第1話 キュービットさんをしたなんて、言えるはずない

11月14日 月曜日 15時20分

私立祐久高等学校 1-2教室


#Voice :萩谷はぎや 瑠梨るり


「あ、萩谷さん。このお花を木瀬さんの机に飾ってあげて」

 姫川先生から、そう頼まれた。


 菊の花を挿した小さな花瓶を、木瀬さんの机に置いた。

 昨夜、木瀬さんは旧校舎で死んでいるのを発見されたの。


 発見したのは、学校内への侵入者に気づいて駆けつけた警備保障会社の人。

 私立高校だから、最近はいろいろ物騒なので、警備保障会社と契約しているの。

 

 だけど、広い校内の全てに警備が行き届いている訳じゃない。

 プライバシー的な問題もあって、監視カメラや人感センサーなどの機械警備が敷かれていたのは、教務棟の職員室や理事長室など一部だけだった。

 だけど、旧校舎はちょっと訳アリで、機械警備の対象にされていたの。


 担任の姫川先生から説明された内容によると――

 理科準備室で人感センサーが、に反応して、侵入者がいる疑いから、警備保障会社の人が出動した。

 理科準備室は、特に異常はなくて、保管している薬品類も盗難された様子もなかった。


 でも、帰る前に旧校舎の周囲をひとまわり確認したところで、旧校舎の外階段で倒れている木瀬さんを発見したらしいの。


 すぐに救急車と警察が駆けつけて―― でも、木瀬さんは即死状態だったそうなの。詳しい様子は、話してもらえなかったのだけど……


 そして、警察の人が疑問に思ったことがあって…… クラス全員の生徒が、警察から事情を聴かれることになった。


 木瀬さんは、亡くなる直前に、旧校舎からクラスの男女を問わず、ほぼ全員に電話していた。スマホの発信履歴を調べたら、短い時間に次々と手当たり次第に電話をかけていたことが、わかったの。


 電話なんて、最近はあんまり使わない。連絡ならLINEで済んでしまう。

 だから、電話に出たのは一部の生徒だけで、しかも、誰もがまさかこんなことになるとは、考えもしなかったの。


「被害に遭った女生徒は、おそらく差し迫った危機を感じて、助けを求めたと思います。しかし、誰も警察へ通報していないとは――?」

 取り調べにあたった警察の人が不審に感じたのは、そこだった。


「季節外れの肝試しなんてあり得ない」

「あの木瀬が泣きそうな声で電話してくるなんて、悪い冗談だと思った」

 誰もが、真に受けなかったと―― 警察の人からの聞き取りに答えていたの。

 確かに、木瀬さんは、素行が良いとは言えない。わたしもいじめられていた。

 だけど、それでも、まさか、殺されてしまうなんて…… 


 そして、わたしも警察の人から事情聴取された。

「最後に電話が繋がったのは、萩谷さん、あなたですよね?」

「はい」


「被害に遭った木瀬さんは、あなたとの電話の直後に亡くなったと考えられます。何か、気になることはありませんでしたか?」

「あの、電話に出たのだけど…… 木瀬さんは何も答えてくれなくて……」

 これは事実だ。

「電車の中だったので、仕方なく電話を切りました」

 これも事実だ。


 警察の人からの説明だと、わたしの電話の直後に木瀬さんは亡くなっている。いいえ、県警の捜査一課の人たちが事情聴取に動いているのだもの。殺されたのだと思う。

 ふだん、わたしは木瀬さんに虐められていたから、これ以上は、何も感情が湧かなかった。驚いた。でも、驚いただけで気持ちが動かないの。


 警察の人は、それ以上はわたしから聞き出そうとはしなかった。

 でも、ひとつだけ―― 気になることはあった。

 だけど、言えなかったの。


 先週、わたしたちはをした。

 木瀬さんと籠川さんとわたしで…… 


 きっと、それが原因だと思った。

 だけど、そんな非科学的でオカルトじみたこと、絶対に言えない。

 話したところで、笑われるだけだと思った。

 

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