最弱最強の魔獣掃除人《ビーストスイーパー》
旅ガラス
序章 神託編
召喚前夜
「みなさん、明日はついに待ちに待った〝神託〟を授かる日ですね」
2年間、教師として俺達の面倒を見てくれてきたエリーナ先生が涙ぐむようにして言った。
10歳から学園に通うことになり15歳の卒業の日、俺達は神託を授かることになっている。
エリーナ先生は4回生から担任として職につき、2年間だけしか教えてもらってこなかったが、面倒見が良く真摯に俺達と向き合ってくれた。意外と感動しいな先生みたいだ。
「あなた方の将来が決まる日とも言えます。どのような結果になったとしても取り乱すことなく、自分の進む道を考えましょう」
そう言って最後の授業が終了し、先生は教室から出て行った。
「……アル、緊張するね」
声を掛けてきたのは幼馴染のリオナ=ベルガード。
キラキラと光に反射する銀色の長髪を持つ彼女は、いわゆる由緒正しき騎士家系の生まれで、この国においても過去の実績から国王直々に貴族と並ぶ階級を与えられるほどの恩賞を頂いており、代々神託によって授かる神獣はレアリティが高い。
「ああ、絶対に最高の
「平民のトリガーがか?無駄無駄!お前みたいなやつは一ツ星確定だよ!」
「エルロンド……」
横からチャチャを入れるように笑ってきたのは、貴族階級の中でも上級貴族に位置しているギルバート一族の長男で、何かにつけて俺を見下す面倒臭いことこの上ない男、エルロンド=ギルバートだ。
「神託で授かる神獣には才能が大きく左右する!お前のような平民が選ばれるかよ」
「言ってろ。何も生まれが全てじゃないことぐらい知ってるだろ」
「はっ、生まれが貧困だと心も貧しくなる。神獣は心の力が大切なのにな」
「やめてよエルロンド。アルを挑発しないで」
リオナが仲裁に入った。
「リオナ〜、いい加減こんな先の無いやつは見限った方がいいぜ。どうせリオナは騎士団志望だろ?僕も騎士団志望だし、仲良くしようぜ〜」
「結構です。アルだって騎士団志望なんだから」
「無理無理無理!ぜって〜無理!ランクの低い神獣じゃ騎士団は入れねーから!ぎゃははははは!」
「アル、行こ」
「あ、ああ」
「明日が楽しみだなアルバス=トリガー!」
大声で罵倒してくるエルロンドを尻目に、俺はリオナに手を引かれて教室を出て行った。
※ ※ ※
この世界では
それは15歳の成人を迎えた際に神託と呼ばれる儀式により契約を結ぶ生物のことで、自身の魂、心と直接契約を結ぶ。
神獣は魂と直接契約を結ぶからか、生涯に1体しか契約することはできず、2体目からは心の負担が大きすぎるため契約者が死んでしまうのだ。
15歳の成人と指定しているのも、若すぎると心が未熟であるため負荷に耐えきれずに死んでしまうのだとか。
ちなみにこのアトラス王国では学園を卒業する際にまとめて神託を行うとされている。
神獣は
レアリティは一ツ星〜五ツ星の五つに分かれており、レアリティが高いほど神獣の強さも大きく変わるため、高レアリティの神獣を手にした人は国からも戦力として重宝されることから、進路の幅が広がるのだ。
特に五ツ星などは滅多に見ることが出来ず、全人類の0.1%にも満たないとされ、国においても最高戦力の一つとして数えられる。
逆にレアリティの低い神獣だった場合は、神獣を必要としない職種へと絞られてしまう。
残酷かもしれないが、仕方ないことなのだ。
さらに神獣は普段カード状に収納されており、『
たとえカードを破かれようとも、燃やされようとも、奪われようとも本人の意思で手元に戻すことが可能で自由に出し入れすることができるが、一度の召喚で心の力を大きく消耗することから何度も出し入れすることは難しいとされている。
そして、神獣は不死身ではない。
神獣が怪我を負ってもカードに収納すれば、契約者の心の力を使用し傷を癒すことができるが、治療不可なほどのダメージを負えば神獣は死ぬ。
もしも無理に治癒しようとしてしまうと契約者の心が死に廃人となり、最悪命を落とすこともある。
そうやって廃人になってしまった人を、俺達は授業の一環として見学させてもらったことがある。
