第4話中間試験


 東京


 休みが明け、試験の週となる。勉強については冷児が泊まってくれて教えてくれた。叩き込みだが、何とかなるだろう。


「おっはようございまーす!」


 月野さんは今日も元気だ。冷児も萌香も月野さんのことは知っていた。将来強力なライバルになることも。今はレベルも何も無い。ただの人という前提のDクラスだ。レベルが上がれば一気に特進もあり得る。


「元気だね」

「はい! 研君は勉強大丈夫でした?」


 舞ちゃんは名前を教え合ってから、同い年なんだから下の名前で呼び合おうと言ってきた上、私も泊まりで勉強を教えると言い出した。そこは俺、萌香、冷児のトリオプレーで説き伏せて、阻止した。多分舞ちゃんは天然のたらしだと思う。泣く男は多いはずだ。


「バッチリだよ。冷児のおかげで」

「まあ今回だけだぞ。ハンデが大きかったからな」

「分かってるよ」


 萌香と冷児に別れを告げ、舞ちゃんとともに教室に、向けられる敵意。これはお前だけ舞ちゃんと仲良くやりやがっての嫉妬かな。お前らもすぐに仲間に入れるのに。


「空気重たいですね」

「気にしないでいこう」


 席に座ると、先生が入ってきた。


「早速だが、レベルアップ実技だ。良い能力ギフトだと良いな。万年Dクラスじゃ探索者になっても長続きなんてしないからな」


 先生が馬鹿笑いしている。生徒側はシーンとしていた。あり得る話だからだ。


「研君、頑張ろうね!」

「おう!」


 2人とも席を立つ。


__


 実技室前。


 実技室の前にベンチが何個か用意され、みんなそこに座って名前を呼ばれるのを待っている。祈っている者、真正面見て眼孔が開いているやつ。みんな色々だ。俺と舞ちゃんも緊張で沈黙していた。


「はい次、月野。入れ」

「はい!」


 お互い親指を立てて、サインしあい、勇気づける。


「独りぼっちになったな」


 ヤンキーだな。探索者になろうっていうんだ。このくらい気合い入ってないとな。


「俺の能力ギフトは星3まで成長する。親父の力を継いだ。母親だったらどうしようかと思ってたが、運が良かったぜ」

「おめでとう」


 にんまり笑うヤンキー。


「SPも振り済みよ。どんな能力ギフトだと思う?」

「さあ?」

「ヒートアームだ。腕を熱くする。今でも500°くらい余裕よ。試してやろうか?」


 まだまだ笑うヤンキー。


「遠慮しておくよ」


 俺はヤンキーの目を見ずに、やり過ごそうとする。


「気取りやがって胸糞悪い。舞ちゃんに近寄んなよ」

「どうでも良いと思うけど」


 ヤンキーに胸ぐらを掴まれると、身体が浮く。ステータスを得た人間の力は凄まじい。息が出来ない。


 足をバタつかせる俺を見て、周りまで笑っている。みんな敵かよ。くそったれ。


「彼から手を離して!」


 舞ちゃんの怒声が響く。いつの間にか試験が終わったようだ。


 ヤンキーが俺から手を離すと、舌打ちをして離れていく。


「大丈夫?」

「平気。中学でも萌香の件で良く絡まれた。こういうのは慣れてる」


 それでも月野は心配そうにこちらを見ている。


「どんな能力ギフトだったの?」

「あ、盾だって。へへ。防御系かな」


 盾か。それだけとはまた変わった力だな。


「前衛か。今度見せてよ」

「うん!」


 月野が元気に頷く。


「はい次、目許。入れ」

「はい」


 実技室の前には鈍器系やバットなどの武器が置かれている。


「どれか選んで部屋に入れ」

「分かりました」


 俺は木製のバットを持って中に入る。部屋の中は鉄のコンテナのような作り、密閉された部屋は全てが厚い金属に覆われている。部屋の分厚い扉が締められると警報が鳴り響く。コンベアが下から上がってくると、縛り付けられたゴブリン。


