王子と結婚したのに辺境地へと追いやられたお飾り妻はなぜか辺境伯に愛されています~これでも私既婚者なんですけど?

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第1話:結婚からの追放

 この国の第一王子であるディオンは、結婚して1ヶ月後に衝撃の事実を口にした。


「実は俺にはずっと好きな女がいるんだ」

「あーそうですか……えっ? 今、女とおしゃったのですか」


 男爵令嬢のリリアンにとってはディオンに好きな人がいるということは有名な話なので何も驚くような問題ではない。この国で知らない人はいないであろう。何しろとんでもない噂なのだから……


その噂とは……


 ディオン王子は男色である。それゆえ、城内には容姿端麗な美少年から筋肉質の騎士まで王子好みに揃えており、毎日ハーレム生活を楽しんでいる。


 この結婚は、体裁のためだけの結婚だ。


 私たちの結婚はこのように言われていた。だからこそ、公爵令嬢ではなくギリギリ貴族の端くれである私のような男爵令嬢が選ばれたのだと納得していた。


 両親も男色家との結婚話に不安を隠せないようだったが、商店を営んでいるルワンナ商会にとっては、これほど宣伝力のある話はないのでこの結婚をお受けすることにしたのだった。


 私だって、ある程度覚悟はしてきたつもりだったが、なぜ驚いたかというと「好きな女」と言ったことである。驚きすぎて固まっていた直立不動の私に、ディオン王子は話を続けた。


「あぁ、驚くのも無理ないだろう。俺は男になど興味ない。あれはただの噂だ。男ばかりの城にしたのは単純に戦力のことを考えただけだ。たまたま容姿が良かった者ばかり選ばれていたからこのような噂が流れてしまったようだが……全てそれらを決めているのは、俺ではなく宰相だ」

「はい?」


どういうことだろうか。なら別に女性である私を愛してくれればいいだけの話だと思うのですが、それはおこがましいのですかね。


「それでなんだが、法律的に離縁ができないので辺境地であるハラルへ行ってくれ」「……どうしてでしょうか……」


 何が悲しくてあんな荒んでボロボロな辺境地に行かねばならないのでしょうか。

 なんて自己中心的なんでしょう。

 一応とはいえ正妃として結婚した私を辺境地に追いやるなんて。


 まぁ所詮は男爵令嬢ですし、当て馬、いや、お飾り妻が欲しかっただけだったのかもしれません。


 しかし王子の子飼いのような真似したくない。男爵令嬢だって意地やプライドくらいはあるのだ。


「恐れながら、ディオン殿下はなぜその令嬢とご結婚されなかったのですか」

「あぁ、何度もプロポーズしていたのだが、断られたんだ」

「なら、私がここで暮らしても問題ないのではないですか? 私は最初からあなた様の寵愛など求めていません。どうぞ、お好きになさってくれて結構ですよ?」

「そうか……でもだな……プロポーズは受けないくせにアイツが妬くんだ」


 さっきまでの無表情な顔から一気に破顔してその令嬢を思い浮かべているのかニヤニヤしたのだ。


(そんなに愛しているのね。相手は誰なんだろう。1度も名前すら挙がらないなんておかしい)


「それなら、その令嬢のお名前を聞いても?」

「それは……できぬ」


「それほどまでに、深く愛していらっしゃるのですね……」

「あぁ。すまない。向こうでは自由にしてくれて構わない。ご家族も一緒でもいいぞ。いくらでもお金は出してやる」


「お気遣いありがとうございます。家族には心配かけたくないのでこの話は内密に進めて下さい。でないとディオン殿下もいらぬ噂を立てられます」

「あぁ、ありがとう」


こうして、私は辺境地のハラルへと行くことになった。

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