08.アタシの小さなご主人様_02

 氷の障壁の隙間から見える、マースの姿。寝巻からいつもの白いローブに着替え、愛用の青い杖を持って、怒りの形相で坂の上に立っている。その小さい身体からは想像できないくらいの、強い怒りの籠った足取りで、アタシを囲む兵士たちの集団にズンズンと近づいてくる。波が引くかのように避けて行く兵士達。避けた兵士達の中央を突っ切って、マースがアタシの前まで来てくれた。


「千歳姉様、遅れてしまい申し訳ありません」


 アタシに向かって優しい声でそう言って、アタシの周りの氷の障壁に向けて人差し指をクルリクルリと回し、氷の障壁を消していくマース。しゃがみ込んで泣いていたアタシに向けて、彼は微笑みつつ手を差し伸べた。


「うあ……ああっ……マース!!マース!マース!うわああっっ!!」


 アタシはマースの差し伸べてくれた手を取り、そのまま彼に抱き着き、またボロボロと涙を流し泣いた。

 彼はこうやってアタシのピンチに現れてくれる、アタシのヒーローだ。身体はちっちゃいけど、間違いなくアタシのヒーロー。嬉しかった、来てくれたのが嬉しかった。手を差し伸べてくれたのが嬉しかった。

 そんなマースはアタシの背中をぽんぽんと優しく叩きつつ、周りの兵士たちの方に顔を向け、怒りの形相で怒声を上げる。


「何故お前たちは千歳姉様に剣を向けている!?何故千歳姉様に弓を引く!?なんでこんなことをした!?言え!なんでだ!?」


 マースの怒声にまた動揺し出す兵士達。


「弓を下げろ!剣を納めろ!僕の千歳姉様を傷付ける事は、絶対に許さないぞ!!」


 マースはアタシを抱きしめながら、周りの兵士たちを怒鳴りつける。

 兵士達は、動揺しつつもマースの言う事を聞き、各々の武器を納めて行く。


「グレッグ!状況を説明しろ!」


 マースはまだ腕を負傷したまま倒れているグレッグに向け、声を張り上げて状況説明を要求した。

 恐らく折れているだろう腕を庇いつつ、上半身だけ起き上がりグレッグがマースを見て説明を始める。


「マ、マース様、その化け物が……私と兵士たちを……」


 そのグレッグの言葉を聞いたマースの表情が、怒りの形相から、冷たい、無慈悲な真顔に変わっていく。


 -キィィィン-


 そして詠唱も無いのに、彼の杖が青く光った。


 -ヒュゥンッ-

 -ドスッ!-


 マースの杖から2.5lペットボトルくらいの太さの円錐形の氷柱が1本出現し、グレッグの顔スレスレを掠りながら地面に深々と突き刺さった。


「グレッグ、もう一度千歳姉様を化け物と呼んだら、次はこの氷柱をお前の顔に当てる」


 マースは静かに、だけど身も凍えるような冷酷な声でそう言った。蔑むような冷たい目でグレッグを見ている。


(フラ爺?いや、違う、マースだ)


 アタシは一瞬、マースの顔を、彼とアタシの祖父であるフライアと、正真正銘の悪魔であるフライアと見間違えてしまった。それほどまでに今のマースは、冷たい、厳しい表情をグレッグに向けている。


「ひっ!?……っっ……はぁーっ、はぁーっ、はぁーっ」


 グレッグがマースの冷酷な声と視線に恐怖し短い悲鳴を上げた。極度の緊張状態に陥ったのか、過呼吸になってしまっている。マースから目を逸らし、苦しいのか手で胸を抑えながら荒い息遣いをしているグレッグ。あの様子ではしばらく喋れないだろう。


