第32話 No.1
まさか、加藤重秀が出てくるとは。あ、でも、もしかしたら味方かもしれないし、
「あの、加藤さん。あなたは今、誰の元で動いているのですか?」
「あれ? お前らは知らないのか? 俺は今、破界の国のナンバー1だ。」
「「「えぇー!! 」」」
ってことは、シゲが前に言っていた、神谷に協力する強者は、加藤のことだったのか! 私達3人は、自然と後ずさりしていた。
「逃げるのは、オススメしない。」
こいつはやばい。まるで言い馴れているかのような、今放った言葉からも、殺気を感じる。肌がピリピリするような殺気だ。今まで、何人を殺してきたのだろう。きっと、逃げたら殺される。
私だって怖いが、戦いというものに馴れていない、石井と新米くんは体を震わせながら、立ちすくんでいる。少しでも安心させようと、二人の震える手をとって、
「私が時間稼ぎをするから、二人は逃げて。」
「でも、前みたいに、舞衣様が生贄になるようなことは。」
「大丈夫。もう二度とあんなことはしない。それに私は強いから。」
二人は私の言葉を信じて、意を決して逃げ出した。
「二人を逃したか。まあいい。お前よりかは弱そうだったしな。それで、俺は俺の自己紹介をしたが、お前はどうなんだ? 名前は? 強いのか?」
心なしか、加藤が私の回答を楽しみに待っているように感じる。
「私は隼翔の国王、浅霧舞衣だ。」
「浅霧舞衣って、あの鉄を切れるとかいう女か。」
「あぁ、そうだ。私のことだ。」
「それなら、刀を抜け。話ではその刀は青いらしいからな。」
「残念だが、お前の言っている刀の天の羽衣はもうボロボロになって、使えないんだ。だから、今はこの黒い刀を使っている。」
「そうかそうか。女王様は、わざわざ影武者をよこして、様子見か。とんだ臆病者だな。」
「だから、その女王が私だ。」
「そこまでいうのなら、戦えばお前が女王なのか偽者なのか分かる。」
月明かりが、雲に隠れて遮断された。あたりは夜の闇に包まれている。
誰もいない静かな荒野で、2つの影が動き出す。
私は柄(つか)に手をかけながら、地面を蹴り進めていく。
まずは、相手の強さを測るため、陽梅で連撃。火花を散らすように、刀と刀が鈍い音を立てながら、ぶつかり合う。私の果敢な攻撃に加藤はピンポイントで防御をする。
小回りの利く私は、縦横無尽に駆け巡り、相手の死角に入っては隙をつく。加藤の服を切ることはあっても、かすり傷すらつけることはできない。
ん?なんだろう。なんか、違和感がある。何か変だ。一旦飛び退いて、一息ついた。
戦いの続きが始まる数秒の間に思考を巡らせたが、その違和感がなんなのか私には分からなかった。
だから、私はもう一度刀を振り始める。何度打てども、答えでも知っているかのようにガードされた。
ここで、ようやく加藤が動き出した。今まで防戦一方だったが、一度私から離れ、刀をしまった。
すると、柄に手をかけ、鞘から刀が静かに顔を出したと思った時には、真一文字に払うように一閃。切先は疾風のごとき速さで、私の目の前の空気を切り裂いた。
まるで、ホームラン王による渾身の一撃と言ったところか。
こえーよ。死んだかと思ったわ。タイトルが「次回 舞衣様 死す」になるところだったわ。
私がたじろいでいる間に、加藤は距離を詰め、刀を振りかぶっている。そのまま、雷が落ちるように、振り下ろされた。私は避ける余裕もなく、命がけで刀で止めた。
なんだ、腕が骨折しそうなほど重い、この一撃は。なんとか気力で持ちこたえたが......
そのまま両者、拮抗し、鍔(つば)迫り合いになった。その時に、ようやく違和感の正体が分かった。加藤の使っている刀には刃がついていないのだ。疲弊した腕を休ませるために、加藤から一定の距離を保った。攻撃されても避けられるくらいの。
「おい、加藤。お前の刀には刃がついてないじゃないか。それに、ずっと片手で刀を振っているし、舐めてるのか?」
「そりゃそうだろ。お前弱いもん。というか今までに俺に両腕を使わせたのは、剣聖と呼ばれたお前の父親だけだ。」
「父だって!? 私のお父さんと戦ったことあるのか。」
「まあ、勝ったのは俺だけどな。その戦いであいつは英雄と讃えられ、俺は何か言われるでもなかった。」
「お前が父さんを殺したのかっ!」
「まあ、そうなるな。」
あんだけ強いお父さんが殺されるわけないと思った。例え大量の敵に囲まれたとしても。
もう、この戦いは、私と加藤だけのものじゃ、なくなった。これは、父と波流の国の人達の因縁の戦いだ。
私にできる最大の攻撃は、間違いなく、父との戦いの最後にした動きだ。
それしかない。そう思って、まずは少し距離をとって、走り出し、加藤と3mくらいのところで、走りながら鞘を加藤の顔めがけて投げて、その後、瞬神李飛を胴目掛けて撃とうとした。
が、その時気づいた。父は刀を両手で持っていたから、鞘を刀で打ち落とさないといけなかったが、加藤は片手で刀を構えながら、もう片方の手で私の投げた鞘をキャッチした。そして、私の攻撃が届く前に、私の右脇腹に刃のない刀で、会心の一撃を加えた。
攻撃の瞬間、加藤の目が赤く光る鬼のように見えたのは私だけだろうか。こいつには勝てない。こんなバケモノには。
私は、この時初めて吐血というものを知った。自分の臓器が握りつぶされるような激痛だ。この一撃で気づいた時には、私は10m程飛ばされて、硬い地面に体がめり込んでしまいそうなくらい、強く打ち付けた。
意識が朦朧としている私に加藤は近づいて来た。加藤の顔を見ただけで、怖くて怖くて、勝手に体が震え、冷や汗も吹き出していた。それに、あばら骨も何本か折れていた。鋭い痛みのせいで立って、逃げることもできない。
近づいて来た加藤は倒れている私に、
「やはり、お前は偽者だ。俺のことを楽しませてくれた剣聖の娘ならば、こんなに弱いはずはない。それに、俺がずっと本気を出していなかったのに、傷一つつけれないなんて、雑魚だ。なんで、お前が弱いか教えてやろう。お前の攻撃は早いが、単調で面白くない。だから、弱い。やはり、俺の相手になるのは、きっとお前のところの女王しかいない。女王に会ったら、伝えてくれ。次はお前だ。と。」
そう言って、私にとどめを刺さず、帰って行った。
最後まで私は、なめられていた。それに加藤は、私が隼翔に帰ることを簡単そうに言うが、もうダメそうだ。今の私には動く力もない。
そのまま私は、人里離れたこの土地で倒れたまま、重いまぶたが闇へと誘った。
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