第51話 魔力の質

「偉いわねー、よくやったわ!」


 通信装置のスクリーンを空中に展開すると大画面一杯に志乃の満面の笑みが浮かび上がった。

 スクリーン越しとはいえ、そのはしゃぎように伊織が若干引く。


「どうしたんだよ?」


「先般転送してくれたダンジョンコアよ!」


 魔力収集装置に設置したダンジョンコア三十個の魔力が満タンになったので、ターミナルにある本社へ転送したのが二日前の事だった。

 受け取り手続きをした職員が腰を抜かしていたのを思いだす。


「ああ、あれね」


「なあに? 反応が薄いわね-」


 お祖母ちゃんつまらないわー、と年甲斐もなく拗ねてみせる。


「俺とアルマがダンジョンにいるだけで営業成績トップが取れると教えてくれたのは祖母ちゃんだろ?」


「それよ、それ! 今日会議があったのよ」


 上機嫌な志乃が軽やかにステップを踏みながら会議の様子を話し出した。


「伊織のことを後継者と認めたくない勢力があるのは話したわよね?」


「話だけは」


 興味なさそうに返した。

 派閥の規模や構成するメンバーが誰かなどは知らされていなかったし、伊織自身も知りたいとも思わなかった。


 志乃は伊織の薄い反応をスルーして話を続けた。

 会議の席で伊織が納品したダンジョンコアの数を報告したところ、その場にいた者たちは一様に絶句をしたのだと志乃が嬉しそうに語る。


 志乃としてもごねるよりもサクリと再検査をして伊織の力を証明する方が得策だと判断した。

 結果、ダンジョンコアに蓄えられていた魔力は非常に高品質なものだと判明する。


「こちらの派閥はお祭り状態で、あちらの派閥はお通夜みたいだったわ」


 久しぶりに楽しかった、と志乃がスクリーンの向こうで高笑いをした。


「役に立てたみたいで俺も嬉しいよ」


「もう、メチャクチャ役に立ったわ。この調子でガンガンあいつらの心を折ってやりましょう」


「実はダンジョンコアのことで相談があるんだ?」


「なにかしら?」


 志乃が伊織をうながした。


「魔力収集装置を三十基とダンジョンコアを三十個あずかっているけど、これの数をもう少し増やせないかな?」


 あれから有り余る魔力を使ってダンジョンの拡張を図ったことを伝える。

 さらに、拡張にともなって配備した魔物から供給される魔力量が増えたこと、ダンジョンを訪れる現地の人間が増加傾向にあることを告げた。


 伊織が管理するダンジョンの階層は三十階層まで増えていた。

 各階層の広様格段に広がっている。


 当然、それに伴って配置している魔物の種類と数も増えて。


「今後は前回以上のペースで魔力が供給されるという理解であっている?」


「ああ、そう理解してもらって構わない」


 破顔する志乃に対して、伊織は「しかし」と続けた。


「魔力を供給する魔物や冒険者が増えたことで、相対的に俺とアルマの魔力が占める割合が低下する。そうしてら魔力の質が落ちる可能性も出てくるかも知れない」


 ここまでの出来事を振り返れば、ダンジョンコアに蓄えられた魔力の大半が伊織とアルマのものであることは疑いようもなかった。

 他のダンジョンから集められる魔力の質がここほど高くないのは、ダンジョン内に配置した魔物と訪れる冒険者から集められる魔力の質が高くないからだろう。


 魔力を集める先が同じなら集まる魔力の質も同程度となることが予想される。

 伊織はそのことを志乃に説明した。


「なるほど、魔力の質が落ちる可能性ね……」


 考え込む志乃に伊織が提案する。


「そこで魔力収集装置とダンジョンコアを増やして、そのなかから高品質なものだけをそっちへ転送することが出来ないか考えたんだ?」


「質を維持する代わりに量もそのままということね。でも、問題もあるわ。それだと質の担保ができないでしょ」


 志乃の指摘ももっともだった。

 伊織もそのことを懸念していただけに苦笑いが漏れてします。


「質の担保はできないけど、質の低下を指摘されることは避けられると思うよ」


 自分たちと同程度の質であっても、相手を責める糸口を見つければ理不尽なことを言ってくることも予想出来る。

 それを避けられるだけでもやる価値はあると言った。


「魔力の質が低下するのを予想して、その対応策を考えてのは素晴らしいわ。要求通り増強するための設備をてんそうさせましょう」


「ありがとう、祖母ちゃん」


 伊織の笑顔を満足げに眺めていた志乃が、「ところで」と話題を変える。


「陽介君と詩織ちゃんたちを日本に帰す日程だけど、前回提示した日よりも前倒し出来そうだけどどうする?」


「前倒し?」


「ええ、二週間早められるわ」


 記憶の消去と魔法の封印の準備が整ったことを告げた。


 伊織は少し考えるが、キッパリと言う。


「予定の変更はなしで頼むよ」


「陽介君と詩織ちゃんに知らせないで決めちゃっても良いの?」


「陽介と詩織だけならいいけど、結局他の生徒にも知らせないとならないからね。揉める原因は作りたくないんだ」


 予定の前倒しが出来ると告げたところで、彼らが決断の前倒しを出来るとは考えにくい。

 むしろ、予定が前倒しされたことで混乱を招いたり、反感を買ったりする可能性の方が大きいように思えた。


「何だか、大変そうね」


「人間関係の良い勉強になると割り切って対応するよ」


 伊織はその後、幾つかの連絡事項を受け取ると志乃との通信を遮断した。


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        あとがき

■■■■■■■■■■■■■■■ 青山 有


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