幸福とは死者の群れの中に生者を見出すこと

編者前書 ~編者ヴェルテータ・プーブリスクスによるご挨拶

 この手記はセプテントリオ王国歴143年8月26日に処刑された王太子の元婚約者にして「戦場の天使」と称えられた、かのフェレティング・ポクリクペリ公爵令嬢が、処刑当日の夕刻に筆者に送り届けた原稿を、原文そのままの形で掲載するものである。


 筆者は王国歴138年1月より我が国の誇る精鋭部隊、第二魔道機甲師団に随行ずいこうし、同師団に衛生兵として赴任したフェレティング公女をはじめとする戦友の皆さまと行動を共にする栄誉を得た。

 当時は開戦より一年が経過し、比較級数的に増え続ける戦死者のため女性や少年まで招集して前線に送らなければ、戦線を維持できない状況だった。

 そんな中、対応が後手後手に回り、戦況を悪化させる一方にもかかわらず、安全な王都から一歩も出ようとしない王族に批判が集まっていた。そこで、当時王太子の婚約者であり、著名な治癒魔法の使い手でもあったフェレティング公女に白羽の矢が立った。

 彼女を王太子ファルシテーティの代理として最前線に派遣し、負傷兵の救助と治療にあたらせることで、王族に対する不満の解消をはかったのである。


 あの泥沼の戦争が終わり、はや半年。平和の訪れとともに、我々は目の前の幸福に浸らんがために、あの悲惨な地獄の残滓ざんしを必死で覆い隠そうとしてきた。

 その一方で、あの地獄の中に置き去りにされた死者たちは、忘却の中で存在そのものまでもが消し去られようとしている。


 読者諸氏におかれましては、ことの真偽はさておき、この手記を最後まで読み通された上で、ご自身の良心と良識に従って、真実が何かを見極められるよう、心から願うものである。


セプテントリオ王国歴143年8月27日

セプテントリオ中央日報 社会部記者

ヴェルテータ・プーブリスクス

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