第38話
「勝者、前田 正義!! 果たして彼の快進撃はどこまで続くのかーーーー。乞うご期待! ……………ってことで。ふわぁ~、眠い。先輩に報告したら、今日は早退しよっと!」
審判役の茶髪女は、僕達を放置して消えてしまった。
……………………。
………………。
…………。
約束通り、対戦相手からカードを奪い返した。ハルミが所属する組織『ヴァルカン』の武装兵にタワーから追い出された奴の背中が、小刻みに震えていた。糞野郎だと分かっていたが、それでも追手からなるべく長く……彼が逃げ続けられることを願ってしまう。
「外に何かあるの? 早く遊ぼうよ」
僕は、黒魔導師の少女と遊んでいた。
「あぁ……ごめんごめん。おままごとだったよな」
パンっ!
少女が手を叩くと、目の前が真っ暗になった。
『パパのおままごと。私に見せてねーーーー!!』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
夢の始まりーーーー。
この高校に転校して良かったことが二つある。一つは、親友と呼べる友達が出来たこと。もう一つは、彼女に出会えたこと。
「あのさ……今日、告白しようと思うんだ」
「へぇーー、告白? 頭も顔も悪いお前が?」
「………うん。頭も顔も悪い僕がだよ」
「誰に告白するんだ?」
「それは」
「あっ!! 分かった。名前忘れたけど二組の巨乳、美化委員」
「違うよ……。三年のさ、鮎貝先輩」
「はぁ? あゆがい? 鮎貝って、鮎貝 歩夢かよ。 バカッッ!! お前、あの人は、やめとけって。絶対っ!!」
告白することを友達の河合に話したら、なぜか猛反対された。悪友の顔は、いつもと違い真剣そのもので、本気で僕を止めようとしているのが分かった。
「おいっ!! 待て、前田」
友達の忠告を無視し、僕は教室を飛び出した。
この想いを伝えないと一生後悔する。それだけは、バカな僕でも分かったから。
鮎貝先輩の行動パターンを完全に把握していた僕は、先輩が夕方のこの時間。誰もいない(入ってはいけない)屋上にいることを知っていた。
ギィィィ…………。
屋上に繋がる扉。その鉄扉を静かに閉め、先輩にゆっくり近付く。
「あの………」
先輩は、屋上のフェンスに寄りかかって、山に沈む夕焼けを見ていた。映画のエンドを見ているような切なさがある。
「誰? あなた」
「あっ……二年の前田です……」
「私に何か用?」
「えっ……と……」
「ないなら出てって。一人にして」
「……………」
この場を去ろうとした僕の足が、【後悔】【腰ぬけ】とゴシックで書かれた冷たい鉄扉の前で止まった。
「好きなんです。先輩が。だから……。だから、僕と付き合ってください……」
「……………」
捨て台詞のような告白。完全に失敗したと落ち込む。
「いいよ」
「えっ!?」
聞き間違いかと思ったが、そうではなかった。その日、僕に初めての彼女が出来た。人生最良の日になった。
次の日。笑いを堪えながら、河合に話した。
「正式に先輩と付き合うことになったよ」
「はぁ~、あれだけ止めとけって言ったのに……。お前は、転校してきたから知らないだろうけど、あの先輩と付き合うと皆不幸になるんだよ。結構、有名な話だぜ? ほんっと、お前ってバカだな………」
一ヶ月もたたないうちに、僕は確信した。河合の言葉が、真実だったことを。
先輩と付き合い始めると頻繁に怪我をするようになった。ほぼ毎日、命の危険を感じる事故にも遭遇する。
一番怖かったのは、他の人には見えない黒い煙のようなものが見え、例えば足にその煙がつくと必ず後で足を怪我した。
でもーーーー
僕が先輩との関係に限界を感じたのは、決して自分が不幸になったからではない。それは違うと断言できる。僕だけなら、いい。
僕だけなら、まだ我慢出来た。
河合が、学校に来なくなった。あの元気だけが取り柄のサッカーバカが、入院した。後日、見舞いに行き、狭い病室で僕は見た。河合の胸の辺りにあの黒い煙が蠢いているのをーーー。河合がこうなってしまった原因は、僕にある。今も僕の両足から、彼の体に黒煙が移動し続けている。
【 この不幸は、僕だけでなく周りの人間にも伝染する 】
「なんだ、来たのかよ~。しかも……手土産は、なしか? 今日は、どうした?」
「………………ごめん」
「は? なんで、お前が謝るんだよ。意味分からねぇ。ところで、最近どうよ。先輩とは、もうエッチした?」
「………してなぃ」
「ふ~ん。そっか、そっか。まーだ童貞君のままか」
「……………」
「…………………」
居心地の悪さに耐えきれなくなり、逃げるように病室を出た。弱っていく親友をこれ以上見ているのも辛かった。
すぐに学校に行き、屋上の住人。鮎貝先輩に謝り、別れることにした。
「いいよ」
先輩は、付き合う時も別れる時も一緒。僕に対する未練は、感じなかった。こうなることを初めから分かっていたんだろう。
でもーーー。
「…………」
でも本当は、気づいていた。
先輩が、僕に隠れて声を殺して泣いていること。
「ごめんなさい」
僕には、あの時と同じ夕焼けに謝ることしか出来なかった。
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