第8話 義妹と公爵令嬢とのお風呂!

 大理石の浴場は数十人は入れるほどの広さなのに、クレハはぴったりと俺の隣に座った。まるで肌を寄せ合うように。


 素肌の肩と肩が互いに触れ合い、俺はどきりとする。クレハも、透き通るように白い頬を赤く染めて、俺を上目遣いに、銀色の瞳で見つめた。


「義兄さん……照れてます?」


「別に……」


「やっぱり、照れてるじゃないですか。昔はこうして一緒にお風呂に入ったことも……」


「あったっけ?」


「……一度もありませんでした。だから、今、実現しているんです」


 クレハがうちに引き取られたのは九歳のときだったし、そのとき俺はもう十八歳だった。一緒に風呂に入ったりするわけがない。


 もっとも、十四歳となったクレハと入る方がもっとありえないわけだけれど……。


「どうして急にこんなことをしようと思ったの?」


「旅の途中で何度も襲われて、思ったんです。わたしも、もしかしたら義兄さんも、いつ死んでもおかしくないんだなって。だったら、やりたいことは今のうちにやったほうがいいかなって」


 たしかにシェイクに襲われたときも、ソフィアと対峙したときも、ルシアたちに襲撃されたときも、程度の差はあれ、クレハたちの身は危険だった。


 俺は力を尽くしてクレハを守るつもりだけれど、この先も絶対に大丈夫だという保証はない。


「でも、俺と一緒に風呂に入るのが、やりたいこと?」


 俺が苦笑しながら言うと、クレハは微笑んだ。


「はい。でも、それだけじゃないです。義兄さんの体を洗ったり、義兄さんに体を洗ってもらったりもしてほしいなあって……」


「俺ができないとわかっていて言っているよね?」


「わたしと義兄さんは、血がつながっていないんです。結婚だってできるんですよ。できないことなんてありますか?」


 からかうようにクレハは言うが、その顔は真っ赤だった。恥ずかしいなら、言わなければいいのに。


 クレハが本当に、俺を兄のように思ってくれているのかは、わからなかった。九歳のときに出会った男を兄だと言われて、「はい、そうですか」と受け入れられるとは思えない。


 でも、クレハが俺を必要としてくれて、慕ってくれていることは、たぶん、本当のことだ。

 