「やれ、目許」


 マイクにより、先生の声が聞こえる。ゴブリンとはいえ無抵抗な物を倒すのは気が引ける。しかも目の前のゴブリンは縛りから抜け出そうと必死。それが一層憐れに見えた。


「どうした。やれ」


 先生の声。ごめんよ。俺はバットを振り抜いた。頭が粉砕し、動かなくなるゴブリン。耳にファンファーレのような音が鳴り響く。


「どうだ? 目許」

「上手くレベルアップ出来たみたいです」

「そうか。今見てみよう」


 先生が機械による確認を行ってくれる。俺のステータスだ。俺も見ようっと。


「ステータス」


名前:目許研

種族:人間

Lv:1/100

HP:100/100

MP:100/100

攻撃力:10

防御力:10

俊敏:10

器用:10

運:1


SP:20


ギフト一覧 

初級剣士:Lv1 ⭐︎

鷹の目:Lv1 ⭐︎

虫の知らせ:Lv1 ⭐︎

攻撃力強化:Lv1 ⭐︎

俊敏強化:Lv1 ⭐︎

器用強化:Lv1 ⭐︎


 本来授かる能力は5つ。親から授かる遺伝能力ゲノムギフトと呼ばれる。さらにその人間固有のギフト。固有能力スペシャルギフトがついてくる。そして星1以上にはならない基本的な能力。俺は女神様より授かった能力を追加して6つ。


オーバースペック過剰能力か。久々に見た。しかも剣術で更に期待値は星3。遺伝も固有も星3とは、目許! 優秀じゃないか!」


 マイク越しから先生の興奮が伝わってくる。


「ありがとうございます」


 機械には俺の剣の力は【剣術】で写っているはず。超越能力ハイパーギフトは他人には普通の力にしか映らない。理解できるのは宿した本人のみ。星5で極めるのは変わらないので、剣術の先、初級剣士からスタートする。さらに徳典によりプレゼントされたSP10。ありがたすぎる。


 それでも足りない。本来なら遺伝と固有にSPを振り分けても余る。そこで基本的な能力ギフトに振り分ける。基本能力はステータス向上のポイントを上げてくれる。


 基本的に人間はレベルアップしたら運を除く全てのステータスが+5される。基本的な強化の能力ギフトのレベルをMAXにすれば、上がるステータスは+10となる。レベル100に到達すれば、人間の限界である999に届く。それが与えられた3つともに振れれば、最終的にかなりの強さになる。


 最初のレベルアップでSPは10与えられ、あとはレベルアップ毎に+1される。最終的に109ポイント。


 遺伝と固有が星3でも必要SPは60。基本を上げても90で足りる。俺の場合。剣士は最終段階まで行くことが確定だからその時点で50ポイント。遺伝と固有も上げれば110ポイント。足りねぇ。圧倒的に。


 女神様が言っていた特殊なSPの稼ぎ方を見つけるしか無い。


 俺はとりあえず。どうしても切り捨てられない俊敏と親からもらった鷹の目にポイントを振る。


名前:目許研

種族:人間

Lv:1/100

HP:100/100

MP:100/100

攻撃力:10

防御力:10

俊敏:10

器用:10

運:1


SP:1


ギフト一覧 

初級剣士:Lv1 ⭐︎

暗視双眼鏡の目:Lv1 ⭐︎⭐︎

虫の知らせ:Lv1 ⭐︎

攻撃力強化:Lv1 ⭐︎

俊敏強化:Lv10 ⭐︎

器用強化:Lv1 ⭐︎


 お? 計算違いした。そうか。初めからレベル1なら必要SPは9で済むわけか。器用さに振るか。これがなければ速く動く相手に的確に攻撃を与えにくい。【剣王】ともなれば、そこら辺は補えるのだろうか? 分からない。今度【剣聖】を良く調べよう。


 とりあえずこれでも今は終わりだな。


 部屋を出て、ステータスの紙を受け取る。俺は探索者への道の小さな一歩を踏み出した。

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