第8話夏休みの失踪事件

小学三年生になった侑、その年の五月上旬のことだった。

侑のクラスに転校生がやってきた、見た目は子役をしているかのような美形で、高そうなシャツをかっこよく着こなしている、大人びた男の子だった。

「えーっ、今日からこのクラスでみんなと一緒に勉強をする、高宮徳治たかみやとくじだ。みんな、よろしくな。」

すっかり優しくなった長澤が、男の子を紹介した。

「初めまして、高宮です。今日からよろしくお願いします。」

「高宮は実際にテレビで子役をしているそうだ。たがらあまり学校にはこれないことが多いが、仲良くするんだぞ。」

そして入学して早々に、高宮の美しい姿はたちまちクラスで話題となった。

「ねえ、高宮くんってかっこいいよね。」

「うんうん、実は最近新しいドラマが放送されるんだけど、そのドラマに高宮くんが出演するそうよ!!」

「マジで!?どんなドラマなのか、見たい見たい!!」

侑のクラスにスーパースターがいるとたちまちクラス充に話が広まり、侑のクラスでは連日の放課後にクラスを問わず多くの生徒がやってくるようになった。

一方の侑はというと、相変わらずみんなから避けられてばかりで、しかも侑と高宮を比べて侑が下という感じの言動を、みんなから言われるようになった。

「やっぱり、高宮は最高だよな。」

「ああ、同じ屋敷に住んでいても侑とは大違いだ、侑の屋敷なんて誰も行きたくはないよな。」

「そもそも侑はなんか声をかけにくいよね、いつもぼそぼそとしていて。高宮くんはハキハキと言ってくれて、話してて楽しい気分になるのがいいわ。」

みんなから何を言われても、侑にはちっとも気にならなかった。

その日、帰宅した侑は重雄に高宮くんのことを話した。

「おお、高宮家のご長男が侑と同じ学校へ通っていたとは・・・。高宮家は家に負けないほどの名家だ、まあ学校でケンカが無いようにするんだぞ。」

侑は重雄の言うとおりに頷いた。

一方で侑は、高宮くんに少しでもいいから話してみたいと、心の中で思った。







それから数日後、侑がいつものように教室の机に座っていると、あの高宮くんが声をかけてきた。

「君が侑だね?」

「えっ・・・・、うん、侑です。」

侑は高宮から声をかけられたことに、ほんの少し驚いた。

「改めまして、高宮徳治です。君が道明寺家のご長男だね?」

「うん・・・、よろしく・・・。」

「そんなにモジモジしないでよ、せっかく同じクラスになったんだから。」

「高宮くんは、ぼくのことどう思う?」

「侑のことか?うーん、暗そうに見えて案外そうでもないかな。」

「それ、どういうこと?」

「みんなは、君のこと不気味で人と話すのが苦手な人だと思っているようだけど、ぼくは君はちゃんと人と話せていると思うよ。」

侑は高宮の言葉に、温もりを感じて救われた気持ちになった。

そして侑の目から、ポタッと涙がこぼれた。

「ありがとう、高宮くん。ぼく、今までクラスのみんなと話したことなかったから・・、君が話しかけてくれて嬉しかったよ。」

「そうだったんだ。じゃあぼくたちは、これから友だちだね。よろしく。」

「うん、よろしく!」

こうして侑と高宮はすっかり友だちになって、学校で毎日会っては一緒に遊ぶ仲になった。

クラスのみんなは、どうして侑と高宮が仲良くなったのか首をかしげた。

そしてそれから日が過ぎて、夏休み前日を迎えた。

その日の放課後、高宮は侑にこんな提案をした。

「ねえ、夏休みが終わるまでに互いの家で泊り合わないか?」

「泊り合うって、どういうこと?」

「まず、ぼくが君の家に泊まって、それから今度は侑がぼくの家に泊まるの。」

「高宮くんがぼくの家に泊まる・・・」

侑はためらった、高宮くんがもしUに何かされたらと思うと、とても心配になった。

「ぼくたち、友だちじゃないか。それとも君がぼくの家に泊まれるか心配だって?それなら大丈夫だよ、ぼくの両親には先に説明して許しをもらったから。」

侑はそのことで心配しているんじゃない、Uの事が心配なんだ。

だけど高宮くんにUについて説明しても、解ってもらえるとは思えない。

「うん・・・、わかった。ぼくも親に話してみるよ。」

「ありがとう!それじゃあな!」

手を降って揚々と高宮くんは帰っていった、侑はちゃんと言えば良かったと少し後悔した。





そして夏休み五日目、互いの両親の了解の元で侑と高宮とのお泊まり会が始まった。

まずは侑の家に泊りに高宮が泊まることになった。

一応、重雄は高宮にこの屋敷のルールを念押しして説明した。それが侑と両親との約束だったからだ。

しかし侑にとって最悪の事態が起きた、高宮が侑にかけた一言で侑は凍りついた。

「なあ、この屋敷の地下迷路へ行かないか?」

そう言う高宮の手には、「U」の封筒が握られていた。

「ダメだよ!!お父さんも言っていたでしょ?この屋敷の地下迷路は危険なんだって。」

「いいじゃないか、冒険って感じでワクワクするぜ。」

「絶対に恐ろしい目に遭うって、だから封筒をぼくに渡して!!」

侑は必死に訴えた。

すると高宮は今までにない、冷めた視線を侑に向けて言った。

「わかったよ、捨ててくるよ・・・。つまんねえヤツだな。」

侑はその一言がショックで、少しの間体が固まった。

そしてこの会話を最後に、高宮は行方不明となったのだ。












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