第13話 深海魚の小夜曲
「世界よ、私は気づいちゃったよ?モテる最大の近道ってバンドでしょ?」
『………。』
「ガールズバンド時代って訳ね。その昔、バンド王、ガールズ・D・ロジャーは言いました。」
『誰よそのパチモンの王様。男なのか女なのかはっきりして欲しいわガールズ・D・ロジャー。』
「俺のピックか?欲しけりゃくれてやる。探せ。この世の全てをロッカーに忘れてきた。」
『ただの忘れた報告じゃない。なんなのガールズ・D・ロジャーって。なんで複数形なのよ。』
「世はまさに大ガールズバンド時代!」
『初耳ね。そんな時代が来てたのね。』
「というわけで、私はガールズバンドやろうと思うんだ。」
『ガールズバンドの時代は来てないからやめておきなさい。』
「なんでよ!ガールズバンドっていつの時代も眩しくて、モテるって聞いたんだけど!」
『仮にガールズバンド時代って言うものがあったというなら、到来したのは12年前よ!うんたん♪うんたん♪な女子高生がマイギターに変な名前つけてた頃ね。』
「放火後にティータイムしてそうだね。」
『放課後ね。愉快犯なの??』
「っていうか、そんな話はどうでも良いんだよ!今のウクライナ情勢くらいどうでも良いんだよ!」
『どうでも良くないと思うけど。』
「私がバンドやろうとしてるのにまるで他人事みたいじゃん!」
『他人事だもの。』
「ちゃん美優、昔ベース習ってたじゃん?」
『ベースなんて習ってないわよ。私をバンドに入れるつもり?』
「ちゃん美優頼むよー、ベース始めてよーー。私もトロンボーン始まるからー。」
『バンドを何だと思ってるの!?』
「ボーカル兼ギター兼ドラムを私やるから、ちゃん美優ベースね。」
『バンドを何だと思ってるのぉぉぉ!?』
「モテるんでしょ?ガールズバンドってモテるんでしょ!」
『モテるのは歌や楽器がうまくて可愛いガールズだけよ!奈緒のような深海魚みたいな顔じゃ無理よ!』
「誰が深海魚だ!!!」
『体がゼラチンで覆われてるあのブヨブヨした奴にそっくりじゃない。』
「ブロブフィッシュだよね?世界一ブサイクな魚と言われてる奴だよね!?」
『マツコデラックスさんみたいで可愛いじゃない。』
「ブロブフィッシュをマツコデラックスみたいだと言ったよこの子。末恐ろしい。」
『わかる?ブロブフィッシュがボーカルやってるバンドがモテると思う?」
「だから私、ブロブフィッシュじゃないって!それに私こー見えて絶対音感だから!」
『マジか、知らなかったわ。まあ、ルックスが基準点を大きく下回ってるし、神様がそれくらいの才はくれたのかもね。』
「なんで私の顔が深海魚と決めて話が進んでるのさ!泣くぞ!それに、歌声は美声と呼ばれてるんだぞ私は!天使が舞い降りてきそうな美声と巷で騒がれてるんだぞ!」
『おかしいわね、そんな噂聞いたことないわよ?同じ巷なのに。』
「音楽に関しては全スペック兼ね備えてるからね。寝起きで平原綾香さんのjupiterを歌えるからね!」
『それは、凄いわね!』
「風邪引いててもカラオケで千の風になってを歌って90点台出すからね!」
『それは、ほんと凄いわね!風邪ひいてるのにカラオケボックスにまで足を運んで病原菌をばら撒けるその無神経さ!』
「どこに感心してるの!?」
『感心はしてないわよ。感染したわよ。』
「何の病原菌に!?」
『でも、奈緒って歌ってる時体とか大丈夫?重力とかに勝てないって聞くけど。』
「ねえ、まだ私のことブロブフィッシュだと思ってるの?」
『いや、マツコデラックスみたいだと思ってるわ。』
「さっきマツコデラックス=ブロブフィッシュって言ってたよね?」
『良いじゃない、マツコデラックスみたいな毒吐く歌を作れば良いじゃない。』
「なるほど、名案だね。まず、バンド名はディープシーガールにしよ。」
『深海女になったわね……。』
「曲名は、恋の水圧消えました☆」
『ダサっ!!!痛いグループになったわね!』
「聞いてください。恋の水圧消えました☆
〜♪
浮力を失った世界に この恋心だけが迷子になる 理性も知性も溺れていき 地上へ向かってるのか 深海に向かってるのか 分からなくなる 壊れた頭の脳裏には 泡のような思い出が 青い世界で私は溶けていく 探し求めてた竜宮城は 暗い海へと消えていった〜♪」
『本当に歌詞を作ったのね。ブロブフィッシュの。』
「違うわーーーー!!!!」
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