我儘は、フルボッコ

「タイシさぁ…、もぉちょっと早く歩けない?」

女神の居た、箱のあったダンジョンを脱出して、街に戻っていく道すがら、タイシ((仮)勇者)は、もぉ!見るもの全てに説明を求める。

洞窟内でも、明かるい理由や魔物の名前・生態・弱点・おすすめの倒し方・魔石の位置に使い方・相場金額を一つずつ教えたさ。

常識も教えたし、お金の単位も円に換算したらいくらなのかも、金銭感覚のために覚えて貰った。

この世界が、チキュウで言うところの中世くらいの文化程度だと言ったら大興奮だったのは、イマイチわからん。

ただひらすらに一々、疑問を全て問い、答えを聞いてくる。

聞くよりも、見て、感じて、やってみてから学べよ!現代人。百聞は一見に如かずって言葉を知らんのかっ!

めんどくさい…ここまでめんどくさいとは…後悔先に立たず。

とりあえず、冒険者組合で依頼達成の報告とタイシの登録をしなくては。あ、登録料も私が払うのか?宿代も?やっぱ、めんどくさ…

「ミリア、冒険者組合ってさ、やっぱ絡まれるかな?お約束のテンプレ、来る感じ?」

そんな、期待満載の目で見んなし。

「ないと思うよ。私獣人だし。避けられてるし。タイシの説明は、まぁさせられるだろうけど?面倒ごとに首突っ込みたくないし、勘弁して。」

こんな感じで、一事が万事進んでいくのかと思ったらゲロ吐きそうなんですけど?

「ほら、着いたよ。いい?タイシは、私の知り合いから世間を見て知って来いと送り出されて押し付けられた常識知らずの田舎者。冒険者になって、色々な所に行ってみたい夢見る青年。忘れないように。そして、私に迷惑と面倒を掛けないで。いい?わ、す、れ、ん、な、よ‼」

組合の前でキョロキョロと落ち着かないタイシの耳を引っ張って、念入りに言い聞かせた。

「わかった。分かったから!耳ちぎれる!!」


組合に入ると、いつもの見下した様ないくつもの視線が無遠慮に私に纏わり付く。

もう、慣れた。慣れざるを得なかった。悲しいかな、快感にまで思える始末・・・

「これ、依頼書。達成。こいつの話あるから、会長に会わせて。登録もする。」

受付の巻き毛巨乳ちゃんに、最低限の会話で後ろでキョロキョロしているタイシを示した。

直ぐに処理がなされて、巻き毛巨乳ちゃんは無言で席を立った。

なんか言って行けよ…と思うが、あの巨乳ちゃんは元から無口なタイプの甘党さんだと誰かが言っていた。甘党の情報、要らんけどな。

しばらくすると、会長に会える手はずになったと巻き毛巨乳ちゃんが受付の後ろの通路を開いてくれた。

「タイシ…タイシ?…おいっ田舎もん!!こっち。」

落ち着きのない田舎者丸出し男をひっ捕まえて、扉を開いている巻き毛巨乳ちゃんの前を通り過ぎた。

「……」

ん?

「なんか言った?」

タイシを見ると、真っ赤な顔で巻き毛巨乳ちゃんを見ていた。

あぁゆーのがタイプなのか…後で無口で笑うことの少ない甘党さんだと教えてあげよう。役に立ったな、甘党情報。情報万歳。


無事に説明・登録まで完了。一つ目のミッションクリア。

因みに、テンプレイベントは起こりませんでした。一安心。今後も、フラグすら立てたくないです。

後は、宿でも説明して、金払って、装備と着替えと生活用品買って、初依頼からみっちり教えて、鍛えて、さっさと(仮)を取っ払ってもらって、私の老後安泰計画を始めたい…何年かかることやら…