「今のは、無詠唱アイスバースト……?」


 向かいでマースの様子を見ていたジェームズがポソリと呟いた。恐らくは先ほどのマースが詠唱無しで氷柱を飛ばした現象の事を言っているのだろう。

 そんなジェームズの呟きを聞いたマースが、ジェームズに視線を変え、彼に説明を求める。


「ジェームズ!状況を説明しろ!何故こうなっている?」

「は、はっ!私は途中から来たため、私が到着してからの説明となりますが……」


 そう言ってジェームズは、アタシが昨日の本当の原因を話すと言って悪魔化するところから、マースがここにやってくるまでの状況を説明した。

 それを聞いたマースは、頭を抱え、彼に抱き着いたままのアタシに向き直る。

 そして開口一番、


「ダメじゃないですか!人前でいきなり悪魔化しちゃ!」


 アタシは18歳年下の少年に叱られた。


「千歳姉様!いいですか!?こういうのは普通段階を踏んで慣れて行くものなんです!いきなり悪魔化したら皆がびっくりするのも当然でしょう!?」


 今アタシは自分の半分も生きてない少年に叱られている。


「千歳姉様が自分が引き起こした昨日の件について言えず心に引っ掛かりがあって、本当の原因を皆に伝えて起きたかった、謝罪したかったと言う気持ちはわかります、それはとても素晴らしい事だと思います。ですが、この問題はとてもデリケートなのです。千歳姉様は知らなかったかもしれませんが、最近まで戦争状態にあったジェボード国の兵達はですね、人型から獣型に変身する、と言う特性を持った戦士たちなのです。ボーフォートの兵は獣人達と戦い、何百、何千人と殺されています。兵達が千歳姉様の人型から悪魔化すると言う特性を、ジェボードの戦士たちと混同し、敵と認識してしまうのも無理は無いのです。わかりますか?」

「う、うん……」


 地面にベタ座りのアタシの両肩をがっしりと掴んだままアタシを諭すマース。とても真剣な目でアタシに言ってくる。アタシは彼の手からは逃れられない。


「だから、父上がA級流着物の暴走って事にして、上手い理由を考え付くまで、兵達に打ち明けるまで時間を稼ごうとしたというのに。それを!当事者の千歳姉様が!自ら言ってしまっては!父上の配慮の意味が無くなってしまうでしょう!父上の頭をこれ以上ハゲさせるつもりなのですか!?」

「ご、ごめんなさい……」


 アタシの両肩を両手でぐいぐい揺らしアタシを叱るマース。アタシは悪魔の姿のまま、縮こまってマースに謝罪する。ボースの頭の事を言われてしまっては、アタシには返す言葉が無い。


「僕に謝るのでなく、兵達に謝ってください、いいですね?さ、立ち上がって」

「はい……」


 アタシはマースに促され、周りの兵達に謝罪するため、ゆっくりと立ち上がる。そして、アタシとマースを囲んでいる兵士達に向けて頭を下げた。


「皆さん、この度はアタシ、日高千歳がご迷惑をお掛けしてしまい、本当に申し訳ありませんでした」


 周りのみんなに向けて、深々と頭を下げるアタシ。


「みんな、この仕草は千歳姉様の元居た世界での謝罪の仕草になる。千歳姉様はちょくちょくこの仕草をするので覚えておいて欲しい」


(そんな頻繁に頭下げてるかなアタシ?ん、いや、下げてるかもなアタシ)


