第七話 名づけ

 タリオ村からアガスティア王国までは馬車で片道約10時間かかる。

 頑張れば1日でいける距離ではあるが今俺たちが乗っているのは馬車、当然休憩を挟まなければいけない。


 村を出て6時間、日も暮れてきた頃俺たちは野営をすることにした。


 場所は森の中の洞窟。よくロバートはここで野営をするらしく、中に火を起こす道具が置いてあり野営の準備はすぐに終わった。


「王国まであと半分を切ったってとこか。大きなトラブルもなく着きそうでよかった」


「まあこのスライム達のことを除けば確かに平和な旅路っすね……」


 乾いた笑いをするロバートの視線の先には40匹ものスライムの大群がひしめき合っている。

 もぞもぞぴょんぴょんと動き回る半透明の物体の集合体は傍目から見ると確かに少し怖い。


「はは、まさか話しかけたスライムがみんな仲間になるとはなあ。『粘体生物収納』が無かったら連れて来られなかったな」


「『はは、』じゃないっすよ! どうするんすかあんなに引き取って! タリオ村をスライム村にでもする気っすか!?」


 なんか捨て犬拾って親に怒られてる気分だな。

 それにしてもスライムの村か……悪くない。村のいたるところをスライムがぴょんぴょんしてる様を想像し俺はほっこりしてしまう。


「なにほっこりしてんすか! スライム達のご飯とかはどうするつもりなんすか!」


「本当にオカンみたいなやつだなおまえは。心配しなくてもスライムにご飯はいらないんだ」


「え?」


「スライムは水さえあれば生きていられる。しかも朝露程度の少量の水でいいんだ」


 これはそらから聞いた確かな情報だ。

 図鑑には食生活は不明と書いてあったがスライムはわずかな水と太陽光があれば平気らしい。まるで植物みたいだ。聞けば聞くほど不思議な生態だ。実は宇宙から来た生き物だと言われても不思議じゃないぜ。


「まあそれならいいっすけど……限度ってもんを考えてくださいよ?」


「わかったわかった」


 多分な。


「ねえねえキクチ」


 そんな風に俺とロバートが談笑をしているとそらが割って入ってくる。


「どうした?」


「あのね、このちかくにぼくのともだちがいるからいかない?」


「友達ってスライムのか?」


「うん! みんないいこだからきっとなかよくなれるよ!」


 正直もうスライムは飽和状態なのだがそらの友達ならば会って挨拶しなきゃな。

 それにおそらく100匹までならスキルで収納できる。まだまだ余裕があるぜ・


「わかった、せっかくだから会いに言ってみるか」


「うん!」


「俺は火の番をしなきゃいけないから残ってるっす。この時期は群れからはぐれた危険な魔物が出ることもあるので気をつけてくださいっす」


「ああ、気をつけるよ」


 俺は野営地店を離れ、そらの案内のもと森の中へ入っていったのだった。





 ◇




「まだ着かないのかそら?」


「もうすぐつくよー!」


 ロバートと別れ森の中を歩くこと10分。あたりは鬱蒼とした木々が密集するように生えており、小さいそらはともかく俺はだいぶ歩くのが大変になってきていた。


「あ! あそこあそこ! ひさしぶりー!」


 やがてそらはその友達を見つけたらしく一目散に駆け出していく。

 おいおい待ってくれよこっちは歩くので精一杯なんだ!


「よっこらしょ……と!」


 おっさんくさい掛け声で横たわる大木を乗り越えた俺は目的であるそらの友達に会うことができた。


「しょうかいするね! このこたち・・がそらのともだちだよ!」


 そこにいたのは色とりどりの5匹のスライム達だった。赤青黄色、緑にピンクとどれも綺麗だ。

 今日会ったスライム達は薄めの色合いだったのだがそこにいたスライム達はとても濃い色をしていた。これは個体差なのかそれとも種類が違うのだろうか?