とてもじゃないがアレは人とは呼べなかった。
学園でも散々教えられてきたことだが、神獣の結果は俺達の人生そのものに直結する。
だから明日は人生で一番大切な日だと言っても過言じゃないんだ。
「エルロンドの奴、最後まで嫌な奴だな」
「アルなら絶対凄い神獣だよ。だって昔から努力してきてるの、私知ってるもん」
帰り道、リオナはいつものように柔らかい笑みを浮かべながら言った。
リオナは本来なら俺が幼馴染なんて呼ぶにもおこがましいぐらいに地位の高い人間だ。
だけど、俺の育ての親である父さんとリオナの父親が知り合いだったこともあり、小さい頃から仲良くしていた。
通っている学園も父さんのツテで入れてもらったところだ。
父さんが一体何者なのかは分からないが、そのおかげでリオナと同じ学校に通うことができたんだから、深い追及はしなかった。
というか、教えてくれなかったし。
「俺とリオナ、二人ともすんげー神獣と契約して、騎士団か冒険者になる。これは昔からの約束だもんな」
「騎士団もいいけど、やっぱり冒険者もいいよね。アルと二人で各地のダンジョンや未開の地を攻略、楽しみだなぁ」
「やっぱまずは神獣のレベル上げだよな。少なくとも10レベルぐらいまではいきたい」
神獣にはステータスがある。
攻撃力、防御力、素早さ、特殊能力、スキルと分かれており、それらはカードのテキストに記載されていて必ずしも数値が高い方が有利、というわけではないが、神獣の強さを測るには分かりやすい指標となっている。
レアリティは決して変わることがないが、レベルは存在し、生き物を殺した際に得られる魂を糧にレベルが上がるのだ。
魔物と呼ばれる生物を狩ることでレベルをあげるのが一般的だが、中には他人の神獣を殺してレベルを上げようとする輩もいるようだ。
魂の元と言っても過言ではない神獣を殺せば大幅な経験値獲得となるが、神獣殺しは殺人と同義とされているため、法律で禁止されている。
ちなみに人間を殺しても得られる経験値は少ないらしい。
現在この国で最強と呼ばれる神獣は、五ツ星の68レベル『
他国との戦争時に敵の神獣を多く殺したことでレベルを上げ、現在の高レベルになったらしい。
レベルやレアリティを公表しているのは、自国の軍力を他国に示すためなんだと。いわゆる牽制ってやつだな。
「明日、全てが決まるね」
「ああ。今日は早く寝て、明日に影響しないようにしようぜ」
「うん!それじゃあね、アル」
「またな」
明日への期待に胸を膨らませながら、俺達は別れた。
郊外から少し離れた森の近くに俺の家はある。
さして大きくはないが、とても住みやすい家だ。
俺は扉を開けて家へと入った。
「ただいま父さん」
「おお、お帰り。今日の主役が帰ってきたな」
今年で50になる父さんは左目と左腕を失っており、少しづつ髪に白髪が混じる歳になっていた。
15年前、父さんは戦争で左目と左腕を失ったところで俺を拾ったと話していた。
また、その際に神獣も死んでしまったらしく、今では神獣を必要としない職に就いている。
だけど剣術の腕前はピカイチで、そこらの魔物や神獣なら殺せるのではないかと言うほど強い。
それに加えてリオナの父親とも仲が良いことから、実は騎士団に所属していたんじゃないかと俺は思っている。
「主役ってどういうことさ」
「卒業祝いに決まってるだろ。おめでとう、アル」
父さんが微笑みながら一本の剣を受け渡してきた。
「これは……?」
俺は剣を受け取り、鞘から少し刃を取り出した。
ギラギラと眩い光を反射させ、俺の顔を映し出す。
よく手入れされた格好いい剣だ。
「いやな?何をプレゼントとして渡そうか色々と迷ったんだが、アルが喜ぶものというのがピンと来なくてな。そこで実用性のあるものをと思って、父さんが戦争時代に使っていた剣をあげることにした」
「いいの?そんな思い出のものを」
「剣は使われてナンボだからな。まぁ……神獣がいれば基本的に自分が戦う必要はないんだが、小さい頃からアルには身を守るための全てを教えてきたわけだし、戦う力は複数あったほうがいいからな。もし重くて邪魔になると言うなら無理して使う必要も…………」
