!」
怯える西亜口さんのところへ、猫がニャーンと鳴きながら向かっていった。
「えっ、ニャン之丞?」
猫――ニャン之丞は西亜口さんの足元にまとわりついて体をこすり始めた。
「あぁ、ニャン之丞っ! エサを上げた恩義をちゃんと覚えているのね! ふにゃあっ、嬉しいわっ! にゃあぁあん♪」
西亜口さんはニャン之丞の背中や頭をモフって笑みを浮かべる。
やはり猫と戯れる西亜口さんはかわいい。通常の三倍かわいい。
かわいいがカンストしてしまう。
「そうだわ♪ ちょうど今日はプリンを作ったのよ♪ みんなに食べてほしいわ♪」
梅香さんはパンッと両手を合わせて、笑みを深める。
「なっ、プリンを作れるだなんて!? ハッ、まさか毒入り――!?」
「おばさん、お菓子作りが趣味なのよ~♪ 青酸カリやトリカブトじゃなくて愛情がたっぷり入ってるわ♪」
具体的な毒物の名称を出すのは気になるが、梅香さんのお菓子作りの腕は確かだ。
「わーい、プリンだーっ! 西亜口さん! おかーさんのプリンは美味しいからぜひ食べていってよー!」
「う、うぅ……このままでは餌づけされてしまうわ……! 一秒でも早くこの家から脱出しないと……! で、でも……プリン……! ぷぷぷ、プリン……!」
西亜口さんはひどく葛藤しているようだ。
その間にもニャン之丞が西亜口さんの足に体をこすりつけ続ける。
「う、うぅ……にゃ、ニャン之丞……」
前門のプリン、後門のニャン之丞。
西亜口さんは進退極まっていた。
ここは俺が、もう一押しすべきだろう。
「……西亜口さん、せっかくだから食べていこう。梅香さんのプリン本当においしいからさ」
ニャーンと猫も西亜口さんを見上げて鳴いた。
「…………わ、わかったわ……祥平とニャン之丞が、そう言うのなら……」
最後のひと押しはニャン之丞だった。
さすがニャン之丞。さすニャン。猫の力は偉大である。
「うふふ♪ プリン作りすぎちゃって困ってたから祥平くんと西亜口さんが来てくれてよかったわ~♪」
ルンルン気分を隠しもせず梅香さんはスキップしながら奥のダイニングキッチンへ向かった。
ほんと、見た目は女子大生にしか見えないよな、梅香さん。年齢不詳だ(実際に何歳なのかは知らない)。
「たはは、おかーさん喜びすぎ……」
里桜は恥ずかしそうに頬を掻く。
落ち着き具合でいえば、里桜のほうが姉っぽいかもしれない。
まぁ、今日の里桜の暴走っぷりは例外だったけどな……。
「と、ともかく、お邪魔するわ……」
「うん、大歓迎ー! こっちこっちー!」
里桜が先導し、西亜口さんと俺も続いた。
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