第16話「ラブコメ投稿開始&ラブコメ怪文書」

 ――ヴィイイーン


「き、来たっ! 西亜口さんからのメール!」


 俺はスマホを手に取った。

 な、なんて書かれているのだろうか……?


『かかか、かわいくないし!』


 画面には、そう書かれていた。

 西亜口さんはメールだというのにテンパっていた。


 俺もダメージを負ったものの、西亜口さんにもダメージを与えることに成功したようだ。相打ちだ。

 再びスマホが震える。今度は――。


『あなたわたしを羞恥で殺す気!?』


 西亜口さんに大ダメージを与えることができたようだ。

 顔が真っ赤になっている西亜口さんを想像できる。


「しかし、俺のダメージも深刻だな……」


 普通に小説を書くよりもメンタルポイントを使う。

 こんなものをアップするなんて羞恥プレイどころか露出狂なレベルだ。


「やはり、これをネットに投稿するのはやめたほうがいいんじゃ……」


 そう思った俺は、西亜口さんに『やっぱりアップはやめたほうがいいんじゃ?』という内容のメールを送った。


 さすがに西亜口さんも思いとどまってくれるだろう。

 そう期待した俺だったが――。


『アップしなさい』


 えぇえぇぇぇえええ!?

 勇者すぎるだろう、西亜口さん。


「これを公開って正気か……?」


 絶対に後悔する未来しか見えない。

 黒歴史になるのは確定的に明らか。


『わたしの名前は坂東ミャー子とでもしときなさい』


 やはり西亜口さんは独特のセンスだ。

 でも、西亜口ナーニャと坂東ミャー子じゃ割と連想しやすい気もするが……。


『あなたのラブコメは破壊力だけは十分だわ。わたしが尊い犠牲になってあげるから挑戦しなさい』


 西亜口さんの決然とした思いが伝わってくる。


 西亜口さんがここまで言ってくれているのだから、ここで俺がアップしないのは間違ってるよな……。逃げちゃダメだ。


「よ、よし……ここまで来たら、アップするか……」


 俺は西亜口さんに『わかった。投稿する』とメールを返した。

 あとは投稿準備作業だ。


 ネット小説投稿サイトにアクセスして、小説情報を入力する。


 えーと、タイトルは「ロシアからやってきた坂東ミャー子さんがクールでエキセントリックすぎて超絶かわいい」でいいか。……そのまんまだな。


 あらすじも書いてタグも入力する。ジャンルはラブコメだ。

 テキストに書いていたものを投稿画面にコピペ。


 あとは……投稿ボタンを押すのみ。


「いよいよか……」


 これを押してしまったら、あと戻りできない。

 それでも西亜口さんが望んでいるんだから――俺はこの小説をアップする。


 マウスをクリックして、投稿ボタンを押した。

 画面が切り替わり、投稿したことが表示される。


「あとは西亜口さんに俺のアカウント教えないとな」


 昨日の調査のときにブックマークを見られていたので、わかってるかもしれないけど。俺は西亜口さんのメールに投稿しているサイト名とアカウント名を送信した。


『見るわ』


 すぐに西亜口さんからメールが返ってくる。

 いよいよサイト越しに西亜口さんに見られるのか……。


 さっき見られているとはいえ、サイトで見られるというのはまた違った緊張感があるな……。


「って、ブクマついてってるな……」


 俺はこれまでファンタジーばかり書いてきたのでラブコメは今回が初投稿だ。

 なんかラブコメって、投稿するのすごく恥ずかしいな……。


 ファンタジーはカッコつけて書けるが、ラブコメはありのままの自分を出さざるをえないというか……。メンタルポイントをものすごく消費する。


「うーん、やはり恥ずかしいな……」


 全世界にこれが公開されているとは……。

 そんなことを思っていると西亜口さんからメールが来た。


『あなたはとんだ露出狂ね』


「なんでだ!」


 西亜口さんがアップしろって言ったのに!

 そして、すぐにまた次のメール。


『変態』


『羞恥プレイ魔王』


『わたしを辱めた責任を取りなさい』


 怒涛のメール攻勢だった!


「西亜口さんがアップしろって言ったんじゃないか……!」


 俺だって自爆羞恥プレイ状態だってのに!


「まぁ、読者はこれが創作だと思っているだろうか、それがせめてもの救いか……」


 まさかノンフィクションだとは思わないだろう。万が一クラスメイトがこの小説を読んだとしても、西亜口さんと同一人物とは思うまい。

 ふだんの西亜口さんとあまりにもかけ離れすぎているからな……。


「お、コメントがつき始めてるな」


 確認してみると「続きが読みたい」だの「早く次更新」だの催促するものだった。

 そして、西亜口さんからもメールが!


『早く続きを書きなさい』


 西亜口さんもか!

 あれだけ俺のことを罵倒しておいて続きを書けとは!



『あなたの性癖につきあってあげるわ。せいぜいわたしのことを……かかか、かわいく書きなさい!』


 メールの文章までテンパってる!

 

「本当に続きを書けというのか……」


 ブックマークも増えていってるし書かねばならないというプレッシャーが!

 しかし、まぁ……実際にあったことをそのまま書けばいいのだから楽といえば楽だ。


「ああもう、書くか!」


 自爆羞恥プレイではあるが! モデルとなっている西亜口さんから続きを書けと言われたのなら、やるっきゃない!


「うおおおおおおおおおおおお!」


 限界突破して西亜口さんをかわいく書く、かわいく書く、かわいく書きまくる!

 持てる文章力を総動員して西亜口さんをかわいく書く!

 しかし、語彙力がないのでかわいいを連呼してばかりだった!


「……って、さすがにこれじゃ怪文書だ」


 一気に書き上げたものの、とてもアップできる代物ではなかった。


 やはり見直しは大切だな。

 夜中に書いたラブレターはそのまま出してはいけないというのと似ている。


「推敲、推敲、と……」


 一度パソコンの前から離れて休憩をとってから、冷静な目で見直す。


「……さっきの原稿をすぐにアップしないで正解だったな」


 俺は別のテキストファイルを新たに作ってそこにコピペし、文章を修正して怪文書度を下げていった。


「ふぅ……こんなものかな」


 そこで西亜口さんからメール。


『続き書いているの? 書いているならアップする前にまずはわたしに見せなさい』


 西亜口さん、そんなに俺の小説が気になっているのか。

 まあ、西亜口さんをモデルにしてるんだしな。

 俺はテキストファイルをメールに添付して西亜口さんに送った。


「……え?」


 送ってから、俺は重大なことに気がついた。


「ぎゃああああああ!? さっきの怪文書のほうを送ってしまった!」


 間違って修正前のテキストを送ってしまった!

 なんてことだ!

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