第13話 父の面影
後ろに紅葉ちゃんを挟んで、右に椿、左に生野。俺は助手席に乗り、
パトカーを運転する刑事さん。彼の顔には見覚えがあった。
場違いかもしれないが、俺は思い切って刑事さんに質問した。
「あの……刑事さんって、あの堂宮さんですか?
「そうだが……なぜその名前を?」
刑事さんはルームミラー越しに俺を眺めた。
「俺……金谷警部の息子なんです。たぶん、刑事さんともあったことがあるかも」
そういうと刑事さんはハッとしたように、ルームミラーの俺を眺める。
「え、じゃあ君、
「……そうです……お久しぶりです」
俺の声を聴いて、刑事さんの声が若干明るくなった。
「なんと。偶然な巡りあわせもあるんだねえ。……顔つきがどこか金谷警部に似てきた気がするよ」
「そうですかね」
「いやあ、もう十年も経つんだなあ。早いなあ。常盤にいるってことは、地元に就職したのかい?」
「ま、まあ……」
複雑な理由がありすぎて、ここでは言えない。
刑事さんと最後に会ったのは中学の時――確か、父さんの葬儀の時だ。
堂宮刑事は俺の父、
父さんとは親しい間柄で、プライベートでも一緒に飲みに行ったり、麻雀をしたり、日本海に釣りに行ったり――と交流が多かったのだ。俺も父さんに連れられて一緒になったこともあった。
気を取り直し、堂宮刑事は俺に問いかけてきた。
「でも、なんであんな所にいたんだい?」
俺は一瞬発言をためらった。俺たちには守秘義務がある。そして、情報を開示するかどうかは、ときわ探偵事務所の所長である神原椿が決めることだ。
だが、いずれ事情聴取で話をしなければならないだろう。
椿は言っていた。時によってはこちらから情報提供しないといけない。
しかし、俺がいろいろ悩んでいると椿が口を開いた。
「私たち探偵やってて、生野さんからお姉さんを捜してほしいと依頼を受けてたんです。ただ、今朝方、生野さんから連絡があって現場に向かったら……」
「遺体があったんだね」
「はい。たぶん、御存じだと思いますが半年前からお姉さんが行方不明だったんです。最後の目撃情報がこの近くだそうで、私たちも聞き込みをしたんですが、誰も知らないみたいで……」
「そうか……まあ、詳しいことはあとで聞くから、その時にも教えてくれ」
***
常盤署は俺たちの事務所から駅を挟んで反対側に立地していた。
事情聴取といっても形式的なものだった。何か問い詰められるわけでもなく、カツどんが出てくるわけでもなく――
椿も依頼のことを話すことは了承していたが、内容を刑事さんに告げたのは彼女だった。
椿は冷静に受けた依頼と、これまでの経緯を話していた。
一方、姉の美幸さんの遺体は検死に回されていた。しかし、少なくとも死後半年以上経過していることから、原因の特定は難しいだろうとのことだった。
一方、生野はただ茫然と座り込むだけで、ほとんど話してくれなかった。たまに紅葉ちゃんがなだめていたが、彼女にも反応しなかった。
やはり、事件のショックで放心状態となっていたのだ。
事情聴取が終わったのはお昼前。
駅前でとぼとぼ歩く生野を心配して、椿は彼女に付き添っていた。
「樹里、私、家まで送るから」
「ありがと……でも、家すぐそこだし……」
「いいって」
「でも、車は……」
「後で取りに行くから! 余計な心配しなくていいの!」
椿は気にしないでというように笑顔を見せていた。彼女は親友である生野の心境に気を使っているのだ。
俺も、隣にいる紅葉ちゃんも生野の心の負荷が少しでも軽くなることを願ってやまなかった。
結局その日は椿が生野を送り届けた。
俺と紅葉ちゃんは先に事務所に帰ることにした。
***
それから二日間。特に何事もない日が続いた。
家での母さんとの世間話は堂宮刑事との再会の話が中心だった。母さんも刑事さんと、父さんとの思い出話を楽しそうに語ってくれた。
刑事さんは俺たちと警察の窓口になってくれるかもしれない。しかし、俺たちが調べている“人生をやり直せる薬”については期待できそうにもない。そもそも、警察がこの事件に乗る気でないからだ。
美幸さんの遺体発見から三日後、ネットで配信されたニュースによると、神社で見つかった女性の遺体は歯の治療痕と失踪当時の服装から、
ニュースを読んだとき、俺は身震いした。被害者が受けたであろう屈辱的かつ尊厳を奪っていった仕打ちを断片的ながら垣間見た気がした。
俺は男だから想像には限界はあるが、これを妹の樹理が知ったらどう思うか……。
夕食を済ませて部屋に戻ると、スマホが鳴っていた。画面には、【
「もしもし? こんな時間に電話なんて珍しいな」
【リツ……夜遅くにごめんね。どうしても話したいことがあって】
電話越しに椿の不安に駆られた声が漏れていた。
「どうした?」
【樹里が、いなくなったの】
「え?」
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