第27話 始動

 グランギウス王国との戦いが終わってから、半年経った。その間、日本では大きな戦いが起こらず、私達はずっと平和に過ごしていた。だが、私達には確かに平和なように見えていたが、水面下では確実に魔の手が動き出していたのである。


_____


 ある日、私は誰もいない会議室で一人、大きな机とにらめっこしながら、椅子に座っていた。会議室の椅子は他の椅子と違って、ふかふかして気持ちいい。だから、たまにこうやって一人で座りにくるのだ。座っているだけだと暇なので、ニワトリのモノマネをしていた。


 すると、ドアが開く音が聞こえて、とっさに私はモノマネをやめた。


 入ってきたのは田中だった。田中は、足が速くて、よく伝令や使節として働いてくれる、だけど、少し臆病な、そんな子だ。


「あの、舞衣様。今暇ですか?というか絶対、暇ですよね。」


 もしかして、こやつ、私のモノマネを聞いておったのかっ!


「本当はすごい忙しいけど、仕方ないから田中のために時間を作ってあげよう。」


 恥ずかしさを隠すために、なぜかすごい上から目線で私は言った。田中の方が私より少し年上だけどね。


「舞衣様、知ってますか?噂によると、最近、中国地方の『雷轟』、四国地方の『聖龍』、九州地方の『鋭美』の三ヵ国が同盟とかじゃなくて、一つの国になったらしいですよ。」


「え!?あの、いがみ合っていた三ヵ国が?」


「私は、その噂は絶対に嘘だと思います。」


 景泰が会議室に入ってきて、一言そう言った。


「景泰もそう思うか。でも、私はありえなくはないと思ってるんだよね。」


「どうしてですか?」


「だって、隼翔があまりにもでかくなりすぎたからさ、それに対抗するために。」


「確かにそうですね。いやでも、私は嘘の方に賭けます。」


「何を賭けるの?」


「じゃあ、閃拳の国の最高級茶葉を賭けます。」


「お、いいね。じゃあ、私は本当の方に、自分で頑張って育ててる枝豆を賭けよう。」


「ちょっと、不釣り合いじゃないですか?」


「え?どっちも緑だから一緒だよ。田中はどっちに賭ける?」


「うーん。俺はやっぱり嘘の方に賭けようかなぁ。」


「自分で本当のことのように言い始めたのに、嘘の方に賭けるの?」


「だんだん自信なくなってきちゃったんですよ。景泰さんが最高級茶葉なんて賭けちゃうから。」


「それで、何を賭ける?」


 その時、ちょうど新田開発から帰ってきた由比と、たまたま居合わせた慶護が話に入ってきた。


「なんか、面白そうなことやってますね。」


「今ね、雷轟、聖龍、鋭美の三ヶ国が一つの国になったっていう噂が本当か嘘か賭けてるんだ。」


「そんな噂あるんだ。知らなかった。」


「ちなみに、どこが勝って合体したんですか?」


 由比が私に向かって聞いてくるから、田中の方に両手を向けて、話すように促した。


「それが、戦じゃなくて、話し合いで一つの国になることが決まったらしいですよ。しかも誰がトップに君臨しているのか誰も知らないらしいですよ。」


「それならおそらく本当です。」


 今度はシゲが話しに入ってきた。


「蒼天がその三ヶ国にやられたという報告がさっき入ったので、確実かと。」


「蒼天がやられたのか!?」


「まあ、やられたといっても、壊滅というわけではなく、戦で一回負けただけだそうです。」


「それなら、蒼天と早く合流した方がいいかもしれないな。」


 そう言うと、みんな同じタイミングで頷いていた。仲良しかよ!


「それと、その三ヶ国と話し合いすることはできないのか?」


 みんなが難色を示していた。すると、田中が何かを決心したかのような表情で、


「それならその役目、俺にやらせてください。」


私は、あの臆病な田中が自分からこんな役目を引き受けるとは思わなかったので、みんなこの1年間で成長してるんだなとしみじみ感じた。そして、最終確認ということで、念のためもう一度聞いた。


「いいのか?危険だぞ。」


「大丈夫です。危ないと思ったら、俺は俊足で逃げれるので。」


「まあ、そういうことなら、田中に任せる。」


 田中はすぐに準備に取り掛かりに会議室から出ていった。


 その後田中に相手に見せる国書を持たせて、さっそく別れを告げた。

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