第14話 魔物の配置……?

「落ち着こう、まだ致命的な失敗をしたわけじゃない」


 涙目のアルマの肩を両手で抱いた伊織が、彼女の目を見詰めて力強く言った。

 自分に言い聞かせるための言葉だったのだが、そんなことを知らないアルマの目には伊織が落ち着いて映る。

 

「後継者様……。さすがです!」


 そんな彼に頼もしささえ覚えた。


「それで、どうするんですか?」


「各階層に適した魔物を配置すれば済むことだ」


「おおー!」


「と言うことで、次は魔物の配置を一緒に考えてくれ」


「分っかりましたー」


 立ち直りの早いアルマと二人、魔物の配置方法を知るために志乃の手引書を読み進めることにした。

 読み進めること数分。


 意外と早く壁にぶち当たっていた。


「……なんてこった」


「いま確認したら研修の資料にも書いてありました……。アハハハハ……」


 頭を抱える伊織の傍らで、真面目に研修を受けていなかったアルマの乾いた笑い声が響く。


「ダンジョンの魔物が現地調達とは予想の斜め上だった……」


 ダンジョンの階層同様、魔物もダンジョンコアの魔力を使って簡単に作り出せるものあと思っていた。

 しかし、現実は常に想像よりも厳しい。


 必要な魔物を捕獲してダンジョンに縛り付ける必要があった。

 捕獲した魔物を配置してもそのままでは当然逃げ出す。


 逃げ出さないまでも、勝手に別の階層に移動して魔物同士の生存競争が始まる。

 下手をすると同階層、同族で殺し合いを始めてしまう。


 まさに弱肉強食の世界である。


 しかし、それを防いでダンジョンの駒として利用する術が伊織の持つ呪縛魔法だった。

 伊織のなかで「大切なのは空間魔法と呪縛魔法よ」と志乃の言葉が蘇る。


「祖母ちゃんの言っていた意味が分かったよ」


「何か言われたんですか?」


「空間魔法と呪縛魔法が大切で、その二つを持っているってだけで才能があるそうだ」


「マスターとサブマスター、秘書になるにはそのどちらかが必須ですから、両方持っているというだけで確かに才能ですね」


 空間魔法と呪縛魔法を両方持っているダンジョンマスターをアルマも知らないと言った。

 アルマ自身も呪縛魔法は持っていない。


「魔物を捕まえて呪縛魔法で階層に縛り付けて言うことを聞かせるのか……」


 少し非道だな、とも思う。


「後継者様の腕の見せどころですね」


「その前に魔物を捕まえないとならないけどな」


「弱い魔物を捕まえればいいですよ。スライムとかゴブリンとかコボルトあたりなんてどうです?」


 すっかり立ち直ったアルマが明るい笑顔で励ます。


「ポジティブだな」


「それがあたしの取り柄ですからー。あ、でもそれがだけじゃありませんよ。数ある取り柄のなかの一つですからね」


 得満面で胸を張るアルマ。

 彼女の言葉と笑顔に伊織の心も幾分か軽くなる。


 ポンコツでサボり癖のある彼女だが、この前向きの姿勢と明るさは伊織の支えとなっていた。

 それは伊織も承知している。


 口元に自然と笑みが浮かぶ。


「それじゃ、魔物を捕まえに行こうか」


「はーい」


 明るい返事が静かな森に響いた。

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