「はじめましてだんな! おれさまは赤色粘体生物れっどすらいむ! よろしくな!」


 始めに挨拶してきたのは燃えるような赤色をしたスライム。

 手を生やし差し出してきたので握手をするとほんのり暖かい。これが赤色粘体生物レッドスライムの特徴なのだろう。

 赤色だからなのか熱い性格のようだ。


「なあだんな! きいたはなしだとこいつになまえをつけたらしいじゃねえか! いっちょおれさまにもつけてくれよっ!」


 どうやら彼らにも俺がそらに名前をつけたことは広まっているらしい。

 それにしても今まで名前がなかったのに欲しがるとは。俺が喋れるようにしたせいか? だとしたら責任をとって名前を考えなきゃな。


「むぅー! なまえをもらったのはそらだけなのにー!」


「まあまあいいじゃないか、減るもんじゃないし」


 むくれるそらを宥め俺は名前を考える。

 そうだな、「あか」と言う名前じゃ安直すぎるからもっとかっこいい名前がいいな。


「……よし決めた! お前の名前は『紅蓮ぐれん』だ!」


「ぐれん! いいな! かっこよくておれさまにぴったりだぜだんな!」


 どうやら紅蓮は気に入ってくれたようだ。

 そらが喜んだ時みたくぴょんぴょん跳ねている。どうやらあれがスライム共通の喜びを表す動作みたいだな。


「さて……」


「じーーーー」と残り四匹の熱い視線を感じる。

 どうやら全員に名前をつけなきゃいけないようだな。


「わたしは青色粘体生物ぶるーすらいむです。よろしくおねがいします主人ますたぁ


 この子は礼儀正しい落ち着いた子みたいだな。

 今までのは子供っぽい子が多かったから新鮮だ。

 そして一番驚きだったのが声が女の子の声だったことだ。スライムにも性別があったのか……。

 ちなみにこの娘には「氷雨ひさめ」と名前をつけた。

 体がひんやりとしてるからピッタリだろう。


「あたしは黄色粘体生物いえろーすらいむ! よろしくね!」


 次に挨拶したのも女の子だった。氷雨とは対照的に活発そうなだ。

 触ったらピリピリしたので名前は「雷子らいこ」にした。


「こんにちは緑色粘体生物ぐりーンすらいむです。さわがしいやつらですがよろしくおねがいします」


 緑色のスライムの子も氷雨と同じく落ち着いた子だった。他の子と違い黒縁のメガネをかけている。頭がいいのだろうか。

 ちなみに声からすると男の子みたいだ。名前は「りょく」にした。


「わたしがさいごですね。桃色粘体生物ぴんくすらいむです。ほかのすらいむともどもよろしくおねがいいたします」


 最後に挨拶したのはピンク色の可愛らしいスライムだ。

 この娘も礼儀正しいが、冷たくお固い感じの氷雨と違いおっとりした感じだ。

 綺麗な桃色だったので「もも」と名付けた。安直すぎるかもしれないが彼女にピッタリだと思う。


「みんなにいいなまえをつけてくれてありがとうなだんな! おれいにおれたちがちからになるからきたいしてくれよな!!」


「ああ、期待してるよ」


 こうして新たに加わった5匹のスライムと共に俺は王国へ向かうのだった。







《NEW!!》



赤色粘体生物レッドスライム 階級ランクC

魔法適性:火

特殊能力スキル

粘液体質スライムボディ『物理半減、体積変化』

・火属性半減


青色粘体生物ブルースライム 階級ランクC

魔法適性:氷

特殊能力スキル

粘液体質スライムボディ『物理半減、体積変化」

・氷属性半減


緑色粘体生物グリーンスライム 階級ランクC

魔法適性:植物

特殊能力スキル

粘液体質スライムボディ『物理半減、体積変化』

・植物属性半減


黄色粘体生物イエロースライム 階級ランクC

魔法適性:雷

特殊能力スキル

粘液体質スライムボディ『物理半減、体積変化』

・雷属性半減


桃色粘体生物ピンクスライム 階級ランクC

魔法適性:回復

特殊能力スキル

粘液体質スライムボディ『物理半減、体積変化』

・魔属性半減

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