 マースのアタシが頭を下げる仕草の説明をしてくれている。アタシはこの世界でも無意識に頭をペコペコ下げているらしい。

 マースの説明とアタシの謝罪を受けた兵士達は、またざわめいている。


「ど、どうするよ?」

「いやしかし、見た目がなあ」

「でもマース様の説明聞いたろ?」

「うーん」


 まだ迷いがあるらしい。肝心のアタシが悪魔化しっぱなしなので戸惑うのもわかる。

 周りの兵士たちの様子を確認し、ケガをしている兵士たちに目線をやるマース。


「はぁ、とりあえず怪我人は野戦病院に行ってくれ」


 溜息を付きつつ、ちらほらいるケガをしている兵士達に向け、病院へ向かうよう指示するマース。ただ兵士たちのケガはほぼ氷の魔術の同士討ちの結果なのだが。


「自分で歩けるな?グレッグ?」


 すっかり過呼吸も収まって直立不動で立っていたグレッグにも、マースは病院へ向かうよう勧める。


「はっ、はいぃぃっ!」


 グレッグはマースに返事をしたが、声が裏返っている。まだ緊張しているらしい。


「あと、千歳姉様に最初に斬りかかったのはグレッグ、お前らしいな?後でじっくりと話を聞かせて貰う。首を洗って待っていろ。ほら、さっさと病院に行け」

「ひっ!おぉお許し下さいマース様!ひぃぃぃぃっっ」


 相変わらず厳しい物言いのマースに、完全に怯え切っているグレッグ。腕が折れているだろうにそのまま走って野戦病院のテントへ向かっていった。


(マースって、自分の従者や兵士達には割と厳しいよね。でもまあ目下の者たちにアタシやキートリーと同じような対応するのも逆に問題あるかもなのか。貴族って大変だなぁ)


 貴族社会なんて今まで縁が無かったのでアタシにはどういうものなのかはさっぱりである。とまあ余計な事を考えられる程度にはアタシは落ち着いていた。マースに懇々と叱られたのが効いたらしい。


「千歳姉様、とりあえず元の人間体に戻しますから、そこに膝立してください」

「はっ、はいっ!」


 今のアタシはマースへの従順度100%である。逆らうことなどできやしない。逆らうつもりもないけれど。そんな訳で大人しくマースの前で膝立する。


「いきますよー?1、2、3、終わりっ!」


 マースがアタシの腹、胸間、口元目掛けて、人差し指をクルクル回す。マースお得意の魔力解きである。アタシの魔力路の悪魔化スイッチが強制的にオフにされる。


 -パキィィンッ-


 ガラスの割れるような音と共に、アタシの角、肌、翼がバラバラに割れて、元の人間体のアタシの身体が出て来る。


「「「おおおおっっっ!?」」」


 周りの兵士達から、驚嘆の声が上がる。


「うおおっ!?肌が!角が!髪の色が!?人間に、戻った!?」


 ショーンも驚嘆の声を上げている。


「目が元に?なんと、マース様が戻したのですか?」


 驚きの声を上げながら、ジェームズがマースに事の状況を聞いた。


「そうだ、僕が千歳姉様を人間に戻した。千歳姉様の手綱は僕が握っている」


 緑色のおかっぱ髪をさらりと揺らしながら、兵士達の方に向き直るマース。


「千歳姉様はお前たちに危害を加えないし、例え危害を加えそうになっても僕が止める。万が一危害を加えてしまったとしたら、僕が責任を持って千歳姉様を処罰しよう。だから、普段は僕たちと同じように普通の人間として、接してあげて欲しい」


 マースは静かに、兵士達を諭す。

 だがまだ兵士達には迷いがあるようだった。


「で、ですが、マース様」

「と、言われても、なあ?」

「現にグレッグは吹き飛ばされた訳だし」

「うーん」


 イマイチ煮え切らない態度の兵士達。でも確かに、完全に人外、人間の範疇を超えているアタシが、のっそのっそその辺を歩いていたら落ち着かないのもわかる。自由に変身できる以上、アタシが自由に変身出来るのを見せてしまった以上、余計に心中穏やかではいられないだろう。


「まだ、信用できないっていうのか!?」


 -ゴンッ-


 そんな兵士達に苛立つマース。彼は怒りつつ持っていた杖を地面に突き刺す。かなり苛ついているらしく、彼は地面を杖でガリガリと削っている。

 ここでアタシは、妙案を思いつく。要はアタシが皆に危害を与えない、そういう保障が有ればいい訳だ。そうすれば兵士達も安心するだろう。そう思ってマースに聞いてみる。


「マース、その、私を縛り付けるような物、言う事を聞かせるような物、ギアススクロールみたいな、ああいうのがあればみんなも安心してくれると思うんだけど、ない、かな?」


