僕は僕の声を知らない

夜道に桜

第1話暗闇の中で



小さな頃から何でもある程度出来た。


授業だけ聞いているだけでテストは学年で2、3番になれたし、スポーツも上手い人の動きを見れば、真似をするだけで上手くなれた。


ピアノだって、弾いている人の手の動きを観察すれば出来たし、流行りのゲームもコツさえつかめばすぐに上達した。



放課後、カラオケで遊んでいた高城とふとその話が話題にあがった。


高城は僕の事を器用な奴、と言って羨ましがっていたが、「何も難しくない」と返答すると、「嫌味かよ巧、人生楽勝だろ? 俺、勉強できねぇから親父に雷しょっちゅう落されるんだぜ」と肩を指先で小突いてきたが、直後「わ、わりぃ……」と謝ってきた。


自分の顔は鏡で見ないと分からないけど、多分僕はその時顔がこわばっていたんだと思う。


すぐに平静を装って顔を作ったけど、事情を知っている高城の前では何の意味も為さないんだと、帰宅途中後悔した。


☆★☆


「ただいま…」


「………」


いつものように条件反射で誰にも聞こえないぐらい小さな声で呟いたが、返事は当然ない。


不気味な静寂に包まれた我が家。


パチッと電球のスイッチを入れて、僕は一人で夕ご飯の食事を始めた。







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