 俺はクレハの銀色の髪をくしゃくしゃっと撫でた。

 クレハはそんな俺を銀色の瞳で睨む


「そうやってごまかすんですね?」


「ごまかしてはいないよ」


「……わたしも、いつまでも子どもじゃないんですよ」


 クレハは小さくつぶやき、さらにぎゅっと俺に身を寄せた。そして、俺の耳元でささやく。


「義兄さんは、ルシア殿下のことが好きなんだと思っていました」


「どうして?」


「だって、義兄さんはいつもルシア殿下のことを大事にしていましたし、殿下のためならなんだってしていましたから」


「ルシア殿下は王女だし、俺とは釣り合わないよ。貧乏男爵の息子の俺ではね」


 いくら大戦の英雄になっても、俺は身分としては男爵に過ぎない。

 そう言うと、クレハはぱっと嬉しそうな顔をして、立ち上がった。


「それなら、義兄さんに釣り合うのは……」


 言いかけたとき、予想外のことが起きた。クレハは一枚の白いバスタオル以外、何も身にまとっていない。

 そのタオルがひらりとめくれ、落ちそうになったのだ。

 クレハはかあっと顔を赤くして、慌てて手で押さえようとするが、その弾みに姿勢を崩し、何かにつまずいたようだった。


「きゃああっ!」


 クレハが甲高い悲鳴を上げる。次の瞬間、クレハは俺に向かって倒れこんでいた。

 正面から、クレハが俺に抱きつき、俺はクレハを抱きしめる格好になる。めくれかけたバスタオル以外、俺もクレハもほとんど裸だ。


 しかも、俺の両手が、クレハの小さな胸を握りしめてしまっていた。


「あうっ! そ、そんなとこ、触っちゃダメですっ!」


「わ、わざとじゃないよ……く、クレハ」


「……義兄さん」


 俺は慌てて手をどかそうとするが、手のひらに小さな突起のようなものを感じ、動揺してしまう。

 クレハは「んっ」と小さなあえぎ声をあげた。


 なんとか、体勢を立て直し、俺はクレハの胸から手を放す。

 クレハはちょっと残念そうな顔をした。


「やっぱり、もっと触ってくれてもよかったのに」


「そんなわけにはいかないよ」


 俺たちは互いに見つめ合った。


 そして、クレハは意を決したように、俺にぎゅっと正面から抱きついた。


 体の柔らかい部分のあちこちが、俺の体に当たっている。自分の体温が上がるのを感じた。クレハも恥ずかしそうに目を伏せている。 


「……できないことは、ないって言いましたよね。胸でもお尻でも触ってください。義兄さんになら、わたしは何をされてもいいんです」


 そう言って、クレハはぎゅっと俺にしがみつく。

 小さな、けれど柔らかい胸の感触に、俺はうろたえた。


 思わず立ち上がって逃げようとしてしまい、抱きつくクレハの胸と俺の背中がこすれる。


「ひゃうっ!」


 クレハが甲高い声で悲鳴を上げる。クレハの胸が、俺の背中と密着しつつ、形を変えるのがわかり、俺はどきりとした。


「義兄さん……」


 クレハは俺の耳元で、甘い声でささやく。


 そして、クレハはそのままその小さく赤い唇を、俺の顔にそっと近づけようとした。

 ……な、何をするつもりなんだろう?


「へえ、クリス、クレハ。二人とも、何をするつもり?」


 声がしたのは、そのときだった。俺もクレハも慌てて、浴場の入口の方を見る。そこには、ソフィアが立っていた。クレハと同じくバスタオル一枚のみの姿だ。


「ソフィア? どうしてここに?」


「わたしもお風呂に入ろうと思ったの。誰もいないと思っていたんだけれど、鉢合わせするなんて、間が悪いわね」


 ソフィアは肩をすくめた。そして、かるくかけ湯をする。ぴったりと、バスタオルと金色のきれいな髪がソフィアの体に張り付き、体つきを浮き上がらせる。


 ソフィアはクレハより三つ年上の十七歳で、体つきもそれなりに女性的だ。俺は胸のあたりについ視線を動かしてしまう。


 ソフィアは顔を赤くして、俺を睨む。


「なにじろじろ見ているの?」


「ごめん」


「……まあ、攻略対象のクリスだから、許してあげる」


 ソフィアは、そして湯船につかり、俺たちのそばに来た。そして、くすっと笑う。


「いつまでくっついているの?」


 俺は慌てて離れようとしたが、クレハは俺の右隣に回って、ぴったりと俺にくっつく。

 クレハは頬を膨らませて、警戒するようにソフィアを睨んでいた。


「せっかく、いいところだったのに……」


 クレハのつぶやきに、ソフィアはソフィアはいたずらっぽく微笑む。


「邪魔しちゃったかしら?」


 そして、ソフィアはぴたっと俺の左隣に来た。


「ソフィア?」


「どう? 二人の美少女に囲まれる気分は?」


「良くも悪くも、どきどきするね」


 冷や汗をかく、というのはこういう心境のことだと思う。実際には風呂が熱くて、汗をかくわけだけど……。

 

 両手に花、という状況だけど、素直には喜べない。俺の肩越しに、クレハとソフィアの視線がばちばちと火花を散らしている。


 ソフィアは急に真剣な表情になった。


「驚かないで聞いてほしいことがあるのだけれど」


「たいていのことには驚かないね」


「わたし、あなたのことが好きなの」


 俺はびっくりして、ソフィアを見つめた。クレハも氷のように固まった。

 けれど、ソフィアはにっこりと微笑む。


「冗談よ」


「……ああ、驚いた」


「本題は別にあるの。……王女ルシア殿下が反逆罪で逮捕されたわ」


 ソフィアは青い瞳を輝かせ、そう告げた。





<あとがき>

イチャラブが加速する……1


「クレハたちが可愛い」「一緒にお風呂、良かった!」と思っていただけましたら


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