第14話 紅月-14


          * * *


 秋葉に呼ばれて柔道場の裏に回った。高い塀の行き止まりのその場所には、大勢の不良が集まっていた。秋葉は、学生服の間をかき分けてその中に入っていった。由起子は手招きされるがままに、ついて入った。

 視界の開けた正面にいたのは、田口だった。教室から持ち出したイスに腰掛けて秋葉を迎えた。そして、由起子にも笑みをくれた。由起子は恐縮しながら頭を下げた。と、田口の前に座らされている男が目に入った。吉村だった。由起子は驚いた。と同時に恐怖を感じた。何が始まるんだろう?まさか、みんなの前で決闘させられるのでは、と思い身震いがした。


 そんな由起子の硬直を解くように秋葉が由起子の肩を抱いた。

 そして、「心配しなくてもいいのよ。今日は、面白いものを見せて上げるだけ」

と告げた。由起子は、まだ硬直したまま首を動かし、辛うじて頷くことができた。


 ゆっくりと田口が立ち上がった。

「さぁ、レディもご来場なさったし、始めようか」

その言葉に歓声が上がった。周りの不良が手を振り上げながら、叫んでいる。その声は、狭い空間で反響して重い音となって響いた。由起子は身を竦め、秋葉に抱きついた。秋葉はしっかりと由起子を抱き寄せながら、同じように手を上げて歓声を上げている。由起子は場違いな気まずさを感じながら、ただおろおろと周りを見回すだけだった。

 田口は一歩前に足を踏み出した。そして、目の前で俯いている吉村を見下ろしながら、にやりと笑んだ。そして、周りの皆に向かってアジった。

「さぁ、みんな、聞いてくれ。こいつは、いままでは、準幹部だった。しかしぃ!事もあろうに、ここにいるこのカワイイ女の子にタコにされちまったぁ!」

ブーイングが吉村に襲いかかる。

「こんなことでいいのかぁ!」

 怒号が、吉村に投げつけられる。由起子はおろおろして、周りを見回した。誰も彼もが殺気立っている。何が起こるんだろう。不安で仕方なかった。

 田口は、吉村を見下ろしながら、続けた。

「この男を、降格させる」

歓声が上がった。そして、ドジン、ドジンというコールが上がった。


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