第3話家に……



そう言って御堂が差し出したのは、ちょっと間の抜けた表情を浮かべている猫のキーホルダー。


よく見るとT.Hのイニシャルが入っている。


「どう?」


「どうって…」


学校ではいつもゴムバンドでしっかりと髪を括ってポニーテールの御堂だが、今は外していて、肩までかかるほどの艶々の黒髪をおろしている。


少し新鮮だ。


…何て御堂には絶対に言わないようなことを思いながら、僕はキーホルダーを受け取った。


「ありがとう。貰っておくよ。鞄にでもつけておく。でも別に来週学校であった時でもよかったのに」


言った瞬間に一言多かったな、と後悔したが御堂はブンブンと首を大きく横に振って、僕が握っているキーホルダーを見て、きっぱりと言った。


「その日は誕生日じゃないから。それに毎年この日誕生日に渡しているのに、今年だけあげないってのは変だよ」


「そういうところマメだよな」


「……バカにしている?」


「してない。してない」


ちょっと怒気を含んでプクッと頬を膨らませている御堂に対して、慌てて苦笑いをして誤魔化す。


プレゼントは幼稚園の頃から毎年貰っている。


マグカップとか、ノートとか、お菓子とか……そんなモン。


僕も御堂が誕生日になればプレゼントしていた。


別に、特別な意味なんかない。


毎年の恒例行事みたいなもんだ。


ただ、二・三日が過ぎたあたりで御堂の誕生日に気がついて、慌てて何をプレゼントするか考えていた僕と違って、毎年きっちり当日に渡してくる御堂に頭が上がらないだけ。それだけ。ホントにそれだけ。



「……ル?」


「え?」


「あー聞いてなかった。今何か別のこと考えていたよね?」


「……」


何か言っていたらしい。

御堂は背中からリュックを外して、床に置いて、グイと一歩僕の方に身を寄せてきた。


「ごめん。何て言ったの?」


「家、入っていいって聞いたんだけど? ホラ、いつまでも外に居づらいし…」


「……」


両腕をクロスして、周囲を窺うようにキョロキョロしだす御堂。


通りかかった人の何人かが、それに呼応するかのようにこちらを見てくる。


——視線が痛い。


これじゃ僕が悪いみたいじゃないか。


「やっぱダメ? すぐ帰るから。母さんには私がうまく言う。それでもダメ?」


「…うまく言う?」


「うん。一応この中に着替えあるんだけど……」  


「——ッ」


なんか会話が噛みあっていない気がしていると、御堂はしゃがみ込んでカバンのファスナーを開け、中から下着を取り出そうとする御堂の手を慌てて、制した。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る