第十七話 商王

「勝負は腕っ節じゃねえ、ココで決まんだよ……!」


 ロバートの兄は自分の頭を指でトントン叩きながら言う。

 くそっ、今すぐにでもその顔面を倍に腫らしてやりたいところだがロバートの事を思うと出来ない。

 何か、何か手はないのか!?


「愚かな真似はやめなさいジーマ。そんな事してもあなたの評判が更に落ちるだけですよ」


 そう言いながらアクィラ商会から出てきたのはミギマだ。

 どうやら彼は今のところこちらの味方をしてくれてるみたいだな。


「てめえはすっこんでなミギマぁ! こちとらココで引き下がる方が商会内での評判が落ちるんだよ!」


「くっ……! 説得は無駄のようですねぇ……」


 歯噛みするミギマ。

 どうやら彼の力ではこの状況を打開することは出来ないみたいだ。


 王国ならまだしもこの国には知り合いなどいないので他に頼れる人などいない。それはロバートも同じだろう。

 俺は必死にこの状況を打開する方法を考える。


 力づくは効かない、かといって人脈もなければ権力もない。

 他に俺に使えるカードはないだろうか? 

 何か、この状況を変えられる、そんな一手は……。


「ほほ、こりゃまた厄介な事に巻き込まれたみたいじゃの」


 不意に、俺たちにそんな声が投げかけられる。

 この声は聞き覚えがある。いや聞き覚えがあるどころではない。

 ついさっきまで俺はこの声の主と話していた。


 その声の主はジーマ達の横をスタスタと普通に歩いてこっちに近づいてくる。

 あまりにも堂々と来るものだからジーマ達も反応出来ないでいた。


「ほほ、さっきぶりじゃの」


 ついさっきまで一緒にいた爺さんリンドは、この一触即発の雰囲気を全く気にせず話しかけてくる。


「おい爺さん。今は危ない状況なんだ。後にしてくれるか」


「なんじゃ人がせっかく助け舟を出してやろうと思ったのに」


 そう言って爺さんは目深にかぶっていた帽子を脱ぐ。

 すると俺とロバートを覗く全員の表情が変わる。なんとあのジーマでさえその顔を見て「な……!」と顔を青くしている。


「なあ、この爺さんがどうしたってんだ?」


 俺がミギマにそう聞くと、彼はものすごい剣幕でこうまくし立てる。


「じ、爺さんだと!? お前はあの方を誰だと思っているんだ!!」


「え? 商人の爺さんだろ?」


「ただの商人ではない!! この方こそ大商国ブルムの建国者にして代表。そして大陸一の商会『ブルム商会』の大商会長、『商王リンド・ブルム』様だぞ!!」


「……へ?」


 爺さんがこの国の建国者だって?

 しかも何やら偉そうな肩書きがいっぱいついていやがる。

 ていうかそもそもこの国は建国者が生きているほど最近出来た国だったのか。てっきり何百年前に出来たのかと勝手に思ってたぜ。


「ほほ、そんなに褒められると照れるのう」


 そして爺さん、いやリンド・ブルムは照れた様子で長いあごひげをいじっている。とても偉い人には見えないんだがなあ。


 にしてもそんな偉い人が来たなら安心だ。

 流石のジーマ達もこの状況で悪いことは出来ないだろう。


「来てくれて助かったぜ爺さん。さあ早くあいつらをしょっ引いてくれ」


 俺は当然のお願いをリンドにする。

 しかし返ってきたのは意外な言葉だった。


「ほ? わしはお主らを助けるつもりなどないぞ? なんでそんな1銅貨の足しにもならんことをせなあかんのじゃ」


「……ん?」


 何言ってるんだこの爺さんは。

 なら何のためにここに来たというんだ。


「わしは面白そうだから来ただけじゃよ。お主らの事など知らんわ」


 前言撤回。

 どうやら俺たちの危機はさっぱり去っていないようだ。

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