墓参り

 それから数日の間、俺は改めて故郷であるアトラス王国を見て回り、実家がある郊外へと出向いた。

 3年ぶりに見た我が家は手入れが全くされていなかったためか、廃墟のような雰囲気が漂っていた。

 仮にも森に近いところだ、雑草が生え散らかされ、雨風にさらされ放置された跡が多く残っている。

 そんな中でも父さんのお墓は綺麗な状態で保存されていた。

 きっと誰かがこまめに手入れしてくれているのだろう、綺麗な花が咲いた花瓶がお墓の前に置かれている。

 俺はこの3年間で経験したことを父さんに報告した。

 長い時間目を瞑っていたせいか、報告が終えた時に差し込んできた光が強くて目が眩む。


 俺の記憶にある父さんには追いつけていない。

 剣の腕前も神獣の使い方もまだまだだ。

 まだ俺は父さんのようにはなれていない。


「父さんに追いつくことができた時、改めて報告に来るよ」


 そんな日が来るかどうかも分からない。

 だけど俺は理想を追いかけ続ける。

 父さんが俺を救ってくれたように、俺も誰かを救うことができるように。



 城に戻ったところで数日ぶりに師匠に会った。

 今は元の職場に戻ってヒーコラやってるはずだ。


「精が出ますね師匠」

「ちょうどいいところにいたなアルバス。お前に用があったんだ」

「俺ですか?」

「例の件、明日の正午にやることが決まったぞ」


 例の件とは魔獣掃除人ビーストスイーパー会議のことだろうか。

 そんな唐突に言われても困るぞそれは。


「いくらなんでも明日なんて、今からヴィリャンヘルムに行っても間に合いませんよ」

「違う違うそっちじゃない。それは国王から連絡があるはずだ」

「じゃあ何の件ですか?」

「決闘だよ」


 決闘と言われて思い出した。


(───エルロンドか)


 確かにあの時の件は師匠預かりとなっていた。

 アイツとは一度しっかりと決着をつけなければならない。


「向こうにも既に連絡はしてある。場所は騎士団の演習場を一つ借りることとした。立ち会いは3番隊騎士隊長にお願いしてある」

「すいません、お手数お掛けしてしまったみたいで」

「構いやしないさ。あの時の彼の発言はとても許されるべきではない。叩きのめすならしかるべき場所でだ」


 師匠が意地悪く笑った。

 法やルールにお堅い師匠だが、やられたらやり返せ的な考え方なところは結構好きだ。


「俺もその時間は見にくるからな。ああ、それと一つだけ課題をお前に出しておこう」

「課題、ですか?」

「私の弟子としての卒業試験だと思ってもらえればいい。なに、そんな難しいことじゃない──────」



 ───────────────


 ─────────


 ─────



 部屋に戻った俺は使用人に国王陛下がお呼びになられていると聞き、陛下の元へと向かった。

 恐らくこっちは本当の例の件についてだろう。

 扉をノックし、入室許可の返事を頂いてから俺は部屋の中へと入った。


「お待たせしました。魔獣掃除人ビーストスイーパーアルバス=トリガー、参りました」

「うむ。緊急招集会議の日取りが決定した。今日より5日後、ヴィリャンヘルム王国にて行われる。各国の魔獣掃除人ビーストスイーパーも集まるとのことだ」

「5日後……思ったよりも早いですね。ガイエンス国からはもう少しかかる気がしますが……」

「ガイエンスの魔獣掃除人ビーストスイーパーは所用でヴィリャンヘルムに近いところにいたらしい。『帰還腕輪』が自在に使えるようになれば便利なのだがな」


 ガイエンスでは多くの便利な発明品があるが、その中でも最も魔獣討伐人にとって重要な発明品が『帰還腕輪リターンリング』だ。

 メインとサブの二つをペアリングさせることで、離れていてもサブの置いてあるところへ転移することができる。

 一度使ってしまうと1ヶ月間の充電期間を必要とするため決して使い勝手が良いものとは言えないが、これは基本的に自国に魔獣が出現した時に使用するためのものだ。

 この発明品のおかげで魔獣掃除人ビーストスイーパーは自国に留まり続ける必要がなく、自由に冒険することが許されている。


 もしかしたらガイエンスは既に、さらに上質な物を発明している可能性もあるかもしれない。

 だが、それを俺達に渡すような真似はしないだろう。

 魔獣に対抗するために協力するのは全世界共通の認識。

 しかし、自国の利益を一番に考えているのはどこも同じなのだ。


「明日の夜にでも出発します」

「うむ。頼んだぞ」


 俺は一礼して部屋を出た。

 明日、エルロンドとの決闘を終えた後、ここを発つとしよう。


 そういえば…………リオナの奴、結局帰ってこなかったな。

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