レンタル25・調査で分かったこと

──東京都・新宿区。

 新宿五丁目交差点のど真ん中に、直径40mの竪穴が発生した。

 突然の出来事にも関わらず、音もなく、地面が消滅したのである。

 そして、竪穴を降りるためなのかわからないが、穴の壁面には幅5mほどのスロープが、螺旋階段のように地下へと伸びている。


 水道管やガス管なども全て消滅したにも関わらず、切断面すら消滅。まるで、そこには何もなかったかのように。

 警察や消防、自衛隊までもが出動し、調査を開始したのはよかったが。

 内部へ降りての調査はまだ行われていない。

 ただ、野次馬たちから目を逸らすために、この一角はバリケードによって囲まれ、自衛官たちが常時警戒している。



「……ふむ。確かにダンジョンじゃな。それも、中規模竪穴型か。こいつは厄介じゃなぁ」


 ルーラーは、首相官邸に向かいダンジョンについての説明を行った。

 魔族の侵攻について、魔王の降臨、勇者たちと共同で魔族と戦った日々。

 そして、魔王に敗れ、この世界に放逐されたこと。

 前にも話をしているのだが、今一度、事の重要性について説明を行うと、首相も速やかにダンジョンを破壊することを決定。

 ルーラーを筆頭に、自衛隊の特殊部隊がダンジョンの内部に向かうこととなったのである。


「そんなに危険なのですか?」

「まあ、物凄く単純な迷宮でな。ただひたすらに、地底から魔物が生まれる。それが地表に向かって、この螺旋状回廊を上がって来るだけじゃ」

「では、この中央の穴を降りて、地下に真っ直ぐに向かえばよろしいのでは?」


 直径40m、通路の幅を計算しても、中央部に幅30mほどの穴が空いている。

 そこを降りると簡単に言うが、ヘリではその竪穴を降りていくことは危険すぎる。

 たとえば、ベル式 206B 型というヘリコプターがある。

 これの全長は12m、ローター直径は11m。

 この機体が竪穴を硬化した場合、前後に9mほどのスペースしかない。

 しかも、竪穴の中から何か飛んできた場合、また回廊部から針が攻撃された場合、反撃するだけのスペースなど存在しない。


「あのヘリコプターとかいうやつじゃな。しかし、あれでは魔物に攻撃された時に躱すことはできないじゃろう。真っ直ぐに、回廊を進むしかあるまい」


 そう諭された結果。

 高機動車に荷物を載せてゆっくりと移動すると言う手段で、内部調査を行うことにした。


「……もしもこれが本当にダンジョンなら、宝物とかもあるのですよね?」

「いや、こいつは生まれたばかりじゃからない。ダンジョンとは、多くの生き物の魂や命を吸収して、より上位に進化する……」


 淡々とダンジョンについての説明をしつつ、一同はゆっくりと地下へと向かう。

 その道中、幾度となく魔物との戦闘は繰り広げられたのだが、5.56mm機関銃MINIMIによる制圧射撃により、魔物たちは次々と撃破されていく。

 

「……死体はサンプルとして回収、後続車両に積載して地上に回せ!!」

「いや……こやつ、ミスリルゴーレムじゃぞ? 魔法無力化の術式が組み込まれてあるから、かなり手強いと思ったのじゃが」

「いえ、普通に破壊できましたが?」


 これにはルーラーは予想外。

 流石のルーラーでも、ダンジョンから生み出されるミスリルゴーレムを相手には不利でしかない。

 彼らには魔法が効かないから。

 最悪なのは、ルーラーの世界の生き物は、多かれ少なかれ魔力を保有している。

 その魔力が、武器や防具に『自然付与』されてしまうため、彼らの攻撃は魔力ベース+物理打撃力となるのだが。

 そこで魔族特性が、彼らの攻撃威力を半減もしくは無力化してしまう。


『魔力の付与された攻撃は、魔族には致命的ダメージを与えられない』


 この自然法則があるため、魔族は彼らにとって脅威でしかなかったのである。

 だが、今、自衛隊の使っていた銃器には、全く魔力が乗っていない。

 超硬度を誇るミスリルゴーレムですら、自衛隊のMINIMIのフルバーストで粉々に砕け散ってしまったのである。


「何ということじゃ……こんな予想外なことが起きるとは」

「はぁ。わたしたちには何が何やらさっぱりですが。我々は、訓練によって身につけた技術を惜しみなく披露しているだけです。この竪穴型ダンジョンが一般市民にとって危害を与えるのならば、我々は全力で排除するだけです」


 隊長が堂々と宣言する。

 その曇りない瞳を見て、ルーラーは静かに頷く。


「全く……この戦力ならば、ダンジョンコアも破壊できるじゃろうなぁ。この技術がもしも我々の手元にあったなら、まだ、戦い方も変わっていたかも……」


 そう呟いてから、ルーラーは思った。

 彼らの武器があったなら?

 それならば魔族に勝てたのでは?

 そう考えてみたものの、頼み込んで隊長から借り受けた銃器には、しっかりとルーラーの魔力が自然付与されてしまう。

 この世界の兵器でも、ルーラーたちが使用したのなら、ロングソードやハルバードとおなじ。

 やはり魔族には対抗できない。


「今、何かおっしゃいましたか?」

「いや。魔物の説明はできるが、戦闘は自衛隊に任せたほうがいいじゃろうなぁと思っただけじゃよ」

「お任せください。国民を守るのが自衛隊です」


 そう宣言してから、再び地下へと向かっていく。

 そして六時間後には、ほぼ光の届かない闇の中、地底の底へと辿り着いた。

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