罰ゲームで訳あり美少女に告白してみた

太陽

第1話 始まり。


 ◆


 ここはとある高校の理科室。


 高校の制服を着た二人の男の子が張りつめた空気の中で将棋盤を挟んでいた。


 童顔の少年……大空 侑李(おおぞら ゆうり)が悔し気に声を上げる。


「ぐぬぬ……」


「王手」


「負けました」


「へへ、俺の勝ちだぜ」


 ユウリと対していた茶髪の少年……鵜飼 哲也(うかい てつや)がしたり顔で将棋の駒を動かした。


「はぁ、負けた。負けた……あそこで読み違えなければぁー」


「へへ、久しぶりに俺の勝利ぃー。勝ち63、負け65」


「くそー」


「負けたからには、最初に決めた罰ゲームを速やかに執行してくださぁーい」


「はぁー分かったよ」


「しかし、罰ゲームがあると脳が震えるわー。脳汁が迸るわー。早く次のやろうぜ」


「待て待て……罰ゲームを貯めるのは駄目だ。ちゃんとやらないと」


「へへ、確かにな。頑張よぉ」


「はぁーしかし、何で罰ゲームがスズカさんに告白することになるんだ?」


「おいおい、罰ゲームに対して後からグチグチ文句言うのは……」


「ダサいな。とりあえず、罰ゲームを今日執行するのは無理だから……とりあえず今日は帰るか」


「だな。帰るかー。へへ、明日のお前の告白が楽しみだぜ。動画撮っておいてやるから」


「動画はやめろ!」


「えーPチュウーブに流したら、金が入って来るかも知れんぞ?」


「絶対嫌だ」


「そうだ、次の罰ゲームのお題にとっておくか」


「あぁん? 次は絶対負けん」


「へへ、望むところだ!」


 ユウリとテツヤは将棋の駒と将棋盤を片付けて、理科室を後にするのだった。




 ユウリの自室。


「んースズカさんを呼び出すためにも、ラブレターを書かないとなぁ」


 ユウリは腕を組んで、机に置かれた便箋と向き合っていた。ちなみに、便箋には『久野宮 涼花(くのみや すずか)さんへ』としかまだ書かれていなかった。


「そうだ。読書感想文みたいにインターネットでそれらしい文章を拾ってくれば」


 バッグからノートパソコンを取り出そうと、手を延ばしたところで止まった。


「うむ……さすがに失礼か……しかし、罰ゲームで告白ってすでに失礼か」


 再び腕を組んだユウリは、眉間に皺を寄せた。そして、しばらく黙っていたが、フーッと息を吐いく。


「騙すのは嫌いだな。せめて、この手紙の中ではもし付き合えたらどうしたいかとか、真実を……ってどうせ付き合うことなど万に一つもないだろうが」


 ユウリは便箋の横に転がっていたシャーペンを手に取る。


「まずは下書きから……突然のお手紙申し訳ない……ってなんか硬すぎるか? 単刀直入に……会いたいです。放課後に校舎裏に来てほしい。もうここで告白の文にするか? 好きです。お付き合いしたいです……どれだけ好きか。付き合えたら……」


 それから、ユウリは夜遅くまでかかって、人生初のラブレターを書き上げるのだった。




 次の日の早朝。


「はぁー」


 ユウリは緊張した面持ちで学校の下駄箱の前に立っていた。


「はぁーよし……」


 意を決して久野宮 涼花(くのみや すずか)と書かれた下駄箱を開けたユウリは、昨日書いていたラブレターをその下駄箱の中に入れた。


「ハハ、やっぱり居たよ……ただ予想よりも早いな」


 突然、声を掛けられてユウリはビクンっと体を震わせて、声がした方へ視線を向ける。ユウリの視線を先にはスマホを構えたテツヤが姿を現した。


「はぁーなんだ。テツヤか……って何を撮っているんだ?」


「何って……今度、勝った時に公開する動画のためだよ」


「く、次は負けんから」


 ユウリはそう言うや、教室へ足を向けて歩いていった。テツヤもスマホを構えたまま付いてくる。


「へへ、次も俺が勝つんだ」


「何言っているんだ……っていつまで撮っているんだよ」


「動画。動画」


「はぁー」


「やっぱり告白は放課後? やっぱり場所は校舎裏?」


「そうだよ。ベタで悪かったな」


「やっぱりな。告白する意気込みなんかを聞かせてほしい」


「何言ってやがる。鉄の壁に当たって砕けろ……ってだけだろ?」


「ハハ、良いねぇ。良いねぇ」


「何が良いんだか……」


「楽しみだぜ」


「く、人がフラれる様を見て楽しむなし」


「分からねぇーだろ? 付き合えるかもしれねぇじゃん」


「分かるわ」


 ユウリとテツヤは教室へと入っていった。




 放課後。


「はぁー今日の授業、一個も頭の中に入らなかったなぁ」


 ユウリは自身を落ち着かせるように胸に手を置いて、廊下を歩き……約束の校舎裏へ向かっているようだ。


 その後ろからはスマホを構えたテツヤがついている。


「へへ、ちゃんと動画を撮っているから安心しろ」


「安心できねぇーよ。てか、付いてくるなよ」


「ちゃんと物陰に隠れているから安心しろ」


「だから安心できねぇーっての。将棋部の部室行ってろよ」


「それじゃ、動画『罰ゲームで百人斬りの美少女に告白してみた』の一番の見せ場が取れないじゃん」


「何タイトル、決めてんだよ。その動画は俺が今度勝から出ることなんて一生ないわ」


「待てよ? その動画を出すとしたら、す……クノミヤさんのインタビューも差し込みたいなぁ。後で、告白を受けた感想などを」


「あの……話聞いている?」


「よし、後で頼みに行こう」


「何がよしなん? 全然よくないよ?」


「そんなことよりも……アレって、クノミヤさん? もう待っているんじゃないか?」


 テツヤが指差した方には黒髪の長い女性が佇んでいた。なぜか……遠くからでもきらきらしたオーラのようなモノを感じ取れる。


 それを目にしたユウリは慌てた様子で走り出す。


「やば……」


「がんばれよぉ」

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