 アタシは暗に、アタシに首輪をつけろとマースに言った。もう兵士達を安心させる方法はこれしかない。アタシが首輪で繋がれた犬になればいい。アタシが首輪で繋がれていれば、兵士達も安心できるだろう。猛犬注意じゃないが自分でもまだ悪魔化した身体について分からないことだらけで、一般人相手は危険だと思う。特に力、悪魔化した際のアタシの過剰なパワーは危険だった。昨日までは、普通に力を制御出来ていると思っていた、そのつもりでマース達と接していた。でも実際はアタシの心が揺らぐと簡単にその制御が外れてしまう。今回も身を守っただけのつもりでグレッグを吹き飛ばし、彼の腕を折ってしまった。アタシは媚香だけじゃない、力の制御、心の制御についてもよく理解しなければならない。じゃないと、いつかマース達までも傷つけてしまう。


「……あることは、あるんですけど」


 アタシの提案に、マースはやや困ったような様子の表情でアタシを見上げる。


「じゃあ、それを、私につけて?」


 アタシは即答し、マースに頼む。


「でもあれは……。分かりました。ジェームズ、僕の道具箱からマスターリングとサーヴァントチョーカーを持ってきて」


 マースは少し悩んだ後、ジェームズに何かを持ってくるよう指示した。


「畏まりました、マース様。こら、お前たち、ちょっと避けてくれ、このままでは通れん」


 マースの指示を受けたジェームズが、集まっている兵士達をかき分けて外に出て行った。


「ねえマース、今言った物ってどんなアイテム?」


 マースが言っていた、マスターリングとサーヴァントチョーカー、これに単純に興味が湧いたので聞いてみた。


「本来は、主人が従者に強制的に命令を聞かせるための魔法具です。指輪と、首輪、それで一対のモノになります」


 そう言ってマースは自分の右手の人差し指の根元を掴んでアタシを見る。


「あっ、あれはギアススクロールと違って常時魔力を帯びている訳では無いので、悪魔化暴発の危険は少ないと思います」


 アタシがギアススクロールで暴走した事を思い出したのか、マースは両手をひらひら振って弁解している。


「従者……それを付けたらアタシはマースの従者?」


 サーヴァントって何のことかと思っていたが、なるほど、従者の事だ。マスターはそのまま主人。アタシはマースのサーヴァントになるという事だ。


「対外的には、そういうことになりますけど、千歳姉様は千歳姉様です。それに、チョーカーを付けているのは、兵士達が千歳姉様に慣れるまで。皆に千歳姉様が危険ではないという事が周知されれば、すぐにでも外します」


 マースはそうアタシに説明しつつも、どこか浮かない顔だ。実の従姉弟であるアタシを従者にさせると言うのに気が引けているのかもしれない。


「アタシが従者なら、マースはアタシのご主人様?」


 アタシはそんなマースの浮かない顔を見つつも構わず質問を続ける。悪魔のアタシがサーヴァント、魔術師のマースがマスターだ。これでマースの手の甲に赤い紋章でもあれば、完璧に某聖杯を巡る争いのアニメの登場人物になる。ただアタシは英霊じゃない正真正銘の悪魔なので、あの闘いに呼ばれる資格は無いのだが。


「ええ、そうなりますが、あくまで兵士達が慣れるまでの間だけです。千歳姉様が僕を主人として見る必要はありませんし、僕もそんな命令を下すつもりもありません」


 マースは今まで通りの関係を続けるという事を強調してくる。


(そんなに念を押さなくても、別にアタシは気にしないんだけど)


 そうこうしているうちにジェームズが赤い宝石の付いた指輪と同じく赤い星飾りの付いたリボンのような物を持って戻ってきた。


「マース様、これを」

「ジェームズ、ありがとう」


 ジェームズから指輪とリボンを受け取ったマースが、赤い宝石の付いた指輪を自分の右手人差し指に付けた。そのままアタシに向き直る。


「千歳姉様、このチョーカーを付けたら、千歳姉様は僕の言葉に逆らえなくなります」


 マースがそう言ってアタシに説明してくる。やはりどこか気が引けると言った顔だ。


「うん、わかった。それじゃ、ん、付けて」


 アタシは特に悩みもせずにマースの前で立膝し、目を瞑って両手を組み、彼に首を差し出す。

 そんなアタシを見て、マースが焦り出した。


「いいんですか!?僕の言う事に逆らえなくなっちゃうんですよ!?どんな命令でも、聞かなくちゃいけなくなるんですよ!?」


 何故かアタシではなくマースが動揺している。


(なんで主人の方が動揺しているんだろ)