「ううん、凄い嬉しいよ!俺だって父さんから教わった剣術を無駄にしたくはない。絶対に役に立つはずなんだ」
「そうか……」
父さんは少しホッとしたように息をついた。
内心、不安に思っていたようだ。
騎士団に入るとなれば自身の剣術も必須となるので、父さんから教わったことは無駄になることはないだろう。
噂だと、剣一本でダンジョンをいくつも攻略している冒険家なんかもいるみたいだ。
「アルが成人か……時が経つのも早いもんだ」
「ここまで成長できたのは父さんのおかげだよ。改めてだけど…………ありがとう」
俺はかしこまるようにして頭を下げた。
戦争孤児だった俺を、父さんは引き取ってくれた。
その時の記憶は俺にはないけど、父さんがいなかったら今の俺は無い。
こういう機会だ、感謝はいくら伝えてもいいはずだ。
「頑張れよ。いつでも父さんはお前のことを見守っているからな」
「うん」
その日、久しぶりに父さんと長く語り明かした夜となった。
※ ※ ※
次の日朝早く、神託の儀式が行われる神堂へと出向くとリオナが既に来ていた。
「アル!いよいよだね!」
「おはようリオナ。ついにだな」
天井が高く、窓がない建物の造りは光が入ってくるのを遮っているが、中心の天井のみがガラス張りとなっており、地面に描かれた魔法陣を明かりが神々しく照らしている。
あの中心円で神託を授かるのだろう。
その魔法陣の横には大きな岩盤が置かれていた。
話では、召喚した神獣がカード時に記載される内容があの岩盤にも記載されるらしい。
おそらくはどんな神獣なのか、他の人にも伝わるようにということだろう。
今日、神託を授かるのは俺達の学園の卒業する生徒のみで、おおよそ25名。
それ以外にも多くの見学者が来ている。
この国で国王陛下の次に偉いとされている宰相ヴェンゲル様に商会を営む代表者、派遣型傭兵団の創業者。
そのほかにも良い人材を確保しようと多くの著名人がこの神堂へと訪れていた。
そして中には俺の見知った顔も。
「ロートルおじさん!」
「久しぶりだねアルバス。いつもリオナの面倒を見てくれてありがとう」
王国警護騎士団団長、ロートル=ベルガード。
リオナの父親もこの場に来ていた。
「1年ぶりぐらいですね」
「忙しくて中々会う機会がなかったね。リオナからアルバスの話はしょっちゅう聞かされていたんだが」
「お、お父さん!余計なことは言わないで!」
リオナが顔を真っ赤にさせながらロートルおじさんの肩をぽこぽこと叩いた。
この国の軍のトップなのに相変わらずフランクで話しやすい人だ。
「アルバスとリオナの大事な日を間近で見ることが出来ただけでもこの職に就いている甲斐があるというものだ。アルも騎士団志望なんだろう?」
「そうですね。絶対にいい神獣と契約してみせます!」
「君なら問題ないだろう。なぜなら、あのルーカス=トリガーの息子なんだからな」
血が繋がっているわけではないんだけどね。
昔からロートルおじさんは父さんのことを評価していた。
「……それに、万が一レアリティが低くても君の剣術なら周りを黙らすことぐらいできる。多少の融通なら効かせられるから任しておきたまえ」
コッソリと俺に耳打ちしてきた。
「いいんですか?軍のトップの人がそんなこと言って」
「アルバスが入ってくれないと、リオナが悲しむのさ」
ああ、なるほど。
それは父親として一大事だ。
「リオナが高レアリティの神獣と契約するのが確定みたいな言い方ですね」
「まぁ……何故かは分からないが、うちの家系はみんな四ツ星以上の神獣だからな。リオナの兄達もみんなそうだし」
そうなんだよなぁ。
リオナには二人の兄がいるけど、どちらも四ツ星の神獣で騎士団に入団している。
リオナもきっとそうなるだろう。
「でも俺も高レアリティの神獣と契約しますから、その心配はいりませんよ」
「そうだな。期待しているよ」
ロートルおじさんは俺の肩をポンと叩いて離れていった。
「何を話してたの?」
「世間話さ」
しばらくすると、白いローブを身に纏ったお爺さんが現れた。
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