第17話
「あれ? ナツくんお風呂入りなよ。ベタベタして気持ち悪いでしょ?」
脱衣所へと戻る途中、ナツはカイたちが居間に向かっているところに遭遇した。
「あー、うん。入るよ」
「カイー、牛乳飲むか?」
「さすがソラちん! 分かってる~」
「てか、うちを自分の家みたいにしてんなよ。ばあちゃんたちいないからいいものを」
「好きなようにしていいって言ったのはソラちんじゃん? ちゃっかりおもてなししてるじゃん」
「カイ、早くリビングに行こう。ここにいたらナツくんがお風呂に入れない」
「そうだった! ごめんね」
「俺も入ろうかな。どうせすぐ出るし」
「そうだね。冷めるのもったいないよね」
男二人。出会って二日目の夜。
なんとも不思議な一日が終わった。
ナツは服をなかなか脱ごうとしなかった。いや、言い方に少し語弊があるが、男同士、友人の間柄なのだから何を
――修学旅行のノリじゃん。
なんて、その時は思ったのだ。
ナツの腹部の傷を見るまでは。
ラムネによって濡れたシャツから透けて見えた。彼の隠していたものを、彼の心の傷を。見てしまったのだ。ソラは分かり易く目を逸らした。
「え、どうしたの。って、何?」
ソラはどうしたらいいのか途端に分からなくなってしまった。ナツが上のシャツに手を掛けたその時、そこにあったバスタオルをナツに被せた。
「ちょ、ちょっと待ってろ。10分……いや、5分で風呂終わらせてくるから」
ソラはこの時、ナツがどうして人との距離をなんとなく避けているのかを理解した。急いで風呂から出よう。彼がゆっくりと安心して湯船に浸かれるように。
ソラは有言実行として5分と少しで風呂を出てきた。髪の毛を乾かすことなく、そのまま居間に行く。ナツはどうしたんだろうという表情をしていたがそんなのはお構いなしだった。
台所に行き冷凍庫からチューチューアイスを取り出し半分に割る。やっと落ち着いたところで庭に視線を向けると、カイたちが手持ち花火で遊んでいた。
「……カイ、それどこから持ってきた」
「あ、ソラちん。ナツくんと一緒にお風呂だったんじゃないの?」
「あー……いや、まあ。のぼせたから先にな。……半分食うか?」
「食べる」
カイはパァッと笑顔になりむしゃむしゃともう半分のアイスを受け取り頬張る。
「変わんないな、お前」
「ん?」
つい、自分が今17歳の
「なんでもない。それで?」
「あの駄菓子屋でラムネと一緒に買っておいたんだ。きっと今日は泊めてくれると思ったから」
「いつもと違う泊まりだし。何もないっていうのもつまらないしね」
「そうだな」
明日は土曜日だ。学校は休み。幸い美舟たちは明日の18時まで家には帰ってこない。泊まっていけと言っているようなものだった。
――ま、いたとしてもそう言うだろうけど。
「ソラ、お風呂ありがとう」
ナツが風呂から上がりソラたちのもとへと合流する。ソラはびくりとしたがすぐに体制を戻し普段通りに接するよう心掛けた。
「お、おう。あ、昨日の服やるよ。返さなくても大丈夫だから。制服は洗濯しておいてある。今日泊まっていくよな?」
「え」
「もし用事とかあるなら無理には……」
ふと、ナツの様子が可笑しいと感じた。ソラは気になって彼の方を見た。彼は、泣きそうな顔をしていた。想像とは違う表情をしていて少しだけ戸惑った。
「僕も、泊まっていっていいの……?」
「う、うん。もともとそのつもりでうちに呼んだ手前があるし……。ほら、明日土曜日だし! ちょうどいいかなって」
「ありがとう」
それは悲しい笑顔だったけれど、ほんの少しだけ彼は安心した表情をした。
「あ、ナツくん! ナツくんも今日泊まっていくの? 嬉しいな~」
「カイくん……。それいつ買ったの」
「花火のこと? ラムネと一緒に買ったんだよ。一緒にやる?」
「いいね、やろう」
二人を見ていると和む。線香花火で競うようだった。リクはといえば、カイたちの様子を見るとソラが座っている縁側の方へ寄ってきた。
「何たそがれてんの、ソラ」
「んー。いや。考えることあって」
「……今日一日、お前はずっと考え事してるな。それはオレたちには言えないことか?」
図星をつかれソラはむせた。幼稚園から今までずっと一緒にいる幼馴染であるリクだからこそ、ソラが変だということに気付いたのだろう。それもそうだ。今目の前にいるソラは10年後の未来から来ている。この時代のソラがここにいるはずもなく……。そしてこの先の最悪な未来が待っていることも知っている。
「まだ言えないかな。うん、言えない……な」
「ふーん。まあいいんだけどね。なんだか大人になったな、ソラ」
「ぐふっ!」
「……汚な」
もしかして悟られたのか? と驚きのあまり吹き出す。仮に、リクに10年後の世界から来た27歳の自分だということがばれたとしても、きっとどう考えても信じる方が難しいだろう。自分自身でまだ信じ切れていないのだから。
「……布団敷いてくるわ」
ソラはその場にいることが気まずくなったので、それとなく布団を敷くという口実を使いそこを離れた。
「…………お前もそうなのか?」
リクがソラに向けて何かを言っていたがそれはカイたちの声で打ち消されてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます