第2話 これからは、ずっと一緒にいられるんですよね

 俺は新聞を夢中で読んだ。アルストロメリア共和国と、マグノリア王国の戦争が始まる。


 アルストロメリア共和国とマグノリア王国は、かつては同盟国だった。

 ともに連合軍を形成して、旧カレンデュラ帝国と大戦を戦った。けれど、終戦後、両国のあいだでは緊張が高まっていた。


 もともと、マグノリア王国は伝統的な王と貴族の支配する国だ。一方で、アルストロメリア共和国は、人々が選挙で議会を作り、その代表者を選んで統治を任せている。国家体制も思想も大きく異なる。


 さらに、マグノリア王国は旧カレンデュラ帝国で圧政を敷き、セントポーリア公国など従わない国を滅ぼした。だから、アルストロメリア共和国は王国を強く非難していた。


 カレンデュラ帝国問題では、共和国が旧帝国の皇女を擁立して自治を行わせようとしていたのに対し、王国はそれに反対していた。


 もっともアルストロメリア共和国も正義の国というわけではない。彼らも彼らの自国の利益のために動いている。旧カレンデュラ帝国や他の小国の利権を抑えたいのだ。


 気づくと、さっきまで言い争っていたソフィアとクレハが、仲良く俺の肩越しに新聞を覗き込んでいる。


 クレハが不安そうに言う。


「義兄さん……また戦いが始まるんですか?」


「ああ。しかも、カレンデュラ大戦以上の戦いになるかもしれない」


 プランタ大陸の二大国家が正面から激突するのだから、恐ろしい犠牲を出すことになる。しかも、両国はすでにアストラル魔法を手に入れている。


 七賢者は、アストラル弾の使用を、帝都カレンに限定して、二度のみ行った。それは彼ら彼女らしかその秘密を握っていなかったからだ。でも、今は違う。


 アストラル弾は、帝都の四百万の人々を一瞬で吹き飛ばした。

 共和国と王国の大都市に、アストラル弾が次々と投下されれば、死者がどれほどになるか想像もつかない。


 ソフィアは腕を組み、俺を見つめる。


「この戦争、どちらが勝つと思う?」


「……最初は拮抗するけれど、最終的には共和国が勝ちそうだ」


「わたしもそう思う。クリスやルシア殿下をクビにしたような国が勝てるわけないわ」


 ソフィアはマグノリア王国に批判的なので、評価が厳しくなるとは思うのだけれど、言っていることは正しい。

 俺やルシアに限らず、内紛で軍の実力者が次々と辞めたり、追放されている。マグノリア王国の兵団はどれも弱体化していることは否定できない。

 もともとマグノリア王国の方が国力でも見劣りするからこそ、国王は焦って周辺国の併合を行っていたという面もある。


 クレハはそっと俺の右腕に触れる。


「でも、義兄さんが危険な戦いに行かずに済んで良かったです」


「ああ、それはクレハも同じだ。士官学校生とはいえ、駆り出されていた可能性もあるし」


 まあ、宮廷魔導師団も、もはや俺には何の関係もない。戦争の混乱に乗じて、ルシア殿下は助けやすくなるかもしれない。

 クレハは頬を赤くした。


「はい。……これからは、ずっと一緒にいられるんですよね」


 クレハが俺の腕にぎゅっとしがみつき、そして、俺を潤んだ瞳で上目遣いに見つめる。クレハの体の柔らかさに俺は思わずどきりとした。

 クレハは「えへへ」と嬉しそうに笑う。


 ソフィアがむっと頬を膨らませて、俺とクレハを引き剥がそうとする。


「隙あらばくっつこうとしないの、クレハ」


「ふうん。ソフィアさんは、やきもち焼いているんですか」


「なっ……! そんなわけないじゃない!」


「そうは思えませんけれど」


 またソフィアとクレハが言い争いを始め、俺は苦笑した。マクダフも肩をすくめ、「ルシア殿下が見たら、怒りそうだなあ……」とつぶやいていた。


 国王や王太子エドワード、そして聖女アリアは、戦争についてどう考えているんだろうか? なにか秘策があるのだろうか?


 ともかく、俺はルシアを助けないといけない。

 そして、俺たちは王都へ向けて旅立った。









<あとがき>



ルシアもそろそろ再登場。


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