第十一話 鷹の目

 そう言ってリンドは俺に人の見分け方を教えてくれた。

 仕草、挙動、服装、様々な点で多角的に人のことを見抜く方法をリンドは分かりやすく教えてくれた。

 そのおかげで俺は付け焼き刃ではあるが人の見方を少しは分かるようになった。


「人、そして物の本質を見抜く目は商人の間で『鷹の目』と呼ばれておる。お主にもその力の一端は備わったはずじゃ。まだ『鷹の雛』程度ではあるがな」


 ほほほ。とリンドは笑う。

 一端ではあるがこの力はすごい役に立ちそうだぞ。


 俺はまず人を見る。そして数多くの馬車から商人の馬車とそれ以外の馬車を仕分ける。

 商人の特徴としては長旅に耐え切れる服装、ゴツゴツした手、ポケットの膨らみから判別できる。後はタイヤの擦り切れ具合とかからもヒントになる。


 そして次に荷車に載っている商品にも注目する。

 とはいえほとんどの商品には布がかかっていて中身はよくわからない。ざっくりとわかるのはそれが食品か、武器か、もしくはそれ以外の物品かぐらいだ。

 それの見分け方なら梱包の仕方でわかる。ロバートの手伝いをしたおかげだな。


 その3つの種類しかわからないので俺はその3種類の動きに注目して見てみた。

 すると1つだけ違和感を感じる部分があった。


「武器が……出て行ってない?」


 商国にはたくさんの武器が入ってきていると言うのに、その量に反してあまり出て行ってない。他の食品なんかは入ってきている量と出て行く量に大差ないと言うのに。何でだ?


「ほほ、いい眼をしておる。お主商人に向いてるやもしれぬぞ」


 リンドは帽子のつばの下から鋭い目を俺に向け言ってくる。


「いや武器の流れが変なのはわかったんだけどこれが一体なんだっていうんだ?」


「ここまで分かれば後は簡単じゃよ。武器が出て行ってない、ということは商会が武器を輸出せずに溜め込んでいるということ。つまり……」


「武器が近々大量に必要になる……のか?」


「ほほ、やはりお主はいい商人になるぞ♪」


 なんてこった。何気ないこの風景からそんなことが分かるなんて。

 ていうか武器が大量に必要になるだって? 一体何が起きようとしてるんだ!?


「戦争か、それとも別の理由かは知らんが。近々大量の武器が必要になるのは確かじゃ。その時に備え各商会は武器を溜め込み始めた」


 俺に解説を始めるリンド。

 その興味深い話に俺はしっかりと耳を傾ける。


「輸入先は他大陸から来た船と南方からの馬車が多いことから武器が必要になる国は王国と帝国という線が濃厚かの。そしてその二国は仲が悪いからやはり戦争が近々起きるかもしれんな」


「戦争だって……!?」


 思わず俺は立ち上がって大声を出してしまう。

 周りの人もびっくりして俺の方を見てくる。申し訳ない。


「まあ落ち着くんじゃ。まだそうと決まったわけじゃあるまい」


「で、でももし戦争になんてなったら……!」


 王国に近いタリオ村にも何かしらの戦火が降り注ぐかもしれない。

 それだけじゃない王国で活動する冒険者の仲間たちの身にも危険が迫る。

 それだけはなんとしてでも避けなければならない!


「なに、戦争が起きるとしてもそんなに急には始まらんよ。そんなに身構えていても大事なことを見落としてしまうだけじゃ。『ピンチの時こそ冷静に』これ商人の鉄則じゃ」


 リンドは優しい口調で俺を諭す。

 確かに頭に血が上っていたかもしれない。

 ここで焦っても何の解決にもならない。村に戻ってからしっかりと考えよう。


「ありがとう。いいことを聞いたよ」


「ほほ、お役に立てたなら何よりじゃ」


 頭が冷静になり周りの状況が分かるようになった俺は、ここであることに気づく。

 なにやら人々の様子が変だ。ザワザワと何かを話している。


「なにかあったのか……?」


「先ほどの応用じゃ。鷹の目を得た今のお主なら何が起きたか分かるはずじゃ」


「鷹の目……そうか!」


 俺は先ほどリンドに教わった人の見分け方を活用し何が起きたのかを探るのだった。

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