 確かに他人の好き勝手な命令に逆らえなくなると言うのは怖い気はするのだが、主人になるのはほかの誰でもないマースである。アタシは何も怖くないし、むしろマースに首輪を付けて貰えるなら願ったり叶ったりだ。そっちの方がアタシも安心できる。だからアタシはこんなことを言う。


「アタシのご主人様になって、マース」


 アタシは目を瞑ったままマースに口元を緩ませて頼み込んだ。

 そんなアタシの言葉を聞いたマースが、少しの間、沈黙する。

 周りの兵士達のざわめきの声だけが聞こえる。


「……後悔、しませんか?変な命令、しちゃうかもしれませんよ?」


 少し屈み、目を瞑るアタシに顔の高さを合せて真剣な声でマースがアタシに語りかける。


「しないよ、マースにならどんな命令をされたって、アタシは構わないよ」


 アタシは目を瞑ったまま、マースに首を差し出し続ける。


「……わかりました。じゃあ、千歳姉様にこのチョーカーを付けます。ただし!あくまで!みんなが千歳姉様に慣れるまでの間だけです!みんなが慣れたら外しますからね!」


 マースがアタシにチョーカーを付ける決意をしてくれたようだ。ただ念を押すように、みんながアタシに慣れたら外す件について言っている。


「えぇー、ずっとアタシのご主人様でいてくれもいいんだよぉ?」


 アタシは片目を開けてマースを見てそんなことを言う。アタシはからかい半分、本気半分だ。マースさえよければ、アタシはずっとマースのモノでいい。もうアタシの方が年上で子どものマース相手にはしっかりしなきゃとか、子ども相手に頼ってて悔しいとか、そんな感情は無くなっている。アタシが下で、マースが上だ、間違いない。まだマースと会って一日と短い時間しか一緒に居ないけれど、アタシの中でのマースはそれほどまでに大きな存在になっていた。なんならこのまま彼に一生を捧げたい。アタシの心も身体も好きにしてもらっていい。ううん、好きにしてもらいたい。勿論メグを助けてから、だけど。


「ダメです!兵士たちが慣れるまで!そういう契約ですからねっ!ほらっ!付けますからっ!」


 顔を真っ赤にして否定するマースが見える。彼はこれ以上アタシが余計な事を言わないよう、さっさとチョーカーをアタシの首に巻き付けた。


 -キィィィン-


 すると、マースの右手の人差し指についている指輪の赤い宝石と、アタシの首に巻きつけられたチョーカーの赤い星飾りが眩しく輝いた。アタシは眩しくて両眼を瞑ったが、間もなく光は収まったので改めて自分の首のチョーカーを触って確かめた。


(布っぽいけど、変わった質感だな、黒い布製の帯に、真ん中に赤い星飾りが付いてる。あ、この星飾り、小さな赤い宝石が散りばめられてるのか)


 触ってみた感じ、バックルというかボタンと言うか、留め金に当たる物がない。後ろ側も触って確かめてみたが、結んだ後も無い。完全にリボンがアタシの首回りを綺麗に1周して巻き付いている。そして引っ張ろうとしてもリボンに掴むところが無い。


(あれ?首と同化してる?どうやって付けたんだろこれ。あ、そういう魔法のアイテムなのかな?)


 魔法ならなんでもアリである。アタシはそういうことで納得した。

 アタシが自分のチョーカーを確認していると、マースがアタシに右手指の指輪を見せて来た。


「千歳姉様、試しにこれから幾つかこの指輪の力を使って千歳姉様に命令をします。指輪の力で強制的に身体が動いてしまいますが、どうかご容赦ください」


 真剣な顔をしたマース。アタシの小さなご主人様だ。アタシは彼に笑顔で答える。


「いいよ、マース。準備はできてる」

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