「ミリアぁ。宿のご飯っておいしい?シイタケとか入ってない?俺シイタケだけは無理。キノコ類なるべく食べたくない。あと、お腹空いた。宿ってまだ?」

こんのお気楽ポンタくんめっっ‼我儘は、お残しと共に許しまへんでぇ‼

何だかんだで、その後のミッションも、何とか生活できるまでにクリア。

その過程で、宿の主人で元上位冒険者で脳筋な見た目のおっちゃんに、なぜか私が同情された…ありがとう。

この宿は、店主が元冒険者名だけあって冒険者に優しい。私は、年間借り上げで常にここに部屋を持っているから、おっちゃんからしたら上得意様だろうし、顔も名前も食事の好みや就寝時間までも把握されている。

でもなぁ…獣人でも、子供でも、女でも、ソロでも、同情されたことなかったのになぁ…はぁ…

「明日は、タイシの初依頼ね。その前に午前中の講習に出るから早起きしなよ?寝坊したらぶん殴る。夕飯をキノコオールスターズにしてもらってやるから。」

だいぶ生活にも慣れて、女将さんにも気に入られて、シチューに入れて貰った大きな肉を頬袋に詰め込んだまま、この世の終わりかってくらいに悲しそうに私を見ているタイシの顔に爆笑してしまった。

まぁ、何とかなるでしょうよ…たぶん…きっと…そう信じる…ことにする。


「いかにも女神」にタイシを押し付けられてから一年近くが過ぎるころには、タイシは見違えるほどに強く、有名になっていた。

誰彼はばからず、私を師匠とのたまってくれるから私まで有名人になった。

前の様な悪い目立ち方ではなく、上位冒険者を育てたとして有名になったことにダケは!タイシの成長に感謝する。

でも、タイシ絡みの面倒ごとがアホみたいに出てくるのは勘弁しろ…

飯屋で食事を頼んでキノコに文句を言うな。服屋ではオーダーが当たり前なんだからバカみたいに値切るな。屋台でおっちゃんらと喧嘩すんな。春を売るお姉ちゃん達に変な正義感で説教すんな。貴族を相手にするなぁぁぁぁぁ!

とある貴族的な貴族のお嬢様に、いちゃもん付けられてガチギレで交戦したと聞いた時は、心臓が止まるかと思ったわ…

我儘も治ってないのに、勘違いまで併発して、私と私の時間と心を消耗しないで欲しい…

今度「いかにも女神」に会ったら、文句言ってから何だかんだとまた巻き上げてやるっ‼

この世界では、所謂よくある魔法ではなく現代日本で言うところの「気」が、「スキル」として使用されることになる。

タイシは、女神チートで威力2倍とか消費1/2とか持続超過とかで一気に貴族からの指名を貰うまでに成長した。

私だって、ぶんどった女神チートでストレージに時間経過無しとか、身体強化はタイシと同じ仕様になってるし、今までの苦労から完全鑑定スキルも貰ったけど。

指名来ないし…問題も起こしてないのに…

このままじゃ、前世の私みたいに暗殺されそうで怖い。この世界じゃ、出過ぎる杭は、メッタメタにされちゃうんだよ?タイシ。

強さだけなら一級品なのに、中身がお子様すぎるよ…今後は、中身重視で鍛えてやる‼まずは、宿屋の雑巾がけからだな。

その我儘さも暑苦しい正義感も、コテンパンにバッキバキに折り尽くして粉々にしてやるっ。

世の中、直進だけじゃ進めないし、清濁併せ飲んでなんぼ、大人の男にしてやんよっ。ったく…マジでめんどくさいの押し付けられちゃったな。

覚えとけよ!「いかにも女神」‼


それから数年、私の苦労が功を奏してかタイシの我儘はだいぶ改善した。

シイタケ以外のキノコは文句言わなくなったし、ソースにキノコが入っていても大丈夫だし。20歳を超えて、お酒の味を覚えてからは、好き嫌いがマシになった。

私以外とも組むようになって対人関係も良好なようだし、街の人たちとの摩擦や勘違いもなくなってきて、私はだいぶ平和に過ごせるようになった。

手がかからなくなって楽になった分、少し寂しいと思うのは成長した子供が離れていく母親の気持ちなんだろうか?

この3回分の人生で、私1回も結婚出産なんてしてないけどなっ‼

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る