第25話

胸騒ぎがしたーー。


小走りから、全力走りに。急いでタワーに戻ると、ネムと鮎貝が忙しく走り回っていた。


「どうした? 何かあったのか」


「今まで……どこ行ってたの?」


突然、ネムに抱きつかれた。


「散歩だよ」


「酷いよ………。黙っていなくなるなんて……」


「ごめん。二人とも寝てたからさ」


頭を撫でながら、柔らかい髪をかき上げる。最後にもう一度だけ、抱きつくネムの目を確認して………。


僕は、ネムの細い首を両手でギリギリと思い切り締め上げた。


「いっ!? ど…う…して……?」


「前田さんっ!? 何してるんですか!!」


走ってきた鮎貝に服を引っ張られた。それでも手の力を緩めない。


「ネムの首筋には、小さなホクロが二つあるんだよ。背中側で目立たないから、気付かなかったみたいだな。詰めが甘いよ、お前」


「ホクロ……? ふ~ん。そうなんだぁ」


ネムの偽者は不気味に笑い出し、次に容赦なく僕の腹を殴った。


「ぐっ!」


痛みに耐えながら、それでも手を離さない。


「ネムを…かえ…せ」


何度も何度も何度も何度も腹を殴られ、意識が飛びそうだった。左手を前に出し、相手の運を吸い尽くそうとしたが、なぜか相手からは運自体、全く感じない。


「無理無理。オレは、人間じゃないから」


偽者は、鮎貝に標的を移した。その拳を鮎貝を抱き締める形で背中で受けとめる。


「逃げろ」


「………逃げたく…ありません……」


鮎貝は唇を噛み締め、泣くのを我慢していた。



ザジュッ!!


偽者の首が、天井近くまで弾け飛ぶ。

首なしの胴体からは、血しぶきではなく、『綿』が溢れていた。

両手を刃に変異させた少女が、音もなく立っている。生物兵器のララだった。もちろん、隣には闇商人もいて。ナイフで刺したハムを頬張っていた。


「今度のマスターは、弱っちいわね~。こんなんじゃ、一週間も生きられないわよ」


「……ありがとうございます。バンバさん。ララもありがとうね」


ララは、あわててバンバの陰に隠れてしまった。とってもシャイみたいだ。


「コイツ……何者か知ってますか?」


「コイツは、ただの人形よ。パペットマスター、奴が作った『生きた人形』。正ちゃんの今度の敵は、パペットマスターのカードを所有しているあの子ね。今のままじゃ………………たぶん死ぬと思う」


「えっ!? 死ぬ?」


ダダダダダダダッ!!!!


すごい勢いで、僕に抱きつく本物のネム。その、あまりの勢いに床に倒れてしまい、背中を強打した。


「ダーリン………」


「……………ネム」


二人の想いが通じあった、そんな数秒。


「ちんたら話してないで、早く助けにこんかいっ!!」


久しぶりに可愛い尻尾でビンタされた。懐かしい痛み。


「この獣人、風呂場で縛られてたから、シャワー浴びるついでに助けたわよ」


闇商人って呼ばれてる割には、良い人なんだよなぁ………。


「私。軽く五百人は殺してるから、良い人ではないわよ」


極悪人だった。

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