第7話 いざ、真に愛する人のもとに ドニ視点(1)

「おおドニっ!! すっかり血色がよくなって――ど、ドニ? どうしたのだっ? どこに行こうとしているんだ!?」

「これより俺は謝罪と関係修復を行いに、テリエール子爵邸へと向かいます!! 今日の夢によって、俺はようやく真実に気が付いたのですよ!!」


 最愛の人は、シルヴィではなかった。最初の婚約者こそが、真に愛する人だった。

 そう早口で父上に伝え、大急ぎでタキシードに着替える。そうして支度を整えたたあとは、直行――したい気持ちを抑え、贔屓にしている2つの店へと向かう。


「反省と再出発には、アレが必要だな」


 寄り道をして購入したのは、特製の花束――100本の薔薇と、300万するエメラルドの指輪。俺の真摯さを表すものを調達し、いよいよテリエール子爵邸を目指す。


 現在地から目的までは、およそ6時間。


 我々貴族にとって長距離移動は慣れたもので、それ故に暇を潰す方法をいくつも持っている。だが今日は、余計なことはしない。したく、ない。



「ごめんよ、リゼット。もう間違わないから。また、1からやり直そう」


「俺はもう、シルヴィなんかに興味はない。シルヴィ――あの女はね、君の足元にも及ばない人間だと気付いたんだ」


「今度こそ、その手を握り続けると誓う。その手はもう、離さない」



 俺は愛する人のことだけを考えて大地を進み、ついに! テリエール子爵邸の門が見えてきた。


「いよいよ、だな。……よし。薔薇とリングを持って――ん?」


 門の前に停まるや、馬車から飛び降りる。そうして自ら来訪を知らせようとしていた俺は、ほどなく眉根を寄せることになった。



「行かないでくれぇぇ!! たのむぅぅぅ!!」

「お願いよぉっ、りぜっとぉぉぉぉ……!! これまでのことは謝るからぁっ!! 行かないでぇぇぇぇ……!!」



 この声は当主夫妻のもので、そんな2人の悲鳴にも似た声が響いてきたのだ。

 門の外まで聞こえるほどの大声を、出すだなんて。なにがあったんだ……?

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